(2003 / 日本 / 矢口史靖)
血中スウィング度75%

百恵 紳之助

 前半すごく面白い。特に補習を抜け出して野球部の応援に弁当を届に行くあたり、傑作の匂いプンプン。 前作「ウォーターボーイズ」とは逆の展開だ。「ウォーターボーイズ」 は前半ややサムイかなと思って観ていたのにもかかわらず後半グングン加速して、 男の子なら誰もが夢見る文化祭でのヒーローになる話として実にワクワクした。 こーゆー人生の一瞬を経験してみたいと思わずにはいられなくなり、血が騒いでいてもたってもいられなくなったものだ。

 夏休み。補習で授業に呼ばれると、そこはいつもとまったく雰囲気の違う空間だ。勉強しなきゃいけないのに妙にワクワクもしてしまう。 いつもと何か違ったことが起るんじゃないか。そんなありもしない期待感についつい胸をふくらませたりしてしまう状況だ。 気持ちもいつも学校に通っているときよりも大きくなる。弁当屋が配達に遅れて、 それを理由に先生を口説いて補習をチャラにしてしまう気分もよく分かる。普段なら野球の試合なんぞに弁当届けたりなんざ、 土下座されてもやらないが、そんなことにも何か起きてしまうような期待感。彼女たちは実に楽しそうに野球部の試合に弁当を届ける。 こういうときの無駄な行動というものは非常に楽しい。ここに男子の数人でも混ざっていたら言うことなしじゃねーの。いや、 女子のみだからこその楽しさもあるのだろうけど、ホント彼女たちは楽しそうだ。そう、 ジャズの演奏よりもこちらの弁当届けの数時間のほうが楽しそうに見えるのだ。まさに血中スウィング度100% の実に楽しくワクワクする場面なのだ。

 矢口監督はこういう場面に独特の才能を発揮しまくりだと思う。 きっと何か自分の中でつかんでいる演出のコツというか秘策があるような気がしてならない。

 しかし、肝心のバンドを結成することになってから、ラストの発表会までがややスウィング不足のように思う。世の中に 「バンドやろうぜ的映画」はたくさんあるが、やはりそういう映画は、ウォー、俺もバンドやろ! と観客に思わせる瞬間が大切であると思うのだが・・・。

 「ウォーターボーイズ」の少年たちは別にシンクロの魅力にとりつかれていたわけではない。 ダメな連中が文化祭という小さな枠ながらも高校生においては一瞬でもヒーローになれる可能性のある舞台で大勝負に出る。 だから彼らのシンクロの舞に感情移入できたし、俺もなにかやるべという気持ちにさせてくれた。 できることなら高校生のときにこの映画を観たかったと心底悔しがらされた。

 だが「スウィングガールズ」には見事なまでに何もない。普通に元気な女子高生がいるだけだ。あえて「ウォーターボーイズ」 ほどの葛藤も描かないぞとしているようにも見える。だから、役者たちは頑張って実に楽しそうにジャズを演奏しているのだが、 それが映画全体から浮いてしまっているように見えた。それまでの場面は特に関係なく、 まるである女子高生たちがジャズを演奏している場面だけを見せられているかのように。

 そりゃスンゲェうまい連中の演奏を聞けば、それだけで血が騒ぎ、楽器の一つも弾けない自分を呪ってみたくもなるが、 こっちはたかだか女子高生の演奏である。いくらカワイーたって女子高生の演奏のみだけでは血が騒いだりしない。 ジャズの魅力にとりつかれていくような場面が少しでも観たかったなどと言うのはジジ臭い意見なのだろうか。 と苦言にもならないようなことを言ってみても、笑える場面もたくさんあるし、 うまいんだか下手なんだかよく分からない東北弁が妙にイイ感じだし、楽しい映画であることに違いはない。劇場も爆笑の渦だった。これを観て 「アタイらもジャズやんべ」と思った女子たちも多くいることだろう。

 考えてみればジャズをやるのに、つーか楽しいことをやるのに理由は楽しそうだから以外にまったくいらない。彼女たちは実にピュアだ。途中、 男と遊んだり、ブランド物に走ったりする連中が戻ってくるのも、演奏を見て楽しそうだからだ。 ジャズをやるやらない以前に彼女たちはそこで生きていることが楽しくてしょうがないと言った感じなのである。

 何をやるにしてもまずは下心かやむをえない状況においこまれてしかやらない自分など彼女たちの眼中にも入らないだろう。

 などとちょっと反省してみるとラストの上野樹里の顔から、「ワタス、ジャズさやるだ!」 と高らかに宣言する声が今にも聞こえてきそうである。なんてのもまたジジ臭いんだろうなあ。でも、 もうちょっとだけ燃えたかったというのもまた本心であります。 

(2004.9.19)

2005/04/30/19:27 | トラックバック (0)
百恵紳之助
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