話題作チェック
(2004 / アメリカ / トニー・スコット )
原作に較べたらどこまでも青く・ぬるく・甘い「感動」アクション大作

鮫島 サメ子

 全国150万(←すげえテキトー)クィネル・ファンの皆さん、怒ってますか?

 漏れ聞く噂では、原作ファンは怒髪天衝。じゃないヒトは賛否両論てなコトでしたが、そもそも、このタイトル。そしてデンゼル・ ワシントンとダコタ・ファニングというキャスティングを耳にした時点で、もうもう、原作とは別モノと覚悟を決めるしかないでしょう。
 そう、筆者も20年来のクィネル――というより、クリーシィ・シリーズの愛読者であります。だもんで、ハリウッドの娯楽作、 そして上記三点確保では、どう転んでも原作の味が活きようはずがないことは百も承知。それでも足を運んだのは、 怖いものみたさに決まってます。で、その結果は――。

 物語の舞台は、6日間で24件もの誘拐事件が発生するというメキシコ・シティ。しかも人質の生還率はせいぜいが三割。 おまけにこの数字は単なる生還であって、必ずしも「五体満足」じゃあない。冒頭シーンのように、耳なんぞチョン切られて戻された日にゃあ、 助かったとは名ばかり。被害者の後半生は廃人同然だろう。この前フリで、観客はこれから起こる事件とそのハードな展開を覚悟することとなる。
 ストーリー自体は、ごく単純なものだ。米軍の対テロ部隊に16年間所属、今はアル中で役立たずとなった男が、メキシコに戦友を訪ねる。 彼の口利きで実業家夫妻の幼い愛娘のボディガードになり、いつしか二人の間に深い友情が生まれるが、ある日その娘は誘拐組織に奪われ、 男は瀕死の重傷を負う。そして娘が殺されたと聞かされた男は、一味への徹底的な復讐を始める――。

 イタリアはミラノの事件がメキシコ・シティになっちゃったのはどうでもいいし、天使のような!?ダコタ・ ファニングを殺すわけにいかなかったのも、仕方がない。
 でもなあ、原作シリーズのナニが読者に訴求するのかと言えば、真の地獄と絶望と孤独を知る男が淡々とその言動で示していく、 タフでクールな美学とずば抜けたスケール感だろう。

 ドラマティックな展開にも拘わらず、余計な心情描写は一切しないハードボイルドな筆致、男性キャラ一人ひとりの強烈な個性 (女性はどうでも良いらしく、結構手抜き)、時に読み手の失笑を誘うほど過剰なダンディズムとそりゃーもう高ぁい男の矜持、 クリーシィとグィドー(映画ではレイバーン)を始めとする戦友間の揺るぎなき友情、バラエティに富んだ武器(特に銃器)への偏愛、 充実した枝葉部分の挿話、また大熊栄訳の妙味等々、その「らしさ」を挙げればキリがないが、これらはもちろん、映画には殆ど反映されてない。

 何より筆者が気になった差異は、映画の主人公はナンダカンダ言っても自国の軍に帰属していたが、原作ではクリーシィもその戦友たちも、皆、 傭兵上がりということだ。
 外人部隊に所属するということは、何らかの理由で国を捨てた、もしくは国に捨てられた連中なのである。もはや帰るべき場所などない、 根無し草の彼等。上記の「らしさ」も美意識も、全てこの傭兵体験が基調となっている。 映画のクリーシィがどんなに非情な任務で精神を病んだとしても、根本の孤絶と虚無、そして結ばれた友情の質が違う。
 舞台やキャラの変更以前に、この時点でもうもう本作はクィネルの美学とは無関係となったわけで、原作のクリーシィは 「神は俺たちを許すだろうか」なんて今さらな泣き言は口にしないし、自死に失敗した挙句、これ見よがしに雨に打たれちゃったりなんぞ、 それこそ死んでもするわけがない。数え切れないほどの人命を奪ってきた己の行く末や、 言語を絶する凄惨な行為が繰り返された戦場に神など存在しなかったことは、嫌というほど知っているのだから。

 だもんで、その強面ぶりは映画版クリーシィの比ではない。普通の子どもなら、まず半径3メートル以内には近づかないキャラクターだ。
 ところがピンタ(映画ではピタ)は一目で彼を気に入り、心の友になりたいと熱望する。この一点からも、彼女が並の子ではない、 卓抜した個性とセンスの持ち主であることが見て取れる。そして度重なるクリーシィからの手ひどい拒絶にもめげず、 ついに彼の心を掴むことに成功するのだが、そこまでの行程は、映画のように単純なものではない。なればこそ、並優れた機知と勇気と愛情で、 廃人同様であった自分に新しい命を吹き込んでくれた彼女に、クリーシィは一転、全身全霊を捧げるほどの愛情を抱くのだ。

 そのピンタが目の前で拉致され、輪姦された挙句の窒息死という悲惨な最期を遂げたのを知った時、かつて戦闘のプロ(中のプロ) であったクリーシィがどれほど己の不甲斐なさを呪い、如何に苛烈な覚悟を決めたかは想像に難くない。映画館では観客の悲鳴も上がった拷問& 殺戮手法だが、原作では上記のような説得力充分の理由がありますものですから、むしろ爽快&痛快さしか感じまへん。
 皆が唱えるところの神を否定してきた男が、自分だけの神となってくれた存在にして唯一の希望を残虐極まりない方法で奪われた時、 正義などではなく己のモラルに従って、彼女の死の「分け前に与った」全ての人間に容赦ない鉄槌をくだすのは、当然すぎる帰結でしょう。

 ――ああ、キリがない。まあねえ。人気小説の映像化なんてば、例えどんな名匠がどう調理したところで、 読者が描くイメージはぶっ壊される運命なのだから、どの道、悪口雑言は避けらんない。ましてキャラの立ち方が半端じゃないクィネル作品では、 個々人の思い入れとの乖離が際立つのも仕方ないしな。
 ただ、今回は単なるイメージの差異に留まらず、「せつない願いが日本中を感動で包む!」というトホホな惹句が物語る基調そのもののズレに、 クィネル・ファンの怒り炸裂なんですね。中途半端にモチーフをなぞっているけど、丸っきり別物じゃーん、と。

 そう。原作の読者が映画を愉しむために肝要なのは、(可能かどうかは別として)一にも二にも、「原作とは別モノと覚悟を決める」こと。 そのように割り切っちゃえば、これはこれで悪くないのだ。多分。
 長尺作品にも拘わらず、ラストまで全く観客を飽きさせない展開とツボを心得たつくりは、少なくとも『ヘル・ボーイ』 の推定7.5倍は面白いはずだし、また何て贅沢なキャスティングなんだのジャンカルロ・ジャンニーニやミッキー・ロークも、 ええ仕事してはりました。そして、あの弛みまくった体形ではとてもとてもサブ・マシンガンの名手には見えないクリストファー・ ウォーケンにしても、公平な目で見れば、やっぱり流石の味だったのだから。
 また、筆者が小姑よろしく指摘した美学云々にしても、トニー・スコットが何故か20年も構想をあっためちまったもんで、 もはや死語となった「外人部隊」なんざ使えようはずもなく、あるいはそれ以前に、 そのクールな冒険小説仕様が必ずしも万人向けとは云い難い本家・クリーシィの古狸ぶりよりは、適度な弱味と愛敬を持ったデンゼル・ クリーシィの非個性的でわっかりやすいキャラクターの方が娯楽大作向きと踏んだのかもしれないし。

 ただ、そうは言ってもリセットしようと思うそばから原作が脳内映像化されてしまう「愛読者」としては、 やっぱり最後に少しばかり疑義を呈したくも、なる。
 大人向けファンタジーは、ハーレクインやフランス書院といった愛欲系と、冒険小説・サスペンス系の二本柱だが、これらの共通項は、 非現実的な面白さがキモってことだ。中には、一見「ありそう」なつくりのものも混じっているが、そう見せかけているだけで、所詮 「ありえねえ~!」世界のお話。それがお約束。

 が、この映画は原作に比べてずいぶんリアルなテイストに仕上げられている。実際に誘拐が一大産業となっている地へ舞台を移し (しかし本編のおかげで、メキシコ・シティのイメージはすげえ剣呑なものになったけど。いいのか?)、 登場人物を必要最低限に整理しまくったついでに地道なキャラに直し、第一、主人公からしてずいぶんと「青く・ぬるく・甘く」(当社比)、 物語もちんまりしたものになってしまった。そう、警察はおろか政府要人まで噛んだ一大組織とは名ばかりで、 ずーるずると芋蔓を辿っていったら何かチンケな男に行き着いた映画版の貧乏臭さ、不完全燃焼感は、どうなのだろう。

 どんなベタな展開でもいい。お涙頂戴でも、社会派へのシフトでもいい。「別物だ悪いか」と尻を捲るのであれば、原作ファンですら「それも、 ありか」と不承不承頷くような切り口や意外性、見せ場を用意すべきではないのか。
 その意味では、ソコソコの出来とはいえ、オリジナルを凌駕する部分は何ひとつなかった本作の中途半端なリアリティは、「ありえねえ~!」 面白さの追求をハナから諦めた「逃げ」にも見えてしまう。それならいっそ、 なまじ原作どおりってとこがまた癇に障る主人公の名前から変えて欲しかった。

 と言うわけで、娯楽作としては及第点のはずなのに、やっぱりクィネル・ファンからはブーイングの嵐と思われる、この「感動」 アクション大作。
 映画は見た(orこれから見る)けど原作未読という皆様方、ぜひぜひ本編観覧「後」に、集英社文庫をご賞味されることをお勧めする次第です。

(2004/12/27)

2005/04/30/06:58 | BBS | トラックバック (0)
鮫島サメ子 ,話題作チェック
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