今週の一本
(2007 / アメリカ / ジョン・タートルトーブ)
"宝探し"は男の浪漫なんだよっ!

仙道 勇人

 アメリカ合衆国建国史にまつわるミステリーを題材に、ニコラス・ケイジ扮する歴史学者で冒険家のベン・ゲイツが大活躍する「アメリカン・ヒストリー・アドベンチャー」シリーズ第二弾。今回も、前作同様にアクションあり!サスペンスあり!ロマンスあり!と、ハリウッド流(と言うか、ブラッカイマー流)幕の内エンターテイメント術を駆使した作劇で、万人が万人なりにそこそこ楽しめる――よく言えば「安定した」、悪く言えば「凡庸な」娯楽作品になっている。

 さて、前作で合衆国建国の闇に消えた「秘宝」を見事発見し、共に冒険を乗り越えたパートナーのアビゲイル(ダイアン・クルーガー)という伴侶と大豪邸をゲットしたベンは、今では各地で講演に呼ばれる超有名人に。
 ある時、父パトリック(ジョン・ボイト)と共に講演に赴いたベンは、祖先のトーマス・ゲイツとリンカーン暗殺犯ジョン・ウィルクス・ブースにまつわるエピソードを披露し、当時敗走していた南軍が再起を賭けるための軍資金として探していたと目される「黄金都市」の秘密を、命懸けで封印した祖先の英雄的行為を誇らしげに語る。だが、聴衆の中からウィルキンソン(エド・ハリス)と名乗る男が現れ、ベンの話にケチを付ける。彼の一族に代々伝わる話では、トーマス・ゲイツこそはリンカーン大統領暗殺事件の首謀者であり、それを証拠立てる日記の一部を所有しているというのだ。英雄から一転、リンカーン大統領暗殺犯の末裔という汚名を着せられた一族の名誉を回復するために、ベンは再び仲間と共に新たな謎に挑む――。

 というわけで、今回のお宝はどこぞの原住民が隠し持っていたとか言われている伝説の「黄金都市」。このお宝の場所を特定するために、ニューヨーク→パリ→ロンドン→ワシントンと大西洋を股にかけた謎解き行脚を軸に物語は進行していく。お宝を狙うウィルキンソン一味とのド派手なカーチェイスや、鉄壁のセキュリティを誇るバッキンガム宮殿やホワイトハウス大統領執務室の潜入、迷宮内大トラップ回避などなど、今作も理屈をすっ飛ばしてひたすら「見せる」イベント配置と歯切れの良い演出で、エンディングまでノンストレスで見せ切ってしまう手並みはなかなかのもの。
 なのだが、前作で目に付いたシナリオの粗さは本作にも受け継がれているのが困りものだ。特に「黄金都市」を発見することが、どうして先祖の汚名をそそぐことになるのか、という物語の大前提がまともに処理し切れていないのは致命的であり、はっきり言えば、物語としては破綻していると言わざるをえないだろう。作品としては余り高い評価を与えにくい。

 ただ、本作(本シリーズ)は一見万人向けの娯楽作を装いながら、根本的なところで鑑賞者のターゲットを絞り込んでいるようにも見える。それは誰かと言えば、やはり「少年」と「元・少年」だ。尤も「冒険」「秘密の宝探し」「陰謀論」「歴史ミステリー」といった類のものは、「少年の浪漫」の代名詞みたいなものではあるし、それらを網羅した本作が少年=男向けだ、というのは短絡的且つ当たり前すぎる話ではある。
 実は、本作は「合衆国建国史にまつわるミステリー」をメインプロットに据える一方、サブプロットの方では鑑賞者の「男性的感性」にもたれかかった要素、即ち、マッチョイズムに根ざしたものになっており、その素朴なマッチョ礼賛姿勢が本作を特徴づける大きな要素になっているのである。

 前作でアビゲイルの愛を手にして二人で仲良く大豪邸の中へ去っていったベンだが、意外にも本作ではアビゲイルに豪邸から追い出され、二人の関係がすっかり冷え込んでいることが明らかににされる。また、ベンの父も謎解きに入れ上げすぎた過去により、元妻(ヘレン・ミレン)とは数十年に渡って冷戦中であることが判明し、この実生活ではどうしようもない夢見男と知性溢れる賢女という二つのカップルの関係性が、今回の冒険行によってどのように変化していくのかがサブプロットとして描かれている。

 要するに、本作は「黄金都市の謎」を追いかけることで、男としてのアイデンティティを回復させる男(達)の物語であり、一皮剥けば「秘宝」と「知的でナイスバディなブロンド女(ダイアン・クルーガーとヘレン・ミレンが、世代違いながら全く同じ属性を与えられているのは偶然ではあるまい)のハート」をゲットする、という全方位でアメリカ男(少年)のファンタジー炸裂といった感じのシナリオなのだ。
 こうした素朴なマッチョイズム――例えば、男は女を守らなければならないとか、男に必要なのは勇気と度胸だとかに裏打ちされた物語は、日本の少年漫画でも繰り返し描かれ続けていることは明らかで、本作が一部の少年漫画のように理屈よりも勢い重視していたり、後出し設定を出しまくったりするのも、少年的感性に訴えかけるための仕様と言えなくもないかもしれない。

 そうしたある種のグダグダさを味として割り切って観ることさえできれば、シンプルでストレートな構成ということもあり、「一回性の娯楽」として許せる範囲に十分落とし込まれていると思う。妙に突っ込みどころが満載という意味では、デートにうってつけの作品でもあるだろう。

 最後に、作品内容とは全く関係ないが、本作にまつわるミステリーを一つ紹介しよう。IMDbは映画データベースとして有名だが、このIMDb内の本作の英文プロットには、この物語が「我々のよく知る存在」による陰謀であるという驚くべき情報が隠されている。普通に読んだだけではわからないし、ヤフーやエキサイトでも隠蔽されているが、グーグルで機械翻訳すると真実が明らかにされる。興味がある人は試してみるといいだろう。消去される前に運良く確認できた人は、決して内容を口外しないように。何かあっても当方は一切責任を持てないので、情報の取り扱いは慎重に……。

嗚呼、世界は陰謀と謎で満ち溢れているっ!

(2007.12.25)

ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記 2007年 アメリカ
監督:ジョン・タートルトーブ 脚本:コーマック・ウィバーリー,マリアンヌ・ウィバーリー
撮影:ジョン・シュワルツマン,アミール・モクリ
出演:ニコラス・ケイジ,ジョン・ボイト,ハーヴェイ・カイテル,エド・ハリス,
ヘレン・ミレン,ダイアン・クルーガー,ジャスティン・バーサ
公式

2007年12月21日より日劇1ほか全世界同時ロードショー

2007/12/25/21:01 | トラックバック (7)
仙道勇人 ,今週の一本 ,「な」行作品
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