地球はイデ隊員の星

連載第22回 放送第14話『真珠貝防衛指令』(中)

 人気の佐々木守脚本・実相寺昭雄演出の初登板エピソードが、なんとイデ隊員とフジ隊員の銀座デートから始まる、変化球の魅力について。
 科学特捜隊の公式スーツを着た2人が華やかな目抜き通りを歩く姿には、はっきりとヌーヴェルヴァーグの影響が窺えます。連想させるのが映画史に残る高名なものではなく、ジャン=リュック・ゴダールでいえば『男の子はみんなパトリックという名前なのね』(57)のような、初期の軽い小品なのがいい。パールに拘るフジ隊員の乙女心が分からないイデ隊員のドンカン振りは、まるでジャン=クロード・ブリアリのようだったりして。ガマクジラの襲来で逃げ惑うのが水着の女の子たちばかりなユーモアを見ても、ジャック・ロジエ『アデュー・フィリピーヌ』(60)のバカンスを思い出すしなあ。影響といっても、個々のカットのルックスがどうというのではありません。「おれたちの世代の登場人物はスタジオのセットのみで生きる隠花植物ではいけない。太陽の下に解放して本当に街を歩かせ、生きた空気を吸い込ませるんだ」という方法論を受け継いでいるところです。清新な気概から滲み出る、青春の香気と苦み。初期ヌーヴェルヴァーグ映画の、フランスの若者たちののらくらな遊興の陰には、常にインドシナの後味の悪さとアルジェリアの緊張がありました。イデ隊員とフジ隊員も、怪獣と戦う合間のお出かけです。

 では、肝心なところを考えます。2人のお出かけ、そこに恋の気配ありやなしや。
 Q.そもそも2人に、それがデートであるという認識はあったか?
 Q.フジ隊員が誘ったのは、なぜイデ隊員だったのか?
 Q.フジ隊員が見せたプライヴェートの女の子らしさに、イデ隊員はなにを感じたか?
 Q.フジ隊員のほうは、男性としてイデ隊員を意識していたか?
 ……なんか、シビアに突き詰めると、あいにくたいした感情は生まれていないととれます。冒頭の会話を起こしてみます。
『地球はイデ隊員の星』サムアップ・イデ隊員 「(フジ隊員が宝石店で真珠をうっとり眺め)きれいねえ」
 「早くしろよ、さあ」
 「ガタガタ言いなさんな。どう? このシックでチャーミングな光」
 「フジくんにもこんな心があったとは知らなかったよ」
 「失礼ね。あたしも女。しかも科学特捜隊員としては、いわば現代のファーストレディよ」
 「ところで買うのかよ、買わないのかよ」
 「ううん、ちょっと待っててよ」
 ここで、熱心にウインドウの陳列に顔を押しつけるフジ隊員の鼻がガラスでつぶれ、ナントカに真珠になっちゃうかわいいギャグがあり、銀座の街を歩きながらの真珠の高騰への不審(怪獣の存在示唆)へと話はすぐに移ります。
 雰囲気としては、あくまでも仲の良い同僚女子のショッピングのお供。イデ隊員は隊員のなかでいちばん男性っぽくないので、フジ隊員としてはかえって誘いやすかった。やはり、そこに特にトキメキは匂っていない可能性が濃厚です。
 もともとイデ隊員とフジ隊員は、なかよし。相性のよい関係なのは、第2話の軽口のやりとり、第8話の一緒に怖がる姿などの描写で明らかです。おでかけはその延長です。

 しかし、思い出してください。イデ隊員は第5話・第10話で、一般女性との出会いに対してけっこう積極的な態度をとってきた男です。それに第4話では、フジ隊員が休日を過ごす相手が少し気になり、ホシノ少年だと知ってなんとなくホッとする一景がありました。フジ隊員は(本人もあっさり認めている通り)少数精鋭のメンバーに選ばれた才媛であり、いつも身近にいて気が合い、しかも美人ですよ。彼女におんなを感じなければ、そっちのほうがどうかしてます。イデ隊員のぶっきらぼうさには、照れがあったのだ、と僕は見ます。で、フジ隊員のほうにも、あなたはただのお供よと念を押すような態度に、仕事にがんばる、デキる女性らしい厄介さがある。
 つまり、オクテ同士のふたりです。オクテ同士でぴったり気が合い、その関係が居心地よくなって固まっているのです。アーッ、ふたりともォ……と心底ため息が出ます。僕自身の貧しくも悲惨な経験則からすると、こうなっちゃうとよほどの揺さぶりが無い限り、関係が恋愛のほうに転がるのは難しい。
 おそらくは(まだ)手を握ったこともないのに、「早くしろよ」「ガタガタ言いなさんな」と長いつきあいのカップルや夫婦のような気のおけない会話ができている。男と女に、これ以上の良縁は無いんだけどなあ! 気が付かないし、気付きたくないでいる節さえ見受けられ、もどかしいぜ。
 私だって女よと言われたのに、「ところで」と逸らしてしまうイデ隊員。目を覆いたくなるような失態です。〈男のなかの男〉だけど、そっち方面は実はダメダメなのが判明してしまいました。でも、そういう不器用なイデ隊員だから僕は好き……嗚呼、パラドックス。

ウルトラマン Vol.4/DVD ちょっと引いて、なぜ作り手はイデ隊員が相手でよいと判断したか、考えてみましょう。
 子ども向けのヒーロー番組でも、淡い恋の要素を盛り込むと受ける。戦後の現代っ子は成長が早いから、そういうちょっぴり大人びた感情をたのしみ、あこがれることが可能になっている。『ウルトラマン』はこうした認識が作り手に沁み込むまでの、分水嶺のような存在だったことをまず確認しておきたいです。
 ウルトラシリーズの次作『ウルトラセブン』では、みなさんご存知のように、セブンに変身するモロボシ・ダンとウルトラ警備隊の紅一点であるアンヌは目立って親密な仲。休日に一緒に海水浴に出かけるエピソードは、イデ隊員&フジ隊員と比べると、かなりのステディ・ムードでした。第Ⅱ期ウルトラシリーズの諸端を開いた『帰ってきたウルトラマン』になると、淡い恋の要素は設定から顕著に。二代目ウルトラマンに変身する郷秀樹は、住み込んでいる家の娘・坂田アキと家族同然の関係で、つまりは本人同士も周囲も、いずれは……と将来を意識する関係です。主人公のハヤタ隊員より脇役のイデ隊員の恋模様のほうが目立つなんて事態は、ウルトラシリーズだけでなく、他のヒーローものにおいてもどんどん許されなくなります。

 それ以前はどうだったか。ちょっとヘソになるのかなと思い出すのは、第9話でのハヤタ隊員と山岳少年団の少年たちとの会話です。彼らはハヤタ隊員を「おじさん」と呼んだのでした。ハヤタ隊員が年に割に老けて見られてしまったなんて、笑いたいわけではありませんよ。先行の国産テレビ・ヒーローである『月光仮面』や『ナショナル・キッド』を覗いてみてください。どちらも颯爽としているのに、子どもたちには「おじさん」呼ばわりされていますから。
 今は常識が反転しているのでちょっと説明しますね。戦後のある時期までは、「おじさん」と子どもから呼ばれるぐらいでないと、怪獣や悪を倒すヒーローとは認められなかった。「おじさん」=ちゃんとした人・立派な人であり、「おにいさん」はまだ分別が足りない、親しみやすいけど頼りない人とみなされたのです。家父長制の環境が強く残っているあいだは、ヒーロー/正義の味方とはすなわち父性であり、そのファイトは「親(や目上の人)に向かってその態度はなんだ」とばかりに乱れかけた秩序をただす父権行使の象徴でした。それゆえ、女の子のショッピングのお供をするような軟派な描写は、「おじさん」には許されません。この価値観においては、フジ隊員がハヤタ隊員に、買い物に付き合ってよと誘うことは不可能です。
 ところが、戦後のどこかで(エルヴィス・プレスリーという巨大なアイコンが登場したあたりから)、青春=「おにいさん」の未成熟が、魅力あるものとしてグッと価値を上げました。そんなものが上がってしまうと、父性のシンボルとしてのヒーローははなはだやりずらい。『ウルトラマン』は実は、なかなか難しい時期に製作されていたのです。
 今でもコマーシャルなどでよく耳にする「若いってすばらしい」という歌が大ヒットしたのは、奇しくも『ウルトラマン』の放送と同じ1966年のことです。

(つづく)

( 2011.12.24 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

『円谷プロダクション公式Webサイト: 円谷ステーション』 2012年3月24日(土)公開「ウルトラマンサーガ」

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2011/12/24/13:33 | BBS | トラックバック (2)
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