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九月に降る風

九月の風が吹くとき、僕はあの夏の日々のことを思い出す。
他愛ない悪ふざけに無邪気に笑いあった僕らは、
この友情が永遠に続くものと信じて疑わなかった。
眩いばかりに輝いた青春の煌めきが、
これ程までに儚く潰え去るとは、
そのときの僕たちは想像することさえできなかった――。

8月29日より、ユーロスペース、シネマート新宿
他にて全国順次公開

MESSAGE

る年齢に達すると、人は一番輝いていた時を思い返すだろう。
昔の輝かしい時間、純粋で成長していた歳月、僕たちはそれを青春と呼ぶ。

誰にでも青春の記憶がある。
僕の青春の記憶は、新竹実験中学の頃の高校生グループだ。だから、新竹で旧暦の九月に吹く強い風“九降風”をこの映画のタイトルにした。いわゆるグループとは、まだ自分自身を理解していないとき、何人かで集まって騒いだりしながら仲間を作り、そこに所属しながら自分とは何ものなのかを教えて貰うものだと僕は思う。もしくは、そのグループが解散したとき、僕たちは自分というものに向きあい始めるのかもしれない。

『九月に降る風』は、男らしさについての映画であり、キャンパスにおけるさまざまな青春の映画であり、残酷ながら勇気を出して現実と向きあう成長の映画だ。温かい友情の心地良さがあり、口論があり、対決と裏切りがある。

この映画を通して、もう一度青春の味わいを感じていただければ幸いです。

林書宇(トム・リン) 監督

INTRODUCTION

九月に降る風1嶺街(クー・リンチェ)少年殺人事件』『藍色夏恋』を生んだ台湾映画界から、今また新たな青春映画の傑作が誕生した。 1996年夏、台北郊外の街、新竹を舞台に、9人の高校生たちの愛と友情、そして甘く切ない時のうつろいをみずみずしい映像美とともに描き出し、08年6月に台湾で封切られるや、予想外の大ヒットを記録、マスコミからも「この10年間の台湾映画のベスト」と絶賛され、上海国際映画祭アジア新人賞部門グランプリを皮切りに、台北映画祭では審査員特別賞、メディア推薦賞、脚本賞、新人賞の4冠に輝いたほか、数々の映画賞を受賞、名実ともに08年の台湾映画界を席巻する一作となった。

台湾の新竹。学年も生活環境も異なる7人の男子高校生たち。野球場で騒いだり、深夜の学校のプールに忍び込んで裸で泳いだり、屋上で弁当を食べたり、大樹の下で無駄話をしながら悪ふざけをしたり……、彼らはいつも一緒だった。そんな“問題児グループ”のリーダー格が、3年生のイェンだ。生真面目な同級生タンは、そんなイェンを羨望と嫉妬の眼差しで見つめていた。タンは、イェンの恋人ユンに人知れず思いを寄せていたのだ。そんなある夜、プレイボーイのイェンの浮気が原因で、タンがビリヤード場で乱闘に巻き込まれ、額に傷を負ってしまう。その日以来、イェンとタンの間に微妙な感情の溝ができ、そしてその関係修復も束の間、思いがけない事故が彼らの身に降り注ぐ……。

監督は、短編『海岸巡視兵』が05年の台北映画祭で作品賞に輝いた注目の新鋭トム・リン(林書宇)。1976年生まれの彼は、自伝的要素を色濃く投影させたこの長編デビュー作で、等身大の青春模様をリアルに掬い取り、世代の異なるさまざまな観客層から普遍的な共感とノスタルジーを獲得。と同時に、緻密なカット割りと躍動感あふれる手持ちキャメラによる映像スタイルは、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)やエドワード・ヤン(楊徳昌)ら80年代台湾ニューウェイヴの監督たちに勝るとも劣らぬ斬新な才能の発見と、高く評価された。

九月に降る風2出演は、主人公イェンに台湾とウェールズのハーフのリディアン・ヴォーン。快活なプレイボーイの内面に秘めたリーダーシップにカリスマ性を放ち、公開時に“台湾のトム・クルーズ”と絶賛されたのも納得の存在感を発揮する。クライマックス、彼の部屋でトランプやテレビゲームに興じる仲間たちを静かに見渡す万感の表情は、いつまでも観る者の心に焼き付いて離れないだろう。また、イェンと厚い友情で結ばれたタンを演じるのは、リー・カンション(李康生)監督の『迷子』で主人公の少年役に抜擢されたチャン・チエ。彼は、トム・リン監督の前作『海岸巡視兵』に続く出演で、監督自ら「僕自身だ」と公言するタン役を情感豊かに好演、感動のラストでは初々しい少年から青年の凛々しさへと鮮やかな変貌を遂げ、本格派俳優の片鱗を垣間見させる。ほかに、CMモデルとして活躍するジェニファー・チュウや、ピーター・チャンのプロデュースによる大作「十月圍城」への主要キャスト出演が決定したワン・ポーチエ、台湾の人気テレビ番組「模范棒棒堂(モーファンバンバンタン)」のメンバーのひとりで、毛弟(マオティー)の愛称で知られる人気アイドル、チウ・イーチェンなど、台湾映画界の次世代を背負って立つ若き精鋭たちが共演、彼らの将来を占うという意味でも見逃せない。ほかに、高校のクン教官に『深海 Blue Cha Cha』『西瓜』のルー・イーチン、イェンの浮気相手にテレビドラマ「緑光森林」のリウ・ピンイェン、彼女の恋人に『カップルズ』『ラスト、コーション』のクー・ユールンと、個性豊かな実力派が脇を固める。

特筆すべきは、香港映画界の第一人者、エリック・ツァンが本作の共同プロデュースを務めていることだ。愛娘に勧められて、本作の脚本を一読した彼は、その清新な物語にたちまち魅了され、プロデュースを即決。同時にイェンの父親役で特別出演して、香港公開に尽力したことでも思い入れの深さが判ろうというもの。
そして、90年代台湾プロ野球界のスーパースター、廖敏雄(リャオ・ミンシュン)の特別出演を忘れるわけにはいかない。当時の人々の人生に大きな影響を与えた彼の登場は、台湾プロ野球ファンならずとも観る者の胸を熱くさせるはず。必見だ。

ちなみに、エンドクレジットに流れるのは、台湾の人気歌手、チャン・ユーシェン(張雨生)のヒット曲「我期待」。ちょうどこの映画の舞台となった97年に交通事故によって31歳の若さで逝去した彼へのトム・リン監督たってのオマージュで、ハイトーンの澄み切った歌声が、感動の余韻を静かに締めくくる。
なお、原題の「九降風」とは、新竹に9月に吹く季節風のことを指し、この時期、台湾では卒業&入学シーズンと重なることもあり、日本の桜のように青春の新たな旅立ちと別れを象徴する代名詞ともなっている。

8月29日より、ユーロスペース、シネマート新宿
他にて全国順次公開

Production Note

娘の勧めで、香港映画界の重鎮、動く

九月に降る風3これまでエリック・ツァンは、映画監督、俳優として活躍するのみならず、プロデューサーとしてもピーター・チャンの『君さえいれば/金枝玉葉』(94)をはじめ、オキサイド&ダニー・パンの『the EYE』(03)、パン・ホーチョンの『大丈夫』(03/映画祭上映)、ウォン・ジンポーの『ベルベット・レイン』(04)など気鋭の若手監督作をバックアップしてきた。そんな彼が『九月に降る風』にプロデューサーとして参加することになった経緯は、監督トム・リンの友人だったツァンの愛娘ツァン・ポーイーからこの映画の脚本を読むよう勧められたのがきっかけだ。トム・リンの自伝的体験が反映された脚本を一読後、その清新な物語に魅了されたエリック・ツァンはこう語る。「とても感動した。青春の思い出をテーマにし、とてもストレートで新鮮だった。台湾映画界は今、新世代が生まれる時代に差し掛かっていて、この脚本なら新たな風格をもった台湾映画が誕生するはずと直感した
主人公の父親役で特別出演を果たしたエリック・ツァンは、台湾版を観た中国大陸や香港の観衆からこう尋ねられたと言う。「台湾人は卒業式の時に泣くんですか?」。エリック・ツァンは笑う。「中国大陸や香港では、卒業式の日には、グランドに教科書を持って行って焼き捨てたいと思うからね
そこで、彼は『九月に降る風』(原題は「九降風」)と同じ、1997年前後の時代設定で、9人の高校生を主人公とした青春群像劇という共通コンセプトのもと、中国大陸と香港で姉妹編を製作する“九降風映画計画”を発表。異なった文化的背景を利用して、中華映画圏でそれぞれ火花を散らせ、新たな才能の誕生を促そうというわけだ。「新しい監督たちには、商業的、芸術的定義についても斬新で、希望があると感じた」とエリック・ツァン。「彼らに勇気を与えて、積極的に支援すれば、きっと良いものを作りあげるはずだ。ジャッキー・チェンやチャウ・シンチーも、そうやって競争して良い映画を作って来た。私は、つねに若者たちとコミュニケーションを取り続け、資金的な後ろ盾となって、彼らの天分を引き出したい
ちなみに、香港版(「烈日當空」監督:ヘイワード・マック)は暴力やセックス、携帯といった新時代の要素を取り入れて台湾版との対照を成し、中国大陸版(「攤開你的地圖」監督:韓延)は、2つの街を舞台に貧困と開放を対比させて、憤りとやるせなさを表現するというように、ひとつのテーマで3つの文化の違い、民族的な感情の違いが反映される興味深いプロジェクトとなった。

ポケベルが鳴ったら…全員集合!

この映画の舞台となった1996~97年は、台湾でもまだ携帯電話は普及しておらず、若者たちのコミュニケーション・ツールはポケベル(台湾での名称はBB Call)が一般的だった。『九月に降る風』でもイェンがポケベルの一斉通知で仲間たちを深夜の学校のプールに呼び出す様子がリアルに再現されている。余談ながら、日本と同じように、台湾でも漢字に数字を当てた愛のメッセージが大流行した。たとえば、「520」=「我愛你(君を愛してる)」が、「52406」=「我愛死你了(君をとても愛している)」となる。

厳しい教官が不良学生の親代わり?

台湾の学校には、教師のほかに学校の規律を守る不良学生たちの“取締り役”が存在する。その名も“軍訓教官”。彼らは現役軍人であり、性別を問わない。『九月に吹く風』のクン教官も、イェンたちの行動に目を光らせ、授業中にもかかわらず、野球場で大騒ぎをした彼らを呼び出して、厳しい注意を与えている。生徒たちも、教官から退学処分を下されないよう、意識して行動しているが、劇中、そのことが原因で、ヤオシンとポーチューの対立を招いてしまう。一方で、バイクの盗難事故に巻き込まれたチーションの将来を人知れず案じている教官は、不良学生の親代わりのような存在といえるかもしれない。ちなみに、70年代の台湾民主化による学生運動の抑圧が主目的だったこの教官制度は、2020年を以って廃止が決定している。

日本のサブカルチャーに夢中!

96年夏といえば、昨年末、急逝した元タレント、飯島愛さんのAV界からの引退が、台湾の青少年たちの間でセンセーショナルな話題を巻き起こした。同じように、学校の屋上への扉に鍵がかけられ、それを開けようとしたとき、チョンハンがふざけて喘ぐのが日本語交じりというように、日本のアダルトビデオの影響力は計り知れない。
一方、チーションが「ドラゴンボール」のフィギュアコレクターというように、今も昔も日本の漫画やアニメは、台湾の若者たちの流行語やトレンドセッターとなっている。90年代後半、台湾で人気を博した日本の漫画は、「シティ・ハンター」や「スラム・ダンク」のほか、多くの少女漫画が挙げられ、手塚治虫やあだち充の作品は時代を超えて広く愛されている。トム・リン監督自身、あだち充を敬愛していると公言するように、『九月に降る風』の美術にはあだち漫画がそこかしこにレイアウトされているのにも注目。そして、日本の漫画やアニメは、時に台湾の少年たちの将来の理想像にもなった。

恋人たちが愛を育む?2人きりの空間

イェンとデートするユンが、彼の浮気相手、モンルンと鉢合わせするのが、レンタル・ビデオルーム。その手慣れた素振りからも、イェンがここの常連であることが判る。90年代、MTVと呼ばれて流行し、若者たちの溜まり場となった。利用法は、カウンターでお気に入りのレーザーディスクを借りて、個室で各自映画を鑑賞するもの。カップルでも友だち同士でも利用可だが、現在は著作権の問題とDVDの普及により、人気は下火に。ちなみに、イェンとユンが一緒に観ている(?)映画は、ホウ・シャオシェン監督の『恋恋風塵』(87)。

最も難航したキャスティングは?

08年の東京国際映画祭アジアの風部門に出品されたとき、ヤオシン役のワン・ポーチエとチーション役のチウ・イーチェンが来日。ポーチエは、「現代と比べて、当時は情報もなくて、かなりシンプルだったと思います。そのシンプルな時代をどのように感じて演じればいいのか大変でした。でも、時代は違いますけど、僕とヤオシンは似ていると思います。以前は反抗的だったし、何をするにも衝動的で、義理人情のような男の友情を大切にしていました。だから、昔の自分自身を見ているように演じました」と振り返り、イーチェンは、「チーションはとても大人しい、色んな人の言うことを聞く高校生なんですけども、そこが僕と違うところですね。一番印象深かったのは、夜のプールのシーンです。肉体をすべてさらけ出さなければならなかったので、トレーニングして撮影に臨みました」と笑わせた。そして、1000人の中から7人を選んだキャスティングで最も難航したのがハン役だったと明かしたのは、プロデューサーのひとり、ゲイリー・ツォン。「クランクインの1ヶ月半前になっても決まらず、ある日、監督が市場へ買い物に行ったんです。そこで、たまたまガヤガヤと騒いでいた高校生たちの中から見い出したのが、リー・ユエチェンでした。彼が一番のお喋りで、その話し方が監督のイメージにぴったりだったんです

C R E D I T

監督・脚本:トム・リン(林書宇)
プロデューサー:エリック・ツァン(曾志偉)、イェ・ルーフェン(葉如芬)
出演:リディアン・ヴォーン(鳳小岳)、チャン・チエ(張捷)、ワン・ポーチエ(王栢傑)、チウ・イーチェン(邱翊橙)
2008年/台湾/カラー/ビスタ/ドルビーSRD/107分 原題:九降風
提供:アジア・リパブリック 配給:グアパ・グアポ+アジア・リパブリック
(C)2008 Mei Ah Entertainment Group
http://www.9wind.jp/

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2009/07/26/21:27 | トラックバック (0)
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