今週の一本
(2006 / 日本 / 高田雅弘)
ちょっと薄口すぎたハチミツ

百恵 紳之助

 旬の勢いといいますか、ノッてるときは何をやっても素晴らしく見えるもので、 この映画の冒頭で蒼井優に恋に落ちるのは主演の櫻井翔だけでなくほとんどの男性客がそうではないでしょうか。 隣に座っていた女性客の方までもが「あちゃー!こーゆー女大嫌いだけど、カワイイわーこりゃ」と言葉に出しておりました。 フワフワと現実離れしたいかにも少女マンガ的なキャラを独特のフワリとした存在感で見事に演じておりまして、 トロけるようにカワイイとしか言いようがないですねえ。
 でも…。「カワイイだけじゃダメかしら?」なんて蒼井優は絶対に言わないと思いますが、 やはり蒼井優のカワイさだけで映画が面白くなるのかと言えばそうではなく…。

 大人気という原作は未読でありますが、チラシか何かの裏にあった「また誰かに片思いしたくなりました」 (27歳OL)みたいな感じの言葉通りこの映画は「100%片思い」の映画でありまして、 登場人物のほとんどが誰かに片思いしているという状況です。
 片思いなんてほとんどの人が体験していることだし、客はそのときのことを思い出して、頭抱えて「ワーッ!」 と叫びたくなるくらい恥ずかしいこと思い出したり、甘酸っぱい気持ちを思い出してちょっと良い気分になれるんだろうな。そいやこの監督は 「家庭教師のトライ」のCMを撮っていたらしいな。あれの高橋恵子がママ役で、 娘が家庭教師のダサさをグチグチ言いながらも来るのを心待ちにしているCMはかなり良かったぞ。なんか映像の雰囲気も良かったし、 あんな感じの作品なんだろうななんて揉み手をしながら期待していたのですが、 この映画はちっとも胸がキュンキュンすることなく終わってしまいました。
 やっぱそれは一言で言ってしまえば登場人物たちが血の通っている人間に見えなかったということでしょう。

 だって大学生ともなればちっとは愛憎入り乱れるのではないでしょうか?しかも美大なんていう才能勝負! みたいな場では特に嫉妬心やら何やらがうごめいていそうなものですが、そういったものは一切排除されております。
 櫻井翔の役所なぞ、圧倒的な才能の持ち主に好きな女を取られそうになって「俺、なすスベなし…」な奴でしょう。 男だったら感情移入バリバリな役所ですよ。なのになにが「あいつのためにできることは…」って。いや最終的にそうなってもいいんだけど、 そうなるまでの苦しさみたいなものがさっぱり伝わってこないんでこいつの暴走にちっとものれない。「青春君」ってあだ名がついてましたが、 そんなあだ名がつくほど熱いやつにも見えないし。
 ちょっと昔に「恋しくて」なんてゆう片思いをテーマにしたアメリカ映画がありましたが、その映画では、 好きな男の子が別の女とキスするためにキスの練習台になる女の子がいるのですが、それだって突然キスの練習台やっても「お前、 キスしたいだけじゃん」と思われるのといっしょ。苦悩あっての自己犠牲。伝わらない気持ち。「グローイング・アップ」だってそうでした。 片思い映画の見せ場はそこのはずなのに、この映画はそこがスッポリと抜け落ちているような気がしてなりません。 イマドキ小学校低学年のママゴトでもも少し胸が苦しくなるような状況作ったりするんじゃないでしょうか。
 生々しさとかドロドロしたものは省いて、透明感とか清涼感勝負ということなのでしょうが、どうにも無色透明すぎたと言いますか、 レモン水くらいにはちょっと酸っぱい味付けが欲しかったと思ったです。

 ですが、そんな無色透明な中に一つだけ「ん?なんだこの味?」というような隠し味になっていたのが、 これもいかにも少女マンガに出てきそうな男のキャラなのですが、究極の人畜無害系で、 そして周囲の状況はきちんと把握していてそれを優しく見守っている大学の先生役の堺雅人。強烈に印象に残りました。怪演。

(2006.7.31)

2006/07/31/15:17 | トラックバック (0)
百恵紳之助 ,今週の一本
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