話題作チェック
(2008 / 日本 / 中原俊)
旧作が「映画」なら、新作は「テレビドラマ」

寺本 麻衣子

櫻の園-さくらのその-1 吉田秋生の漫画を映画化した中原俊監督「櫻の園」(90、以後「旧作」)は、個人的にとても好きな作品だ。創立記念日にチェーホフの戯曲“櫻の園”を上演することが伝統の名門女子高を舞台に、演劇部の女の子たちが“櫻の園”を上演するまでの2時間を描いている。物語が展開するのは、学校の中だけ。進行は、ほぼリアルタイム。そんな限られた状況の中で、彼女たちの迷いや悩みなど高校時代ならではの心理を描き出し、ラストではある種の希望まで感じさせる。原作漫画のエッセンスを上手く抽出し、組み立て直した脚本が見事だった。特に主人公を設定せず、群像劇の体裁をとったことも効果的だった。学校のあちこちで起こる出来事を群像劇に仕立てることは、それぞれのエピソードの絡まり合いの妙を感じさせ、何気ない日常をドラマチックに見せる。さらに女の子たち各々の心情を丁寧に扱うことができ、総体としての“あの頃”の雰囲気を醸し出すことにもつながっていた。部室内の女の子たちを紹介しつつ長回しで見せたり、カメラがまるで風のように回り込んで女の子を捉えたりするなど、魅力的な画づくりも忘れがたい。まさに、名作だと思う。

櫻の園-さくらのその-2 18年後の今年、その「櫻の園」が同じ監督により再び撮影された。新作「櫻の園 ーさくらのそのー」(08、以下「新作」)では、主人公の結城桃(福田沙紀)が仲間と演劇部を作り、“櫻の園”上演を目指す。女の子たちのひたむきな姿は、旧作と変わらない。日常生活で彼女らが口にする“櫻の園”の科白とその時々の状況が重なる演出や、ラストシーンの爽やかさなど、印象に残る部分もあった。とはいえ、旧作に比べると物足りなさを感じたのが正直なところだ。
 春から夏へ時間が経過し舞台が学校の外へも広がるなど、 新作には旧作と異なる点が幾つかある。何より違うのは、主人公が仲間と一緒に困難を乗り越えて成長するという、王道とも言える青春映画になっていることだ。ところが、肝心の「女の子たちが困難を乗り越え成長する」過程が説得力を持って描かれないために、物語が消化不良に陥っている。
 彼女たちが乗り越えなくてはならない困難は、内と外にある。内なるものは、進路の模索、女の子らしさへのコンプレックス、恋愛や性、同級生への淡い思い、大人になることの不安など、彼女たち自身が抱える悩みだ。これらは旧作と新作に共通するが、扱い方が異なる。旧作では悩みの解決は明確に語られなかったが、簡単に処理されることもなかった。悩みを抱えつつ人は生きていくのだという現実を描き、それでいて希望を感じさせたが、新作では悩みに安易な解決を与えてしまう。桃は音楽でのメジャーデビューの誘いを断ってまで舞台の上演を決意するが、その理由が充分に語られない。妊娠を心配する美登里(大島優子)の顛末は全くの肩透かしで、物語に何の機能もしなかった。男の子のように見られることにコンプレックスを持つ葵(杏)は、何の障害もなく女役を手にしてしまう。葵に密かに好意を抱く真由子(寺島咲)は旧態然とした校風を体現する存在でもあるのに、設定が活かしきれていない。学校に反して櫻の園-さくらのその-3“櫻の園”に取り組む葵への気持ちと校風との間で、あるべき葛藤が描かれないのだ。外からの困難は、上演を阻止しようとする教師、担任の坂野(菊川怜)と教頭(富司純子)の存在だ。だがここでも、担任はいつのまにか態度を変えて女の子たちを応援し、教頭も理由が明確でないまま上演を許可してしまう。担任と教頭が同校の卒業生で、生徒だった頃“櫻の園”の舞台と関わっていたことは分かるが、それだけでは足りないだろう。
 女の子たちの抱える悩みがなんとなく解決されてしまうことに加え、話の軸である教師との対立も唐突に終わりを告げる。これでは、青春物語の要となる「困難を乗り越えた先にある成長」を説得力を持って見せることができない。

 女の子たちの困難と成長を描ききれていないことは、重要なシーンをだいなしにもしてしまう。旧作に、由布子(中島ひろ子)と知世子(白鳥靖代)という二人の女の子が写真を撮るシーンがある。周囲から女の子らしく見られないことに悩む知世子と、そんな知世子に思いを寄せる由布子。二人の心情は、そのシーンまでに幾つかのエピソードを積み重ねることで、丁寧に描かれていく。いよいよ舞台の上演が近づいた時、由布子は知世子に一緒に写真を撮ろうと誘う。カメラの前に並んで座り、由布子は自分の思いを伝えてシャッターを切った。写真を撮ると、二人は吹っ切れたように笑顔になる。由布子は知世子に自分の思いを優しく受けとめられ、知世子は由布子から自分を肯定される嬉しさを知ったのだ。やがて彼女たちは寄り添い、一歩一歩カメラに近づく。桜が舞い散る中、次第にその表情がアップになっていく。陽の光に満ちた画面から、きらきらした彼女たちの気持ちまであふれだしそうだ。二人が一歩ずつカメラに近づいていく姿は、少しずつ悩みから解き放たれていく二人の気持ちそのものだった。画面は固定されたままで彼女たちを映し出していただけなのに、爽快感すらある名シーンとなっている。
櫻の園-さくらのその-4 この場面は新作で、カメラを携帯電話に替えて語り直された。葵と真由子が写真を撮るのだが、ここに至るまでの二人の心理が描ききれていないため、写真を撮る行為に特別な意味が感じられな い。画面は旧作と同じく固定されて二人を捉えるが、気持ちの高まりも伝わってこない。むしろ、その後に続く葵が真由子を抱きしめるシーンの方が、時間が長くカメラワークも少し変わっていて、重きを置かれているようだ。こういった女の子どうしの直接的な接触は、旧作にはなかった。それでも旧作は、単に「写真を一緒に撮る」だけのことを、それ以上の意味を持たせて見せることに成功していた。この違いは、特にドラマチックな出来事を描かなくてもドラマを演出できた旧作と、ドラマチックな出来事を描かなければドラマにできない新作との差を表しているかのようだ。
 そんな旧作と新作との差は、アップの使い方にも表われている。旧作でもアップは使用されていたが、先ほどの写真のシーンのようにそれ自体が心理描写の役割も果たしていた。新作ではアップが多用されるものの、そこに旧作のような効果は備わっていない。もっとも気になったのが、ラスト近くの教頭のアップだ。教頭が舞台の上演を許可する場面で、真正面から捉えた彼女の顔がただ大写しになる。描くべき心情の変化を描いていないという欠点は、俳優の表情を大写しすることで補えるものではないだろう。このアップからは伝わるものが何もなく、物語は消化不良のままラストシーンを迎えてしまう。そんな新作での物語らないアップの多さは、タレントの顔をアップにすることで良しとするテレビドラマを思い出させる。

 凝った作りと魅力的な画面で心情を上手く描いた旧作を見てしまうと、物語に説得力がなく画の魅力も乏しい新作はテレビドラマ並みに思えてならない。過去の名作が生まれかわり再び注目を集めることは嬉しいが、新作を見ただけで「櫻の園」の世界を評価されてしまうのは残念だ。旧作には、18年の時が経っても忘れられることなく、再び撮り直されるほどの魅力が確かにある。未見の方には、ぜひ旧作も見ていただきたいと思う。

(2008.12.2)

櫻の園-さくらのその- 2008年 日本
監督:中原俊  脚本:関えり香 原作:吉田秋生 撮影:石井浩一 美術:稲垣尚夫
出演:福田沙紀,寺島咲,杏,はねゆり,大島優子,武井咲
米倉涼子 ,菊川怜,上戸彩,柳下大,京野ことみ,大杉漣,富司純子 (amazon検索)
(c)2008「櫻の園」製作委員会
公式

2008年11月8日より、全国松竹系にてロードショー中

櫻の園 [DVD] 櫻の園 [DVD]

監督:中原俊
出演:中島ひろ子,つみきみほ
パイオニアLDC
発売日: 2000-10-25
おすすめ度:おすすめ度5.0
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2008/12/04/20:18 | BBS | トラックバック (0)
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