Take the JAZZ Movie
(2003 / 日本 / 亀田幸則)
ガキは『13通目の手紙』を観んでいい!

高野 雲

 “切腹”が好きだ。
 もちろん晩年の三島由紀夫がはまったプレイ(?)ではない。
 映画の『切腹』(監督:小林正樹/出演:仲代達矢、三國連太郎、丹波哲郎ほか)のことだ。

 どうして好きなのかを自分なりに考えてみたが、きっと“会話”によって“出来事”の全貌が少しずつ浮き彫りになってゆく様がスリリングで面白いからだと思う。
 くわえて、場面転換がほとんど無いこと。もちろん、回想シーンや格闘シーンは別だが、この映画のほとんどのシチュエーションは、井伊家の藩邸の庭で繰り広げられるセリフ劇が中心となっている。そういった意味では演劇に近いかもしれない。
 カメラもほとんど動かさずに、長方形の画面の中にビシッ!と人、建物、背景が計算され尽くした構図でレイアウトされ、浪人の武士によって明らかにされてゆく衝撃の事実。

 これと同じ手法と内容を『13通目の手紙』からは感じた。
 この映画も、“会話によって事実が少しずつ明らかになってゆく”過程と、“一つの事実も、人によって捉え側面が違うのだ”ということが面白いほど実感できる、知的でスリリングな展開を楽しめる“大人の映画”なのだ。
 一言、とても楽しめた。

 舞台は、とあるジャズバー。というよりも、非常に演劇的な内容の映画で、この映画の舞台の9割近くがこのバーの店内だけだ。
 ここで交わされる“会話”と人間模様をたっぷりと楽しむことの出来る111分なのだ。

 この店の壁面に飾られているのは、有名なジャズの名盤14枚。しかも、どれもが貴重で高価なオリジナル盤ばかり。
 14枚目の『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』の10インチ盤の紛失と、それにまつわる1年前の事件をめぐって、様々な事柄や意外な事実が浮き彫りになってゆく。
 浮き彫りになるのは、事実だけではなく、その場に居合わす20代前半から70代までの様々な世代の人間模様と人間性。異なる価値観と職業、生活を送る老若男女の生き様が繰り広げるインタープレイとでも言うべきか。

 めまぐるしく変わる展開、局面。緊張と弛緩を繰り返す店内の空気。
 まるで自身も15人目の客となって、その場に居合わせているような感覚におそわれる。

 これは、なかなか面白い試みの映画だなと思った。
 冒頭に例を挙げた『切腹』は、会話とともに、回想シーンも巧みに織り交ぜることによって観る者の好奇心を満たすが、『13通目の手紙』にいたっては、本編が始まると“事件についての回想シーン”は、まったく挿入されない。
 探偵、芸能プロダクションの社長、新人タレント、フリーのプロデューサー、常連客、ウエイトレス、編集者、常連の若者たち、老人、マスター、マスターの友人らが繰り広げる会話の一つ一つが堆積することによって、少しずつ観ている者が“出来事の全貌”を把握出来るような構造になっている。

 たとえば、京極夏彦の「京極堂シリーズ」のファンならば、“結論に至るまでのじれったさの快感”というものを分かっていると思うが、『13通目の手紙』も“じれったさの快感”を心ゆくまで味わえると思う。
 そういった意味では、性急に結論を求めたがる人、「で、だから、ズバリいったい何が言いたいの?」とか「結論から話してよ。で?要点は一体なんなのよ?」といったようなことを言って話の腰を折る自分を“鋭い”とか“キレ者”だと勘違いしている輩には不向きな映画だといえる。

 なにせ、監督目指すところの“大人の映画”なのだから。

 もちろん結論から遡るプロセスが大事なこともあるし、思考の“いち選択肢”としては有効なことに違いはない。
 しかし、それだけだと、あまりにも人間としての幅が狭いと思わないか?
 大人たるもの、感情表現や思考パターンのオプションは最低でも2つ以上は持っておきたいものだ。“たしなみ”としてね。それぐらいの選択肢や引き出しぐらい、大人のたしなみとして持つべきだろう。

 だから私は、結論、結果だけではなく、プロセスや過程も楽しむことの出来る心の余裕を持つ人物こそ、本当の大人なのだと私は思っている。
 そういった意味では“大人じゃない人”にとっては単なるじれったい映画に感じてしまうかもしれない。
 というよりも、ガキ(=成熟しとらん大人)は観んでよろしい。

 役者の演技が大袈裟で演劇チックすぎる嫌いもあるにはあるが、言葉の一つ一つを一語たりとも漏らすまいと耳を澄ませている者にのっては、これぐらい大袈裟にハッキリ喋ってもらったほうが好都合だ。

 あと、個人的な趣味だが、ウルトラセブンに変身する人(森次浩次)や、ウルトラマンタロウに変身する人(篠田三郎)の共演も楽しめた。
 とくに、森次浩次のあるセリフには、ニヤッとさせられた。

 ちなみに、この映画の舞台となるジャズバー『バードランド』に飾ってあったレコードは、
 『セロニアス・ヒムセルフ』(セロニアス・モンク)
 『ミッドナイト・スペシャル』(ジミー・スミス)
 『モーニン』(アート・ブレイキー)
 『タイム・アウ』ト(デイヴ・ブルーベック)
 『至上の愛』(ジョン・コルトレーン)
 『ソウル・トレーン』(ジョン・コルトレーン)
 『プリーズ・リクエスト』(オスカー・ピーターソン)
 『ワルツ・フォー・デビー』(ビル・エヴァンス)
 『サキソフォン・コロッサス』(ソニー・ロリンズ)
 『ジャズ・ジャイアント』(バド・パウエル)
 『カインド・オブ・ブルー』(マイルス・デイヴィス)
 『パーカー・ウィズ・ストリングス』(チャーリー・パーカー)
 で、…えーと、あと2枚はなんだっけかな。すごく有名な名盤だったことは確かなんだけど。
 ま、いいや、もう一回観たい映画なので、そのときにチェックしてみよう。

渋谷シネパレスにて
9/25~10/8 2週間限定モーニングショー(9:00~)
公式サイト:http://www.13-letter.com/
2005/04/30/06:04 | BBS | トラックバック (1)
高野雲 ,JAZZMovie
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