(2003 / アメリカ / ヴァディム・パールマン)
ジェニファーの裸体を楽しむ余裕もなく……

百恵 紳之助

 勇気のある映画だと思いました。今世紀最も美しい悲劇という謳い文句はよく分かりませんし、 この映画を観て号泣する人がいるのだろうかと疑問にも思いますが、その悲劇ぶりに言葉を失うことは確実でしょう。

 ジェニファー・コネリーは、離婚して酒と煙草が手から離せないなんだか鬱気味な女性を演じているのですが、 これがもうどうしようもないビミョ~なダメさかげんを醸し出しておりまして、ゾッとしちゃうくらいの好演であります。 なんだか警官と恋仲に落ちるときの、明らかに「私、この歳で女の武器を上手に使いこなしちゃってます。お母さん、私はここまで落ちました」 な目付きはスクリーンの中に飛び込んで引っ叩いてやろうかと思うほどです。

 で、そんなもうハンパにど~しようもないジェニファーと家の取り合いしてしまうベン・キングスレー演じる軍人も、 政変で祖国を追われアメリカに流れて来てしまった誇り高き元軍人というこれまた家族以外に話し相手は誰もいないみたいな孤独な人であります。

 家がなくなれば即ホームレスのジェニファー、かたやキングスレーも愛する息子と妻のため、 もう一度幸せを掴もうとこの家にすべてを賭けている。そんな二人が家を取り合うために戦うお話は、はっきり言って見てられんです。

 なにせ二人の言い分は充分に分かります。ジェニファーはややダメ女ながらも父の形見の家なのです。簡単に手離せるわけがありません。 しかも原因は政府のミスです。しかも離婚して精神的に消耗しまくっている時期です。しかも大ファンです。かたやキングスレーだって、 真っ当な手続き踏んで買った家です。誇りの高い男です。祖国では軍人の高官だったのです。 そんな男がアメリカまで流れてきて老体にムチ打って肉体労働して買った家です。買った値段より高い金で売りに出すけど、 祖国と同等の暮らしを家族にさせてやるための手段です。そのための希望の家です。 そんな二人がコールタールずぶずぶの戦いを繰り広げるのです。

 世界中を嗚咽させた最も美しい悲劇なんて売り文句がついておりますが、 二人の設定がリアルでとにかく観ていて実りのない神経戦を挑まれるのはきついものがあります。あまりに不幸すぎるラストは、 絶望でももちろん感動でもありません。その気持ちを表す言葉が筆者の薄っぺらな辞書にはありません。

 なんと言いましょうか、観ている途中から自分は映画を観ているのかという疑問のようなモノが湧いてきます。 なんだか自分はこの登場人物のご近所さんで、彼らの事の成り行きを何も出来ずに(せずに)見ている人のような気持ちになります。 そしてある日突然、「こうなっちゃった・・・」と聞かされたような気持ちなのです。
 そうなっちゃったと聞かされてももうどうしようもないと言いますか、結局人とゆう生き物は基本的に自分のことしか考えていない生き物だ。 それがこんな悲劇を生んだという、それはあまりに正論であり、そんな正論言われてもさぁの一言で多くの人が片付けてしまっていることを、 それではイケナイとガツンと教えてくれる作品なのです。 想像力という力を兼ね備えた人間という生き物はもっと他者のことを考えてみなさいとお説教され、 でもそのお説教を神妙に聞いている自分がいたと言いましょうか。
 いや、良く出来た映画ってこんなにも当り前のことを宣言して、なおかつそれを素直に「そうだよなー」 と聞き入れさせてしまう素晴らしいものなのですねと改めて思いました。

(2004.11.8)

2005/04/30/19:38 | トラックバック (2)
百恵紳之助
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