インタビュー
三宅伸行監督

三宅 伸行(映画監督)

映画「掌の小説」について

公式

第22回東京国際映画祭 日本映画・ある視点部門正式出品作品
山形国際ムービーフェスティバル2009招待作品
全州(チョンジュ)国際映画祭2010 公式招待出品作品

2010年3月27日(土)より、ユーロスペースにて モーニング&レイトショー他全国順次公開

初長編作品『Lost & Found』もそうであったが、本作『掌の小説』第2話『有難う』においても、三宅監督は、その繊細な視点で掬いあげる清新な抒情と、妥協の介在しない技巧による映画作りで若手作家らしからぬ手腕を見せている。画面の行間から滲み出るたおやかな詩情は、交錯する人物の運命を予感させる深遠な世界を縁取る。その意味では、鑑賞者に画面に秘められたサインを感じ取ることができるかという集中力を要求する深さがあるが、優しさに満ちた三宅監督の人間賛歌には観る人を遠ざけるような難解さは皆無である。その滋味深く澄んだ世界を描いて豊饒な作品は、来るべき作家としての精彩を放っている。
文豪・川端康成と対峙した気鋭・三宅伸行監督にお話を伺った。 (取材:鎌田 絢也

三宅伸行(映画監督)
1973年 京都府出身 同志社大学卒業後、広告代理店勤務を経て、映画監督を志し渡米。ニューヨーク市立大学院映画学科にて2年間映画制作を学ぶ。卒業制作の「ASLEEP」ではシティービジョンズニューヨークにて優秀賞を受賞。卒業後は、カメラマンとして仕事を続けながら監督した「116」は、パームスプリング映画祭などで入賞。2006年に監督した短編「遺影」は、小津安二郎記念蓼科高原映画祭でグランプリ、山形国際ムービーフェスティバル(YMF)で準グランプリを受賞した。YMFからスカラシップを受けて制作した初の長編作品「Lost & Found」は、オースティン映画祭にてグランプリに輝いた。現在は2007年に立ち上げた映像制作会社Gazebo Filmにてディレクターとして活動中。

繊細なる技巧

――まずは、この川端康成原作『掌の小説』映画化プロジェクトに参加された経緯をお聞かせください。

三宅伸行監督1三宅 この映画は、僕にとってはじめて人に頼まれて創ったプロジェクトなんですけど、2006年に山形国際ムービーフェスティバルで坪川監督(『掌の小説』第3話監督兼プロデューサー)が審査員をされていたんですね。その時に出品していた『116』という作品を気に入って頂いて、坪川さんから「監督をやりませんか。」といきなり電話がかかってきまして、「やります!やります!」と(笑)。どんな作品かも聞かずに受けました。それから122編ある小説を一度全部読んでみてくださいと言われて、実はその時『Lost & Found』の撮影3週間前だったような気がするんですよね。正直、それどころじゃないっていうのはあったんですけど(笑)、でもその時この話を頂いて「コレハ自分キテル!」と思って(笑)、これを逃す手はないと、だから『Lost & Found』を準備している時も、並行してこれについて考えてましたね。

――川端康成については思い入れがあったのでしょうか?

三宅 この映画に取り組むにあたって改めて読み直すと、川端康成作品はディテールに凝った写実的な作品が多くて、長いト書きを読んでるような叙景が凄かったりとか、今まで気づかなかった魅力を感じました。そうした視覚的な部分にインスパイアされたのが大きいですね。あとはそうした文学的な修辞をどう映像に置き換えるかということは、とてもチャレンジングなことだと思いました。

――原作の『有難う』は、1936年に清水宏監督(『有りがたうさん』)によって撮られていますが、ご覧になりました?

三宅 見てないんですよ、それはもう見ないでおこうと決めてました。クランクインする2週間前に助監督から、「三宅さん実は『有難う』って撮られてて、めちゃめちゃいい作品ですよ」って言われて(笑)、ハードルを上げられたんですけど、僕は「ああ、それちょっと今はいいんじゃないの……」っていう(笑)。意識するのやめようっていう。

――三宅監督作品『有難う』は、原作から『朝の爪』という一編を取り上げてミックスされていますが、そうした構成にされたコンセプトというのは?

三宅 原作ものをやるということはある意味覚悟がいることだと思うんですよ。自分も原作の小説を読んでから映画を見るという時はやっぱり意識しますし、特に川端康成原作ということになると、読んでいる人が圧倒的に多いと思います。それはたまたま自分が見つけてきた某作家とは全然意味が違うことだと思ったんですよね。そういうプレッシャーはすごくあったんですけど、そういう意味では逆にそれは自分のものにしないとやる意味が無いんじゃないかなと。ただその時に原作を全部変えてオリジナルにするとかそういうことではなくて、そこのフィルターはもう自分しかないので、自分が原作を読んだ時のここはいいなと思ったところは変えずにやろうということがひとつありました。それで他の作品を読んでいくうちに『朝の爪』に出てくる女性が同じ女性だったらって考えた時に、面白いなぁと、その時はじめて自分のものになったような気がしたんですよね。

――『Lost & Found』も、この『有難う』と同じく、ヒロインの視線の先にある何かを意識させる作風が印象的です。こうした女性の視点による物語は、監督の求めるテーマなのでしょうか?

『掌の小説/第2話「有難う」』三宅 女性を通してですか……そういう風に改めて考えたことはなかったんですけどね。でも自分のバックグラウンドに女性に対しての何かがあるかもしれないなとは思いますね。僕は姉が二人いるんですね。だから女性をあまり女性と感じないような環境に育って、ある意味あまり美化していないのかもしれない。自分の人生の中で、すごく尊敬できる人に今まで何人か出会ってるんですけど、その人たちが3人とも女性なんですよ。だから女性を、たとえば恋人として描くとか、そういう風にあまり考えないのかもしれないですね。自分が話を書く時に、女性の視点で話を考えるっていうのは、それほど自分にとって不自然なことじゃないような気がしますね。

――『有難う』では、中村麻美さんが演じるラブシーンがありましたけども、三宅監督がそういうシーンをどのように撮るかひじょうに興味深く拝見しておりました。

三宅 実は僕の卒業制作でもあったんですけど、割とセックスのシーンていうのは書いちゃうんですよね。それは結構必要じゃないかと思ったりしてますね。僕はこれまで見てきた映画でいくつかセックスシーンに感動したことがあって、そういうシーンを撮れればいいなと思っています。ハル・ベリーがアカデミー賞を受賞した『チョコレート』でのセックスシーンというのがすごく美しいと思っていて、卒業制作の時には女優さんと一緒に『チョコレート』を見て話した記憶がありますね。

――『Lost & Found』と『有難う』の2作で主演を務める寉岡萌希さんの透明な存在感がとても印象的ですが、女優・寉岡萌希に対する思い入れは?

三宅 僕の中で一番「ビビッ!」と来たのが萌希ちゃんだったんですよね。最初からずっと。「なんてこの人映画っぽい顔してるんだろう」と思って、映画っぽいなぁと、それが一番でしたね。『有難う』では星ようこさんと萌希ちゃんに来てもらって、最初は助監督さんに真面目に本読みって言われてたんですけど、萌希ちゃん台詞ないし(笑)、でも会って話がしたくて、その時に何を話したか具体的に覚えてないんですけど、一応僕はストーリーを考えてきて、設定や二人の関係について話をしたと思います。

――脚本の荒井真紀さん、撮影の八重樫肇春さんとの強力なチームワークが三宅作品の肝であるように思われますが、お二人とはどういったバランスで映画に取り組まれているんでしょうか?

三宅 割とそれぞれのやりたいことが尊重されて出来上がっている気がしますね。僕は監督を特別だとは思っていないところがあるんで、監督もクルーだっていう意識が結構強いんですよね。そういう意味ではキャストもクルーだって思うんですけど、僕は作家という意識があまりないのかもしれないです。僕はずっと荒井と八重樫とやってるんですけど、彼らの方が才能があると思ってるんですよ。たとえば、僕はもともとカメラをやってたんで、八重樫より機材については詳しかったりするんですけど、ただ八重樫にカメラを持たせて撮らせると十倍良くなるような気がするんですよね。

――『Lost & Found』上映の際のトークショー(3/16シネマート六本木『インディペンデント映画の作り方』)を興味深く拝聴させていただきました。監督はインディペンデント映画に果敢に挑戦しているわけですが、インディペンデント映画の魅力とは?

三宅伸行監督2三宅 これは極論かもしれないですけど、流行と言われるものが、ある時代を過ぎるとなかったものになるんじゃないかなっていう気がするんですよね。どの時代のどのアーティストというのではないんですけど、みんなのぼせた状態で出来上がっているような気がして、やっぱりインディペンデント映画で、ちゃんとした作品を創っておいた方がいいんじゃないのかなっていう気持ちがすごくありますね。そういう使命感みたいなものは全然ないんですけど、インディペンデントだから創れるものもあるし、今回みたいに上映することすら出来るっていうことを考えると、もう少しそういう作品で、妥協しないっていう言い方は変なんですけど、やっていきたいなという気持ちはありますけどね。

――三宅監督は自作を携えて積極的に海外の映画祭へアプローチされているわけですが、昨今は各国に点在する映画祭によって若い才能が発見されており、インディペンデント映画界も活況を呈しております。三宅監督がお感じになられた海外の映画祭の様子や各国のインディペンデント映画事情をお聞かせください。

三宅 海外の映画祭に行くとクォリティの差にびっくりしますね。それはストーリーとかではなくて、圧倒的に画のクォリティがすごく高いのと、俳優の演技ですかね。「何なんだこれは!」っていう驚きがありますね。完成度がすごく高いです。それを僕はニューヨークにいた頃、『116』という作品を創ってる時に、そういうクォリティを意識して臨みましたね。その技術に対してのこだわりっていうところが大きな差だなぁと感じましたね。演技にしても、日本の自主製作の映画を見たときに、参加している俳優さんの演技が、技術や能力とは別のところでパッションが違うんじゃないかなって思うんですよ。
その点海外の環境が良いのは、海外だと映画を創るという行為がアーティスティックな活動だっていうことでリスペクトされています。僕も『116』を創る時にオーディションをしたんですけど、その時に僕の映画に出たいということでアラン・ニーという人が来てくれて、60代の男性の方なんですけど、もうその人が素晴らしくて、すぐお願いしますということになりました。その人も「キミの脚本を気に入ったからノーギャラでいいよ」って言ってくれて、「ただね、キミの脚本で気になるところがあってね、それは台詞なんだけど……」ってことで、この言い回しはこう言った方がいいんじゃないかとかアドバイスをくれたんです。僕が「アランさんも脚本書くんですか?」って聞いたら、『ネバーランド』の原作者だったんですよね。ジョニー・デップの(笑)。学生の作品にアンタが出るのかい!?っていう、オフではなくてブロードウェイの劇作家の人なんですけど、ほんとうにやりたいっていうパッションがあるから学生の作品にでも出るっていう、じゃあ日本でそういうことって起こりえるのかなぁって思ったんですよね。だからもっともっとそういう垣根を越えた活動があると、自主映画とか低予算映画とか、インディペンデント映画って盛り上がるんじゃないかなと思いますね。

――最後の質問になってしまいました。三宅監督作品は、しっかりと構築された世界観と物語性、映画のリズムが醸し出す繊細な抒情や流麗なカメラワークに見る技巧など、とても完成度が高く見応えがあり、その手腕はメジャー級であると思います。今後、依頼のプロジェクトであってもビッグバジェットで映画を撮りたいという気持ちはおありですか?

三宅 ありますね。さっきのインディペンデントの話と矛盾しちゃうのかもしれないですけど、映画って見てもらうことが大事だと思うんですよ、たとえば今回六本木のシネマートでやって、たくさんの人に見に来て頂いて、ほんとに感謝してるんですけど、やっぱり映画ってもっと見てもらうべきメディアだと思うんですね。そう考えるとやっぱりもっと大きなバジェットでやりたいなぁって思いますね。

三宅監督の穏やかな口調に、その繊細な作品は監督のお人柄から生まれてくるのだということに合点した。女性の、特に少女の清らかな感受性を見つめる作風は、昨今の映画ではなかなか見られなくなった内省する情緒を体現して美しい。「女性映画」の名手として現代の成瀬巳喜男となるか。しかし一方で、複数の人物が交錯する運命論的なドラマを仕掛けるストーリーテリングや、端正かつ流麗なカメラワークを駆使する技巧派の一面も三宅作品の特徴だ。繊細なる技巧。未知なる可能性を秘めた日本映画の新星である。

(取材:鎌田 絢也 / 取材協力・編集:夏目 深雪

掌の小説 2010年 日本
原作:川端康成(新潮文庫) 監督:坪川拓史,三宅伸行,岸本司,高橋雄弥
プロデューサー:浅野博貴,坪川拓史,小林洋一 撮影:板垣幸秀,八重樫肇春 照明:田中利夫
録音:山方浩 美術:太田喜久夫,井上心平 衣装:宮本まさ江 メイク:清水ちえこ 特機:枡井正美
音楽:関島岳郎 制作:T-artist 主題歌:「四季」Kagrra,(KINGRECOREDS)
出演:吹越満,夏生ゆうな,寉岡萌希,中村麻美,長谷川朝晴,福士誠治,清宮リザ,菜葉菜,香椎由宇,
奥村公延,小松政夫,コージー冨田,星ようこ,森下哲夫,内田春菊,内田紳一郎,有川マコト,三浦佳子
2010年/日本/80 分/カラー&モノクロ/35mm/ステレオ
製作:「掌の小説」製作委員会 配給:エースデュース 配給協力:グアパ・グアポ
(C)「掌の小説」製作委員会
公式

2010年3月27日(土)より、ユーロスペースにて
モーニング&レイトショー他全国順次公開

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  • 監督:マーク・フォスター
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2010/03/29/13:45 | トラックバック (0)
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