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「私こそが、シネマ・ノーヴォだ!」─没後30年(1938-1981)─

『グラウベル・ローシャ ベストセレクション』
開催決定!

2011年6月18日(土)より、ユーロスペースにてロードショー

シネマ・ノーヴォの誕生を告げた
グラウベル・ローシャの代表作5本連続上映

『アントニオ・ダス・モルテス』
『アントニオ・ダス・モルテス』
目覚ましい経済発展のもと、ワールドカップを待ち受け、オリンピックを控える現代から時計の針が静かに巻き戻されていく……1960年代の遙か彼方の第三世界、ブラジルの地平に閃光が走った。『バラベント』『黒い神と白い悪魔』『狂乱の大地』そして『アントニオ・ダス・モルテス』と矢継ぎ早に発表した作品で、ヨーロッパ映画人の目を見はらせた。ゴダールをして、ベルトルッチ、ストローブ=ユイレ、スコリモフスキと並び“もっとも新しい映画監督の一人”と言わしめ、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントスを押しのけ、ブラジルのシネマ・ノーヴォの誕生を世界に告げた男、それがグラウベル・ローシャだった。

ローシャのフィルムは、そのものが灼熱のカオスだ。熱に浮かされたかのように動きまわるカメラ、殺戮、叫び、走りまわる人々、血まみれで転がる死体、舞い上がる砂埃……。だが、カオスはそんな喧噪の中ばかりにあるのではない。

じつはローシャの世界は、静けさに支配されている。『アントニオ・ダス・モルテス』に流れる民謡ですら、サンバの強烈なリズムやけたたましさなど、本当に同じ国のものかと、一瞬戸惑うばかりの、虚けたようなもの悲しさを湛えて、うめくように低く流れる。静けさが支配するなか喧噪にもました目眩が起きる。人々のあえぎが押し殺されて、すべては太陽によって引き起こされた残酷なファンタジーだとでも言うかのように、人々は不条理な運命を駆け抜けるのだ。

ブラジル民衆の歴史と集合的記憶をになうバラッドが現代と歴史を媒介し火花を散らす。残るのはフォークロア的世界の巨大さとそのスケールに拮抗しようとするグラウベル・ローシャという作家の狂気……。

狂気をちらつかせながら、そんな映画を次々に作り、慌ただしく死んでいったグラウベル・ローシャは、何よりもその荒々しくも繊細なスタイルを武器に、今も映画そのものを震撼させている。

2011年6月18日(土)より、ユーロスペースにてロードショー

上映タイトル一覧

『バラベント』 Barravento ( 1962年/モノクロ/79分/日本初公開 )

第13回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭最優秀作品メダル受賞
<スタッフ> 製作総指揮:ロベルト・ピレス/製作:ロベルト・ピレス、ブラーガ・ネット、レクス・シンドラー、デヴィッド・シンガー 監督:グラウベル・ローシャ/原案・脚本:ルイス・パウリーノ・ドス・サントス、グラウベル・ローシャ、ジョゼ・テレス 原案・脚本:撮影:トニー・ラバトニ/美術:エリオ・モレーノ・リマ/編集:ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス 音楽:カンヒキーニャ
<キャスト> フィルミノ(アントニオ・サンパイオ):アントニオ・ピタンハ/コタ:ルイザ・マラニョン ナイーナ:ルシー・デ・カルバーリョ/アルアン:アルド・テイシェーラ/メストル:リジオ・シルバ

『バラベント』ブラジル北東部バイーア地方。アフリカからの奴隷の最古の集積地。人々は、祈祷師にすがり、呪いをかけ、トランスに接して、さらに信仰にのめり込む。アフリカからの黒人奴隷文化に根ざした漁師たちの素朴な生活が息づく海岸の村に、ある日、白いスーツの青年が都会から戻って来る。以前村を出た漁師仲間。男は、人々のとらわれている因習、特に民間信仰カンドンブレから人々を解放しようとする。これをきっかけに村にはさまざまな波が立つ。地引き網漁の網元による零細漁民の支配、何とか支配から独立を計ろうともくろむ青年、彼を見つめる周囲の眼、屈折した人種的偏見、それに男女関係さえも・・・。
因習こそが、この地域の政治的かつ社会的な抑圧、そして絶望的な貧困の原因であった。全編に響き渡る民謡、人々の活力、ハイチのブードゥーに通じるカンドンブレの儀式の生々しさなど、まさしくバラベント(大地と海が一変し、愛、生活、社会が変貌する激しい瞬間)の予感を捉えた作品である。

『黒い神と白い悪魔』 Deus e o diabo na terra do sol
( 1964年/ブラジル・コパカバーナ・フィルム製作/モノクロ/ 118分(完全版) )

1964年ポレッタ・テルメ自由映画祭最優秀作品賞 1966年サンフランシスコ映画祭大賞受賞
1964年カンヌ映画祭出品

<スタッフ> 製作:ルイス・アウグスト・メンデス、グラウベル・ローシャ、ジャルバス・バルボサ 監督・脚本:グラウベル・ローシャ/原案・台詞:グラウベル・ローシャ、パウロ・ジル・ソアレス 撮影:ヴァルデマール・リマ/美術:パルロ・ジル・ソアレス/編集:ラファエル・フスト・バルベルデ、グラウベル・ローシャ 音楽:バッハ、ビラ=ロボス/歌:セルジオ・リカルド
<キャスト> マヌエロ:ジェラルド・デル・ヘイ/ローザ:イオナー・マガリャーエス/コリスコ:オトン・バストス/ダーダ:ソニア・ドス・ウミルデス/セバスティアン:リジオ・シルバ/アントニオ・ダス・モルテス:マウリシオ・ド・バッレ/セゴ・ジュリオ:マロン 神父:ジョアン・ガマ/モラエス:ミルトン・ローザ/大佐:アントニオ・ピント/モンテ・サントの住人たち

『黒い神と白い悪魔』 ルイ・ゲーラ監督の『小銃』(65年)とともに、ブラジル映画のヌーヴェル・ヴァーグ<シネマ・ノーヴォ>の誕生を世界に告げた作品。不毛な土地で生活に追いつめられた貧しい牛飼いマヌエロは、死んだ牛のことで領主にむち打たれ、はずみで領主を殺してしまった。お尋ね者となったマヌエルは放浪の預言者として信者を集める邪教の師にすがり、その黒人とともに各地を渡り歩き、政府軍と戦うまでになる。彼らに所領を踏みにじられた教会や大地主は、やがて群盗カンガセイロの殺し屋として名高いアントニオ・ダス・モルテスを雇い討伐に差し向けた。フォークロアと象徴の間から生まれたかのような得体の知れないこの男は正義と何の縁もない。子供まで殺され、カンガセイロに身を投じることを余儀なくされたマヌエルは妻とともにどこまでも逃げる・・・。 黒い神たる黒人神父と白い悪魔・殺し屋アントニオとの間で翻弄される主人公。ブラジル北東部に実在した幾多のカンガセイロのイメージから生まれ、民衆の想像力の中で発酵していったフォークロアの世界を映像化し、代表作『アントニオ・ダス・モルテス』と対になる重要作品である。神話伝説に通じる時代活劇世界でありながら、荒涼とした風土と生活の細部がドキュメンタリーのように描かれ、それでいてバラッドのあふれるフォークロア・ミュージカルでもあるようなこの多面的な世界によって、ローシャは作家としての本領を世界に向けて発揮した。

『狂乱の大地』 Terra em transe
( 1967年/ブラジル・マパ・フィルム=ディフィルム製作/モノクロ/107分/日本初公開 )

1967年カンヌ映画祭ルイス・ブニュエル賞・国際映画批評家連盟賞
ロカルノ映画祭グランプリ・批評家賞 ハバナ映画祭批評家賞・優秀映画賞受賞

<スタッフ> 製作総指揮:セリート・ビアナ/共同制作:ルイス・カルロス・バレート、カルロス・ディエゲス、レイムンド・ヴァンデルレイ、グラウベル・ローシャ/監督・原案・脚本:グラウベル・ローシャ/撮影:ルイス・カルロス・バレート 美術・衣裳:パルロ・ジル・ソアレス/編集:エデュアルド・エスコレル/音楽:セルジオ・リカルド、カルロス・ゴメス“O Guarani”、ビラ=ロボス“Bachianasno.3.6”、ジュゼッペ・ヴェルディ『オテッロ』序曲
<キャスト> パウロ・マーティンス:ジャルデル・フィーリョ/サラ:グラウセ・ローシャ/ポルフィリオ・ジアズ:パウロ・アウトラン フェリペ・ヴァレイラ:ジョセ・レウゴイ/フリオ・フエンテス:パウロ・グラシンド

『狂乱の大地』 架空の共和国エル・ドラドを舞台に、抑圧と解放をめぐり揺れ動く人々の様を、現実、観念、象徴、回想・幻想、さらに夢想を交錯させて語る壮大な寓話。
理想に燃えたジャーナリストにして詩人パウロ・マーティンスは、保守政治家ジアスに眼をかけられていが、地方へ行き出会った活動家のサラと意気投合し、民衆に人気の進歩派議員ヴィエイラを貧困と不正義を変革する新しいリーダーとして知事に押し上げた。しかし選挙に勝つと、ヴィエイラはこれまでのしがらみにとらわれ何一つ変革ができない。失望したパウロは首都に戻ると、国内一の企業家フエンテスに近づくが大統領選への動きの中で裏切られる。パウロは武装闘争に向けて立ちたいと再びヴィエイラと組むのだが・・・。
政治と文化の対立と土着状況の中での、必然的に起こる挫折を痛々しくそして荒々しくえぐり出す。公開当時、すべてを否定していくこの映画のアナーキーな方向性が、映画界を超えて多大な論争を巻き起こし、メディアだけでなく、国会でさえ論じられた。
ローシャは「私にとって何よりも重要な作品」と語る。実際、比喩として浮かび上がるブラジル社会への透徹した分析眼は、アントニオ・ダス・モルテスものを超える。幼少より馴染んだ世界に依拠していたアントニオ・ダス・モルテスものに対し、この作品は、知的操作によってより深い表現を意識的に探求したもので、ローシャ自ら「論争的・扇動的映画」と呼んだ。

『アントニオ・ダス・モルテス』 O Dragão da maldade contra o Santo Guerreiro (Antonio das Mortes)
( 1969年/ブラジル・マパ・フィルム=フランス・クロード・アントワーヌフィルム製作/カラー/100分 )

1969年カンヌ国際映画祭監督賞、ルイス・ブニュエル賞受賞
<スタッフ> 製作・監督・原案・脚本・美術:グラウベル・ローシャ/撮影:アフォンソ・ベアード/編集:エドゥアルド・エスコレル 音楽:マルロス・ノブレ、ヴァルテル・ケイロス、セルジオ・リカルド、ブラジル北東部の民謡 <キャスト> アントニオ・ダス・モルテス:マウリシオ・ド・バッレ/マトス:ウーゴ・カルバナ/ラウラ:オデーデ・ラーラ 教授:オトン・バストス/オラシオ大佐:ジョフレ・ソアレス/コイラーナ:ロリバル・ハリス/アントン:マーリオ・ブスマン 聖女:ローザ・マリア・ペンナ/マタ・バカ:ビニチウス・サルバトーリ/神父:エマノエル・カバルカンティ バティスタ:サンテ・スカルダフェッリ/マダレーナ:コンセイサン・センナ/ミラグレスとアマルゴーサの住民たち

『アントニオ・ダス・モルテス』ローシャ自身が「私にとって、真に映画的といえる最初の試み」と語る作品。
アラゴアス州の小さな町では、若い聖女のもとに集った大勢の信者が激しく踊るのを憂慮した警察署長が旧知の殺し屋アントニオ・ダス・モルテスを呼び寄せた。信者の中にカンガセイロがいて、アントニオは早速この男に深手を与える。しかし町を支配する地主の姿勢を知り、信者の様子を見、聖女と話すうち、殺す相手を間違えていたのではないかと思うようになる。折しも地主の妻が優柔不断な情夫を差し措き、アントニオに夫の殺害を持ちかけた。そんなとき地主の雇った別の殺し屋一味が町に到着する。アントニオが真の敵は誰かを知る頃、彼らは信徒たちを惨殺し、両者の対決は迫っていた・・・。
タイトル・バックの大蛇を刺しつらぬく聖ゲオルギウス。その伝説がこの映画の下敷きである。聖書の英雄がブラジルでは土着化し黒人奴隷の解放の伝説に転化された。映画の中ではブラジルの原始宗教と共鳴し合い、フォークロアのパトスをかき立てる。伝承のバラッドに、ブラジルのシンセサイザー音楽の開祖マルロス・ノブレのスコアが絡みあい全編セッションといっても良い。
『黒い神と白い悪魔』とともに、一匹狼の死神アントニオが活躍する姉妹編だが、アントニオの無差別な殺戮が、革命と民衆の解放に事態を逆転させていくさまがアントニオに焦点を当てて描かれる。ローシャの作風は、より直接的に西部劇へと傾斜し、そんな世界の空気を、ユーモアさえ交えて体感させようとする。残虐非道な支配者のもとで、殺し屋がいつの間にか虐げられている農民を解放する役回りを演じるという逆転−−そこに民衆の願望が伺える。

『大地の時代』 A idade da terra
( 1980年/ブラジル・エンブラフィルム製作/カラー/ 151分/日本初公開 )

1980年ヴェネツィア国際映画祭出品
<スタッフ> 製作:キム・アンドラーデ/監督・原案・脚本:グラウベル・ローシャ/撮影:ロベルト・ピレス、ペドロ・モラエス、ロケ・アラウホ/美術・衣裳:パウラ・ガエタン・、ラウル・ウィリアム/編集:カルロス・コックス、ラウル・ソアレス、リカルド・ミランダ 音楽:ロジェリオ・デゥアルテ、ビラ=ロボス
<キャスト> ブラームス:マウリシオ・ド・バッレ/インディオのキリスト:ジェス・バラダン/黒人のキリスト;アントニオ・ピタンハ/軍人のキリスト:タルシシオ・メイラ/革命的なキリスト:ジェラルド・デル・へイ/オーロラ・マダレーナ:アナ=マリア・マガリャーエス/アマゾンの女王:ノルマ・ベンゲル/悪魔:カルロス・ペトロヴィッチョ

『大地の時代』 1981年に死去したグラウベル・ローシャの遺作である。
鮮やかな色調のシーンが次々に続く。夜明けの山並み、バイーアの祭、リオのカーニヴァル ダンス、ブラジルの政治状況の総括、ブラジリアでの工事現場、バイーアの海岸で行われる歴史劇といった具合に、バイーア、ブラジリア、リオ・デ・ジャネイロを舞台にし、過去と現在を往還る映像と音によるシンフォニー。観光案内や第三世界の定番のような、あるいはテレビで見慣れた映像は現れることがない。人々のエネルギーが画面にみなぎる。映像に稀な力があり、ヴィデオアートとも違う映像詩が展開する。ローシャ自身は「ブラジルの肖像の脇に置かれた私の肖像画」という言葉を遺した。映画の解体を先取りするかのようなこの試みを、あるいは反シンフォニーと呼ぶべきだろうか。ポストモダンを経た現代にこそ、その真の意味が理解されるべき作品である。30年以上の時を経て再びファンの眼に触れる条件は整った。ヴェネツィア国際映画祭で上映された際、作家のアルベルト・モラヴィアやミケランジェロ・アントニオーニ等が絶賛した事でも話題になった作品。

2011年6月18日(土)より、ユーロスペースにてロードショー

ヨーロッパ映画 1895~∞ ([MOOK21]シリーズ) [大型本]
ニュー・ブラジリアン・シネマ―知られざるブラジル映画の全貌 [単行本]
ニュー・ブラジリアン・シネマ―知られざるブラジル映画の全貌 [単行本]

2011/04/23/20:16 | トラックバック (0)
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