地球はイデ隊員の星

連載第20回 放送第13話『オイルSOS』

 国際科学警察中近東支部から油田やタンカーを襲ったと報告のあった怪獣ペスター(本編中では名前は明かされない)が、食糧である大量の油を求めて、大規模精油施設のある東京湾岸にやってくるお話です。
 「ウルトラマン新研究 その「戦争と平和」論概説」(グループK-76編/朝日ソノラマ)が端的にカテゴライズしている通り、ペスターは、人間との対立要因が経済的利益に分類される典型的な怪獣です。小さな頭部はコウモリそっくり。つまり油は現代都市機能を維持する血液であり、その油を飲むペスターは一種のヴァンパイアといえる。2体の巨大ヒトデがくっ付いたようなペスターが、中近東から日本へ、オイル・ロードの海路を泳いできた姿を想像すると、その不気味さとスケールにゾクゾクします。

 僕はSF映画や怪獣映画について何がしか考えるとき、1980年に美術出版社から出た「新映画事典」を引っ張り出し、美術評論家・石崎浩一郎によるSF映画の項を読み直して頭のなかを調整するのを、自分の習わしにしています。
 「戦後の怪獣映画には、人類の未来に対する不安が影を落としている」
 「SF映画の怪物こそ人間の不安の象徴」
 この定義は、今でも積極的に立ちかえっていい基本だと思います。
 ペスターは、テーマとデザインがピッタリ噛み合ったメタファーのお手本。輸入オイルに依存しながら経済成長した日本の、エネルギー自給率の低い不安定な足元を揺さぶる怪獣です。さすがは金城哲夫脚本・円谷一演出の大黒柱チームらしい骨太さ。
 ここまで書いて久し振りに聞きたくなったのが、パンタ&HALの『マラッカ』(79)。オイル・ロードをテーマにしたアルバムです。パンタといえば頭脳警察の人ですから、末聴の方は直接的なメッセージ・ソングを連想されるかと思いますが、もともとストーリーテリングの才が高く、SF映画好きであるらしい(なにしろバック・バンドの名はキューブリックのあれから)パンタはそこらへんが上手いんですよ。パイプラインが走るアラビアの砂漠の女性に「おれの身体はもうすでにきみのものだ」と熱愛を捧げるオリエンタルなラブソングが、おれ=日本人と視点をズラせば途端に怖いものになるという。『マラッカ』を聞きながらペスターに思いを馳せれば、そういえばブルー・オイスター・カルトの「ゴジラ」を筆頭に、SF/特撮ジャンルとロックは相性が良かったんだと気付いて燃えてきます。こうして連想に心身を任せて何かを探し当てるのは愉しいな。お金のかからない、僕にとってはいちばんの道楽です。

『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 こういう怪獣が相手だと、科学特捜隊の描写も自然とシリアスになる。岩本博士も交えた作戦会議→空挺隊との協力による防衛線設定→実戦→現場のミスによる被害の拡大とその対処と、本家の東宝怪獣映画並みにリアリティを重んじた展開となります。
 火薬やガソリンを着火させて大きなミニチュア・セットを爆破させ、炎の中で1回きりの撮影を敢行したコンビナート炎上場面は、昭和特撮の語り草でしょう。東京湾に上陸して周囲を火の海にしたペスターは、皮肉にもその熱さにやられてペシャンコになります。もともと海中から現れた怪獣ですから、火に弱いのは当然。科学特捜隊もウルトラマンも、弱ったペスターよりコンビナートの鎮火が優先になり、ウルトラマンとペスターの格闘は描かれません。
 いつもはしっかりと放つスペシウム光線も、今回は行きがけの駄賃のような慌ただしさ。ウルトラマンが怪獣に対して(ちょっと悪いけど、キミの相手してる時間ないもんでさ)という態度をとるのは、極めて異例です。現実にかなりハードな撮影だったため、炎と熱風に囲まれたなかで格闘場面を撮るのは不可能だったことが見返すとよく分かります。
 爆発と炎上の迫力で知られる第13話で、もうひとつ僕が推したい特撮場面は、パトロールに飛ぶビートルを地上のムラマツキャップが見送るカットです。ミニチュアとライヴが同一画面に組み合わさった合成カット数あるなかでも、かなり際立っています。ローアングルのキレ、飛び去るビートルとそれを目で追うキャップの演技のタイミング、ジェット音が響いて遠ざかる芸の細かさ。おそらくは当時の世界最高水準のはずで、アナログVFXの限界にすでにもうずいぶん近づいています。

  以上、第13話の見どころでした。See you next week!
 ……と今回は珍しく、さっさと切り上げたい。イデ隊員が重大なミスをして、みんなから怒られるからです。今までの顕彰が全部ひっくり返る位、ボロボロなのです。

 まず、アラシ隊員とともにビートルに乗り込んでの東京湾パトロール。
 怪獣目撃情報の信ぴょう性を疑ってアラシ隊員に叱られ、
 「分かりましたよ、分かりましたよ」
 といつもより愚痴っぽく答えるので、すでに不吉です。新兵器開発もしている激務のイデ隊員ですから、まあ、これぐらいの疲労感は理解して頂きたい。
 で、ペスター出現。ラクダのコブのように身体に油を溜めこんでいる可能性が高いので、ムラマツキャップの指示があるまで攻撃は行わない、慎重な作戦行動が事前に取り決められます。ビートルを操縦するアラシ隊員の隣に座り、スタンバイするイデ隊員。ペスターが湾内に入ったら絶対に撃ってはいけないと念を押される。……しかし、撃ってしまう。ペスターは怒って火を吐き、海に浮かんだ囮のエサ用のドラム缶に引火して湾内は火の海に。
 「見ろ、最悪の事態になった。あれほど湾内の攻撃はいかんと注意したのに!」
 「申し訳ありません……。いきなり飛び出してきたので、つい反射的に撃ってしまったんです」
 「言い訳は無用だッ」
ウルトラマン Vol.4 [DVD] ムラマツキャップがこれほど怒るのは初めてです。しかし、この段階ではペスターに対してミサイル攻撃以外の選択は無かったようだし、イデ隊員自身、命令無視となることを認識した上で行動したわけではありません。不可抗力の面が多分にあると思います。なのにイデ隊員、しょげてしまい、「なにをボンヤリしているんだッ」とますます怒られてしまう。
 製油所の社長や役員のみなさんもカンカンです。なにしろ油が全て燃えたら、会社は再起不能の大打撃を負う。
 「湾内で発砲したらどんなことになるか、素人だって分かりそうなもんじゃないか。なにが科学特捜隊だッ」
 一般の人にこれだけキツいことを言われるのも初めて。責任を感じたイデ隊員、ひとりで飛び出します。今回のイデ隊員、ここからがいけない。消防隊員もたまらず避難するなか、ひとりで消火活動をしようとムキになって無線を無視します。完全に「勝手な行動」をしてしまい、ハヤタ隊員とアラシ隊員が探すことになって現場での科学特捜隊の動きが乱れるのです。
 最終的にはハヤタ隊員がウルトラマンに変身してペスターを倒し、両手を合わせた先から水流を出す不思議な能力を使って火災を消してくれたので解決。
 ところが助け出されたイデ隊員はすっかり打ちひしがれ、
 「イデは……科学特捜隊の隊員として、失格であります……。今日限り退職します」
 とまで口走ってしまうのでした。

 科学特捜隊の任務の重さがいかほどかを示す点では、好エピソードです。でも、こんな損な役回りまで押しつけられてくやしいなあ。失敗役が出来るのは、そりゃあイデ隊員しかいないけどさ。それでも第12話までのイデ隊員なら、大失敗してももう少し機転のあるところを見せるよ。それが、陰気な顔で黙りこんだり、思いつめた単独行動をとったり。これじゃあ、ふつうの打たれ弱いエリートだ。最もイデ隊員らしくない姿の連発じゃないか。便利屋扱いにも程があるぞッ。いかん、ちょっと泣きそう。

 冷静に考え直してみます……。ああ、そうか、これがイデ隊員の素の性質なのか。ミスを必要以上に(とやはり思うが)自分の責任と考える生真面目さ。ナイーブさ。不器用さ。
 僕はここまでイデ隊員を、かなり物事を達観した上で図太いぐらいに調子よく、三枚目を演じている男なのだと読み解いてきましたが、それも彼が努力して作った後天的な性格で、根はすこぶる純情なのかもしれない。金城・円谷コンビにそう教えてもらった気がします。うん、確かにそういう真っ直ぐな感性が芯に無ければ、人はムードメーカーにもトリックスターにもなれないよなあ。
 イデ隊員も失敗をするのだ、ということです。これだけデキるのにまだこういう青くさい姿をさらしてしまう、伸びしろの部分があると考えれば、イデ隊員はむしろ、ますます魅力的な男です。
 「君は立派な科学特捜隊員だ。我々の仲間だ」
 とムラマツキャップから励まされたイデ隊員、「本当だとも」と念を押してもらい、安心した笑顔になります。

 イデ隊員のおとこ語録:第13話 「ああ、良かったあ……」

 どうですか、この回復力の早さ。上司のフォローに温かい情を感じ取れば、へんにグチグチこねくりまわさず、素直に笑顔で立ち直る。素晴らしい。最後の最後でやっとイデ隊員らしい真の男らしさが戻りました。
 イデ隊員を囲む一同の笑顔からも、ふだんの愛され度が窺い知れます。そういえば、怪獣より鎮火が優先という珍しさを見せたウルトラマンだって、話の流れで見ていると、まるでイデ隊員を助けるため変身したように見えたのでした。
ふう。一時はどうなることかと思いましたが、逆に、よりイデ隊員のパーソナリティーに近づくことができたようです。良かったあ。

(つづく)

( 2011.12.3 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

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2011/12/03/17:48 | BBS | トラックバック (1)
若木康輔 ,地球はイデ隊員の星
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「ウルトラマン」第13話「オイルSOS」 A あしたはきっとやってくるさ!

油獣 ペスター 登場

Tracked on 2011/12/03(土)20:00:48

「ウルトラマン」第13話「オイルSOS」 A あしたはきっとやってくるさ!

油獣 ペスター 登場

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