今月の注目作
(2003 / アメリカ / クリント・イーストウッド)
俺が映画

百恵 紳之助

 ジミー、ショーン、デイブの三人は大の仲良し。 ある日いつものように三人で遊んでいると警官のフリをした男がやって来てデイブをさらってしまう。 さらわれていくデイブを見つめるだけしかできないジミーとショーン。デイブは数日間監禁陵辱されたあげく帰って来たが、 以後三人の友情関係は無くなった・・・。そんな三人がその出来事から25年後、ある事件をきっかけに、デイブが事件の容疑者、 ジミーが被害者の父、ショーンが事件を捜査する刑事として再会する。 こんな話の展開を聞けばまずは誰でもドキドキワクワクハラハラの映画が観れると思うはず。 筆者もそう思ってこの映画に臨んだところこれがとんでもない大間違いなのである。サマーキャンプだと思って参加したら座禅修行だった! それくらいのギャップなのである。逃げ出したいんだけど向こうでは何だかジジイの和尚が(もちろんイーストウッド)悠然と佇んでいる。 逃げようと思えば逃げ出せそうだが、その悠然と構える和尚の顔を見ると、足が根を張ったかのように体が言うことをきかなくなり、 いつの間にかビターな説法を聞かされる。しかもこの説法、語り口がうまいので気づけば夢中になっている始末である。

 三人が再会したある事件とはジミーの娘が殺された殺人事件である。デイブは容疑者としてしょっぴかれるが(しょっぴくのがローレンス・ フィッシュバーン扮する刑事。ジミーのことをあんな肩をいからせた奴はすぐムショ帰りと分かるとか、 デイブのことをガキの頃にあんなトラウマのある30代の低所得者は怪しいとか言って引っかき回す。ある意味この物語の悲劇を招いた張本人)、 事件のあった夜のアリバイを絶対に話そうとしない。あるいは本当に自身のアリバイに記憶がないのかも知れないのだが、 その理由には25年前の事件が暗く影を落としていた。あの25年前の事件がきっかけでデイブはデイブでなくなり、友情は崩壊し、 結婚して子供ができても妻との間に信頼関係は築けず、たまたまジミーの娘が殺された日に、 25年前のことがなければ起こりようのなかったある事件を起こしてしまう。 その事件がきっかけでジミーの娘殺しの容疑者として疑いをかけられ、妻からも疑われ、そして誤解からジミーに殺されてしまうのだ。 あの25年前の事件でデイブのその後の暗い人生は決まってしまい、その人生という名の川はゆっくりと結末に向かって流れつづけて行くだけ・・ ・。あまりにかわいそ過ぎるデイブである。なのに・・・。筆者が三人の中でデイブに一番寄り添ってこの映画観たからかもしれないが、 和尚はまるでデイブのことが嫌いなんじゃないかとすら思ってしまうデイブの描きっぷりである。

 「運命?そうかもしれないなけど、デイブみたいに弱い奴はあんなもんだろう」とでも和尚は言っているかのようなのだ。25年前、 あまりに重い十字架背負ってしまったデイブだが、 その出来事があったからそんな運命だったというよりもその十字架を克服できなかったからデイブはこうなってしまったのだと。 デイブは克服しようとはしていた。だからジミーに殺される間際「妻と子供とやりなおしたい!」と叫ぶのだが、 結局自身の弱さからジミーの娘を殺したと言ってしまう。ジミーは娘の仇なのだから殺す気持ちは分かるが、筆者は「ああ…… 和尚はデイブに生きて行くことすら許さないか……」と思ったのである。だって!だってー! ここからデイブに対して目を覆わんばかりの場面のつるべ打ちなのだ!ジミーがデイブを殺した後の朝の道の場面。 打ちひしがれたジミーのもとへ真犯人逮捕を告げにショーンがやって来る。そこは25年前デイブがさらわれたあの道だった。 デイブの行方を尋ねるショーンにジミーは答える。「デイブ?奴は25年前にこの道をさらわれていったよ……」 そう言ってふらふらと歩いて行くジミー。そんなジミーを見逃すショーン! この場面でまたも二人は25年前と同様にデイブを見殺しにするのである!何でや!と絶叫寸前である。 死んでも死にきれないデイブにさらに和尚は鞭を入れる。次の場面、ジミーの奥方はそんな大勘違い殺人を犯して帰ってきた亭主に 「あなたは王様。あなたの正義でやったことなのだからあなたは正しい」というようなことをのたまう。 これじゃついこないだの戦争と同じじゃねーか!と思いながらも、あれは言ってる本人も屁理屈と分かっている(と思う)が、 この奥方マジなのである。誇りを持って言っているのである。和尚、この場面マジですか? と思いながらもジミーの背中にある十字架の刺青を見ると「ああ、こいつは十字架背負いながらも強く生きてきたし……」と思ってしまい (もちろんデイブの背負った十字架と同じでトラウマという意味の十字架)、さらに次のパレードの場面。 和尚はデイブの残された家族にも鞭をはなつ!不安げに夫を探すデイブの妻。そのデイブの妻を冷ややかに見つめるショーン(彼はこの事件後、 妻と和解している)とジミーの妻。この場面で「やっぱデイブ、お前ダメだったんだよ……三人の中で一番好きだったけどさ、ごめんな」 と筆者は思ってしまった。そしてラストの人生を決めてしまったイタズラ書きのカット。デイブの名前だけ途中だ。筆者はこのカットを観たとき 「やっぱ和尚はデイブを認めないんだ。男子の仲間にいれないぜって言ってるんだ」と確信したのだが…… 上記のごとき御託はあまりに拙い感想であろうか。いずれにせよ、御齢74歳イーストウッド和尚、 「ハリウッド映画としてのエンターテインメント性」を楽々とキープしつつ中身はおもいっきりアンチハリウッド。「映画?俺が作れば映画だよ」 と山田康雄の声が聞こえてきそうである。

(04/2/22)

2005/05/01/11:45 | トラックバック (0)
ミスティックリバー ,今月の注目作 ,百恵紳之助
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