さらばサントラ愚連隊
『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン』(音楽:山下康介、渡辺宙明)
時空を超越する宙明サウンド~伝説の宇宙刑事、復活。そして、渡辺宙明、36年ぶりに劇場映画へ帰還す~

石田 航一

『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン』1銀色に耀くコンバット・スーツを身に纏ったヒーロー、宇宙刑事ギャバンが今年、スクリーンで復活した。
子供だけでなく大人も魅了した伝説のメタルヒーローがなんと、スーパー戦隊シリーズ35作の記念ヒーロー、海賊戦隊ゴーカイジャーと夢の競演を果たしたのである。

宇宙刑事ギャバンのヒーローとしての魅力はなんといっても、そのコンバット・スーツと呼ばれる戦闘用強化服の美しさと力強さを兼ね備えたデザインだ。
ボディ全体に銀メッキ処理が施され、頭部、胴体部にカラフルな電飾スイッチが付いた、リアルなテイストでまとめられた、ロボットに見まごうばかりのメカニック感を全面に出したデザインのヒーローの登場は衝撃的だった。メタリックなデザインのコンバット・スーツに刀身がレーザー発光する必殺剣・レーザーブレードを構えたギャバンの勇姿は、それまでの特撮ヒーローには無かったカッコ良さと気品に溢れており、その魅力は今も色あせていない。

また、宇宙刑事ギャバンの操るメカの数がこれまでの特撮ヒーローが所有する台数に比べて、最多なのも大きな特徴となっていた。円盤型巨大宇宙船、ドラゴン型巨大ロボット、戦闘用サイドカー、宇宙戦車、地底ドリルタンクと豊富なバリエーションで、これらを毎回、ミニチュアや着ぐるみ、合成による魅力的な特撮で描いていたのも特筆すべき点だ。
宇宙刑事ギャバンの登場は、正に日本の特撮ヒーローの新時代の幕開けそのものだった。

そんな宇宙刑事ギャバンの根強い人気を支えたものの一つとして、渡辺宙明の音楽がある。
渡辺宙明は1950年代から映画音楽作曲家として活躍しており、中川信夫、山本薩夫、石井輝男といった映画史に残る監督たちの作品に重厚なスコアを書いた。
その後、主な活動の場をTV番組に移し、1972年に石ノ森正太郎原作の特撮ヒーロー番組「人造人間キカイダー」(72)、および、永井豪原作の巨大ロボット・アニメ「マジンガーZ」(72)の音楽を担当、それまでの子供向け番組の音楽の概念を大胆に覆す、ブルーノート・スケール、ロック系オーケストレーションで構築し、パワフルなブラスの響きとアナログ・シンセサイザー・Mini Moogを楽器編成に取り入れた本格的欧米スタイルのポップなサウンド、いわゆる「宙明サウンド」を華麗に披露し、高い人気を得た(渡辺は冨田勲と同時期にシンセサイザーを創作活動に導入した作曲家であり、日本の電子音楽史における重要な人物である)。

『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン』2これ以後、多くのロボット・アニメ、特撮ヒーローの音楽でその手腕を遺憾なく発揮、そして「秘密戦隊ゴレンジャー」(75)「ジャッカー電撃隊」(77)「バトルフィーバーJ」(79)「電子戦隊デンジマン」(80)「太陽戦隊サンバルカン」(81)「大戦隊ゴーグルV」(82)までの東映スーパー戦隊シリーズの音楽を立て続けに6作も担当、戦隊シリーズの音楽の礎と方向性を築いた。スーパー戦隊シリーズの音楽担当連続6作の記録は未だ打ち破られていない。
宇宙刑事ギャバン」(82)の音楽を依頼された渡辺は、番組企画書を読んだ時に作品のヒットを直感、「宇宙で活躍する刑事」という画期的なアイデアに創作意欲を大いに刺激され、ありったけの情熱とそれまでに手がけた特撮ヒーロー音楽のエッセンス(と刑事ドラマ音楽のフレーバー、これが重要)をたっぷり注ぎ込んだスコアを書き上げて、見事に新境地を開拓したのであった。

そうして生まれた「レーザーブレードのテーマ」は、ストリングスの上下進行型演奏を駆使したインパクトのあるサウンドで鮮烈な印象を残し、作品を代表する人気曲になった。作品自体も渡辺の直感通りに大ヒット、番組の人気に後押しされ、当初は発売予定が無かったサントラ盤LPも無事リリースされサントラ・ファンに好評を持って受け入れられた。以後「宇宙刑事シャリバン」(83)「宇宙刑事シャイダー」(84)「巨獣特捜ジャスピオン」(85)「時空戦士スピルバン」(86)までの東映メタルヒーロー・シリーズの音楽を続投、スーパー戦隊シリーズの音楽と並ぶ代表作となった。
前述の「レーザーブレードのテーマ」は、その後の宇宙刑事シリーズや他のメタルヒーロー、ロボット・アニメ(!)にも変形されて使われただけでなく、特撮ヒーロー関連のゲームソフトの音楽としても多用され、現在もファンの間で長年、人気楽曲として親しまれている。

渡辺は絶えず現代の音楽シーンの動向を注視している作曲家であり、その時代における音楽の流行や若手が生み出した技法を積極的に取り入れて、それを渡辺ならではの独特な解釈で組み替えて魅力的なサウンドを生み出してきた。
前述のシンセサイザー導入も渡辺の研究熱心な創作意欲から来たものであり、80年代に手がけた作品群ではシンセサイザーの打ち込みを積極的に用いている。現代の音楽製作では普通の事である「コンピュータ制御のエレクトロ系サウンドと生楽器のシンクロ録音」を渡辺は時代に先駆けて80年代初頭に行っており、80年代中期から音楽制作現場で予算削減のために生楽器の代用品として多用された、YAMAHAのデジタル・シンセサイザー・DX-7とシモンズのシンセ・ドラムも生楽器の代用ではなく、あくまで楽器編成のひとつとしてシンセ独自の音を演奏させるという考えで生のオーケストラ・サウンドと組み合わせて使い、味わい深い楽曲を多数生み出している。このような渡辺の取り組み方は日本の映像音楽業界に確実に影響をあたえており、業界のレベルアップに多大な貢献をしていると言えよう。

『海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン』3メタルヒーロー・シリーズ以後も、OVA、Vシネマ、ゲームソフト等の新たなフィールドに進出して精力的に作曲活動を続け、近年ではスーパー戦隊シリーズの挿入歌を担当するなど、第一線で活躍している渡辺だが、メタルヒーロー・シリーズ主題歌集CD「SHINING SPIRITS メタルヒーロー全主題歌集」(02)の解説書に掲載されたインタビューで「最新作の宇宙刑事が作られたら、その音楽を是非とも作曲したい」と希望を述べていた。そして宇宙刑事ギャバン生誕30周年を迎えた今年、遂にその希望が実現したのだ。

海賊戦隊ゴーカイジャーとの競演になる本作では、渡辺はゴーカイジャーの音楽を担当している山下康介と共同で音楽担当としてクレジットされ、渡辺がギャバン側の音楽、山下がゴーカイジャー側の音楽を担当する分担方式で作曲された。しかし、レコーディング作業そのものは、渡辺、山下両者立ち会いの下で同じスタジオで行い、昨年12月15、16日の2日間で完了させたという。

本作で新しいモチーフによるアクション用の曲を書き下ろした渡辺だが、劇場映画の音楽を作曲するのは松田優作主演の時代劇「ひとごろし」(76)以来、実に36年ぶりの事になる。さらにスタッフからの要請で渡辺が過去に作曲した宇宙刑事ギャバンの劇中曲のメロディ・モチーフを、山下が原曲に近いアレンジで使用して自身のオリジナル・メロディと組み合わせた曲も書いている。
このような方針で制作された本作の音楽は、山下によるゴーカイジャーの音楽世界に渡辺のギャバンの音楽世界と自然に一体化する事を可能にしただけでなく、ギャバンの曲にコンバット・スーツの耀きの如く、ひと際強い存在感を醸し出す事に成功している。 これは作品の世界観においても宇宙刑事シリーズの世界とスーパー戦隊シリーズの世界が繋がった事を示す重要なファクターであり、今後のスーパー戦隊シリーズの展開に多大な影響をあたえる事になるだろう。

ゴーカイジャーの前に現れるギャバンの名乗りの後に流れる映画のメインタイトルでは、TVシリーズでギャバンの怒りを表現するのに選曲されて番組を劇的に盛り上げた名曲、悪の組織「マクー」のテーマ曲が30年の歳月を越えて威風堂々と響き渡る。渡辺ならではの重厚なアレンジが施された本曲を聴いたファンなら必ずや30年前の記憶が甦り、感動のあまり身体が震えてしまうに違いない。 ギャバンの代表曲「レーザーブレードのテーマ」はもちろん渡辺による新アレンジで再録され、オリジナル版からより一層切れ味と迫力が増して甦った所も是非、注目してほしい。

長年、宇宙刑事シリーズの復活をファンから切望され、ようやく今年、スクリーンでギャバンが渡辺宙明の音楽と共に大復活を遂げた。今回の映画化を契機に新作の宇宙刑事シリーズが今後も製作される事を大いに期待したい。

(2012.1.29)

海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン
原作:八手三郎,石ノ森章太郎 脚本:荒川稔久 監督:中澤祥次郎
出演:小澤亮太(キャプテン・マーベラス/ゴーカイレッド),山田裕貴(ジョー・ギブケン/ゴーカイブルー),
市道真央(ルカ・ミルフィ/ゴーカイイエロー),清水一希(ドン・ドッゴイヤー/ゴーカイグリーン),
小池 唯(アイム・ド・ファミーユ/ゴーカイピンク),池田純矢(伊狩鎧/ゴーカイシルバー),
大葉健二(ギャバン/一条寺烈、バトルケニア/曙四郎、デンジブルー/青梅大五郎)
「ゴーカイジャーVSギャバン」製作委員会©石森プロ・テレビ朝日・東映AG・東映

2012年1月21日(土)よりロードショー

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  • 監督:中澤祥次郎
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2012/02/05/13:30 | トラックバック (6)
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