特集
(2004 / 日本 / 若松孝二)
時代に要請される映画の実験性と社会性

小林 泰賢(ビデオアーティスト)

17歳の風景1  母親を殺害した少年が、目的も分からず自転車でひたすら北へ向かって走り続ける。 いくつかの出会いがあるものの、映画は大半の時間を自転車で走る彼の姿を追い続ける。
 岡山で起きた実際の事件を題材にしたこの映画は、分りやすい類型に登場人物を置くこともなく、若者の狂気をこれ見よがしに描くでもなく、映画というものの本質をギリギリのところで表現した誠実な作品だった。

 若松孝二監督のもとでピンク映画を製作していた足立正生らによる1969年の映画「略称連続射殺魔」は、警官から奪った拳銃を持ち、日本を縦断しながら数件の殺人を犯した永山紀夫の少年時代から犯罪を犯してつかまるまでに見たかもしれない日本各所の情景を、必要最小限の簡単な解説とともにひたすら見せてゆく。

 1970年代初頭、安保闘争が引き出した社会的不均衡の修復装置として地方都市や農村の情景をノスタルジックに描く一連の表現が流行し、国鉄のディスカバージャパンのキャンペーンに代表されるような日本的景色とアイデンティティーの再発見という文脈によって、地方都市や農村がコミュニケーション産業の格好の商品として提示された。
 「略称連続射殺魔」はそんな景色が商品化される寸前の映画であり、永山紀夫の眼にしたかも知れない光景を映した映像は、彼のアイデンティティーや心理をそれらの景色によって表現する事も、理解することすらもできないという圧倒的な事実を突きつけてきた。しかしこの映画は、簡潔なナレーションで永山紀夫の軌跡をその都市や地方の映像をバックに次々に説明することによって、目まぐるしい軌跡の眩暈が表現され、現在も風景論、都市論として様々な問題を提示する。

17歳の風景2  「17歳の風景」も、カメラが少年とともに日本を縦断するため、 モデルになった彼が見たかもしれない景色が映し出されるのだが、 それを見てもモデルになった母親を殺害した少年の気持ちなど分ろうはずもない。 延々と続く情景描写に何かを発見することなどありえない。もし無理に見ようとすれば、 物語や心理学に矮小化された世界観だけだろう。そもそも映像でそのことが伝わるはずなどないが、 70年代以降の景色の商品化が極端に進行した現在なら、なおさらだ。それよりも伝わってくるのは、 この映画を作った若松監督自身のその理解不能さへの執拗なまでのこだわりだ。事件の理解不能さと、映像での表現不可能性、 そして表現という事への執念。
 針生一郎氏の戦中死と隣り合わせに生きたという少年時代の思い出話を聞く少年は、モデルの少年を演じる役者でなく柄本佑自身であり、薄ら笑いを浮かべながら理解不能な経験談に、10代で出来うる最大の社交として耳を傾けることしか出来ない。それを演技で隠すことなく見せ付けるこの映画のドキュメンタリー的な手法は、少年を演じる柄本佑のドキュメンタリーとして立ち現れる。延々と続く少年の自転車を飛ばす苦痛の姿は、母を殺した苦悩などではなく、ひたすら坂道を登らされる苦痛であり、壊れた自転車を担いで雪山を歩き続けさせられる苦痛なのだ。この若松監督の表現に対する誠実さ、理解不能なことを開き直りではなく、表現者の誠実さを通して表現するやり方には息を呑まされる。
 それでも、強制労働に日本へ連れてこられた在日老女の、 17歳の風景3 彼女が受けてきたであろう村での迫害を感じさせる廃屋のような家屋で、 映画のなかでの初めての主観ショットにより、少年に老女の若かりし頃の姿を想像するのを見せるショットには胸を打たれる。 少年が何かを理解したという物語的カタルシスへの感動などではなく、ドキュメンタリーの流れに唐突にフィクションが介入する、 映像の暴力的なまでに荒々しい表現のあり方への驚きだ。

 60年代のピンク映画はその単純さと直線的なアイデアにおける前衛性で、映像の未来を見越していた。日常のリアリティーを表現する物語を、日常製造装置そのものであるTVがマーケティング的に観客を奪っていった70年代以降、映画が描くべきものが映像論的視点で特化しなければ存在意義を見出すのが難しくなり、非日常における人間の生態や日常の中の暗部、抽象的な映像世界が必要とされた時、若松孝二たちの描いていた世界はまさにその先駆として再発見された。
 若松監督初期作品の表現としての実験性と社会性は制作条件の要請という尺度ナシに考察することは出来ないが、状況の要請こそが本来的な条件であり、「17歳の風景」においてもそれらが遺憾なく発揮されている。 70歳に手の届こうという監督が17歳の少年に挑んだドキュメンタリーとしてみることが出来るだろう。

(2005.7.22)

2005/07/22/20:50 | BBS | トラックバック (1)
小林泰賢 ,特集
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映画「17歳の風景(少年は何を見たのか)」を観る♪ A 酒焼け☆わんわん

20:45†22:20 上映 ひたすら北へ自転車を漕ぎ続ける少年の映像が流れ続けます。 少年が耳にすることはなかったであろうシャウト系ポエムソング(...

Tracked on 2006/01/29(日)20:26:53

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Tracked on 2006/01/29(日)20:26:53

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