村本 天志

きっと、たぶん今時分の季節を
こうは言わないのは分かるが、
花冷えの頃……という
季節のある時期を表す日本語は美しいと思う。

石油ストーブに赤々と火が映ると、冬だな……と実感し
猫額の庭の草木が落ち葉になりカサカサと音を立てるなか
縁側でのくわえ煙草も段々寒くてできなくなる。
冬の寒さについて思えば、暖冬と言われて久しいが、
我々が子供の頃はなかった言葉だ。反対語は、厳冬か。
しかし、厳冬はもはや季節や温度の事を指す言葉
というより…更改とか…ボーナスとか、
金銭に使われる言葉に変わってしまった。

マガジンハウス社から、故・永島慎二氏の「黄色い涙」 が復刻された。
いちファンとしては、大変嬉しい事である。
……しかし、いち演出とすれば、言葉にできない程……悔しい事である。
遺族が、わざわざ贈ってくださったその本の巻末に寄せられた
犬童一心氏のインタビューを読むとその悔しい気持は、
ちょいと別の角度に変化した。
半日以上そんな嫌な気持でいたのだが、
ふと天上の永島先生の事を思いだした。すると、

どうだい？黄色い涙って苦いだろ？
あの漫画にはこんな気分も描いたんだよ

……とにこにこされながら言われたような気がして、
ふっと気持が軽くなった。
もし、この作品を手に取ることがあればお読み頂きたい。
強く願えば叶うものではない、と思う。
だけど願はなければ、叶うはずもない。
こんな寒い日には色んな事を思う。