脳内i-pod・サウンドトラックコーナー繁忙記
第三回
『クリント・イーストウッド御大にささげる音』
Vol1.ラロ・シフリン

佐藤 洋笑

戦略大作戦 祝『ミリオンダラー・ベイビー』日本公開!ということで、ハナッからリヴューも批評も何も無い、 ただ観て感じろ!とクリント・イーストウッド御大に心の中で白旗を振っているのは誰だ!?

 それは、御大の頬に走る縦皺が欲しくて欲しくてたまらないモンゴロイドの男子(30歳) たる筆者であります。

 御大が自ら演出し、主演も張る作品としては2年ぶり。待望の新作の公開に合わせて、 私の脳内i-Podもイーストウッド関連作品がヘヴィー・ローテーション。部屋に飾っているレコード・ ジャケットも急激に苦みばしったオッサンたちの顔が縄張りを拡大しつつある。

 さて、長いキャリアを持つ御大だが、 中でも70年代育ちの映画ファンおよび80年代育ちのテレビの洋画劇場の漬け者たちに、 御大の頬の縦皺とM字型の額とセットになって記憶される"音"といえばラロ・シフリンのビートのきつい、 ロックがらみのジャズではなかろうか。

 情熱の国、アルゼンチンはブエノス・アイレス出身のラロ・シフリンは、チェット・ベイカーのマブダチで、 ディジー・ガレスピー楽団のアレンジャーでもあった生粋のジャズマン。前回もちらりと触れたジミー・スミスの『ザ・キャット』 のアレンジをはじめ、書き出したらきりがない業績をもつベテラン作曲家/アレンジャーだが、この場ではTVの『スパイ大作戦』」=映画では 『ミッション・インポッシブル』やらスティーブ・マックイーン主演の『ブリット(我が洋画ベスト1!)』や、「シンシナティ・キッド」 (レイ・チャールズの主題歌に号泣!)、モンゴロイドの心の故郷ブルース・リー師父の『燃えよドラゴン(竹中直人の顔も浮かんできますな)』 の音楽を生み出したハードボイルド/アクション/サスペンス音楽の巨匠としての顔を紹介したほうが手っ取り早く、 その偉業と金の稼ぎブリが伝わるだろう。

 そうしたイイ仕事の群れの中でも特に印象深いのが、 70年前後の作品を中心にイーストウッド主演作に彼が添えたスコアである。『マンハッタン無宿』『戦略大作戦』『白い肌の異常な夜』そして 『ダーティハリー』…オールスター・キャストの中に御大も参加したといった風情の『戦略大作戦(監督:ブライアン・G・ハットン)』 をのぞくと、それらはドン・シーゲル監督とのコラボレーションでもある。御大のスターとしてのキラメキを引き出すとともに、 その暗部を邁進させ、監督業に乗り出させる起爆剤ともなったドン・シーゲルの演出。イーストウッドの振幅激しい魅力の全貌が世に出た時代、 それを彩ったのがシフリンの音だった。

 巨匠、エンニオ・モリコーネの雄大かつリリカルな口笛を得た"マカロニ・ウェスタン"での成功後、 御大初の現代劇主演作として世に問われた『マンハッタン無宿』。 逃亡した囚人を追ってきたアリゾナのカウボーイ=イーストウッドがテンガロンハットと先の尖ったブーツでニューヨークを闊歩するこの映画にシフリンはアコースティックとエレキ、 両方のギターを添えてリリカルかつユーモアあふれる音楽を提供した。もちろんシメるところはバッチリしめる。クライマックスのバイク・ チェイスにかかるジャズのクールさといったら最高だ! 残念なことに、サントラはリリースされておらず、 大昔に頭のネジのハズレた同好の士が某所から持ち出した音源をプレスした海賊盤(!)が超高値で取引されている現状が悲しい。今、 気軽に聴ける本作関連の音源といったら、かの"幻の名盤解放歌集"にも収められたカルトGS、ザ・リードのカヴァー・ ヴァージョンのみというのはいかがなものか(いや、これはこれで非常に味がある音源なので、機会があったら一聴をオススメしますが)。

 それに比べると、MGMの大作だったこともあり、『戦略大作戦』は音源のリリースに恵まれている。 公開当時に発売されたLPの音源に加え、なんと22曲もの楽曲が追加収録された決定盤が現在も入手可能だ。『ブリット』 にも通じる短い旋律を反復使用することで徐々にグルーヴをかもし出していくメインタイトルや、ソフト・ ロック系のコンピレーションにもしばしば収録されるポップな主題歌が絶品で、オフ・ビートなノリの映画のテイストに寄り添った極上のポップ・ ミュージックだ。3000枚限定プレスゆえ、少々高値だが、それに見合う価値は十二分にある。

 さて、問題作が『白い肌の異常な夜』。イーストウッドが弄ぼうとした女たちに逆に弄ばれ、 徐々に命を削られていく様を描いた異様な映画は、だがしかし、その直後に製作される御大初の監督作『恐怖のメロディ』以降、 露になっていくダークサイドを活写した力作だ。そこにシフリンが登板するのは奇妙に思えるが、成果は上々だった。 正統なクラシック音楽の教育を受け、タンゴや歌舞伎への造詣の深さも公言するシフリンにとっては、むしろこちらがお里だったのかもしれない。 チェンバロやストリングスを巧みに使い、ゴシック調とでもいうのか、 陰鬱な色彩の音楽が映画全編に漂う不穏な空気をより甘美なものとしていく。 堕ちていくカタルシスというようなものを味あわせるこの映像と音の相乗効果は、とにかく一度体感して欲しい。 この映画も残念ながらサントラのリリースは無いが、本作に通じるテイストは、これもシフリンの傑作『女狐』のサントラで味わえる。 『チャタレイ婦人の恋人』で知られるローレンスの小説に題をとった倒錯した性の物語に添えられた音は、何度聴いてもムヅガユク気恥ずかしい、 淫靡な魔力に濡れている。

 それにしても、イーストウッド関連の3作を挙げただけでも、シフリンの振幅激しい音楽性には驚かされる。 それこそ、映像と共にあることが前提な時点でジャンルの横断を運命づけられている映画音楽だが、 中でもシフリンがその折衷感覚で高く評価されているのも当然だろう。

 その折衷――喜怒哀楽の四方向に納まらない、多種多様なエモーションの同居ぶりが頂点に達したのが、 シーゲル/イーストウッド/シフリンのトリオの最高作『ダーティハリー』である。

 次回は、今さら語るにも落ちるこの名画にシフリンが添えた音について、筆を滑らせてみたい――

2005/06/02/13:28 | トラックバック (0)
佐藤洋笑 ,脳内i-pod
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