地球はイデ隊員の星

連載第29回 放送第16話『科特隊宇宙へ』(中)

 第16話は、「人類最初の金星探検」計画をめぐる「考え方の違い」という大人同士のドラマが用意されています。ここまでの『ウルトラマン』では、かなり珍しい。

 世の注目を集めるなか、宇宙開発研究所の毛利博士が、自ら発明した宇宙ロケット・おおとりに乗り込んで金星へと出発します。科学特捜隊にオブザーバーのかたちで協力している科学センター・岩本博士のフェニックス号は、おおとりの後塵を拝することになり、(久し振りに登場する)ホシノ少年は涙が出てしまうほどくやしくて堪らずにいます。
 実はどちらのロケットも性能は互角とみられていました。しかし、岩本博士はロケットエンジンのテスト回数が不足していると判断して打ち上げを延期(「水爆の原理を応用して」いるらしいので、そりゃあ万全を期してもらわないと困ります……)。毛利博士のほうは対照的に「第2弾ロケットの発火装置に疑問があるという噂」がありつつも、有人飛行を敢行します。
 成功率99%の確率でもプロジェクトを進め、歴史に名を残す毛利博士と、例え競争に負けようと100%の確信を得るまで動かない岩本博士。「科学者として果たしてどっちが勇気のある、正しい行き方だろうね。よく考えてみようじゃないか」とムラマツキャップはホシノ少年に問い掛け、一番乗りに拘らないよう、ゆっくりと諭すのでした。
 素晴らしい! ホシノ少年は、後半に初めてオレンジの制服姿を披露する点からも、まず間違いなく早期育成プロジェクトに選ばれた将来の正規隊員です。そんな人材に対して、なんと大人の思慮と理知に長けた指導でしょうか。飯島敏宏が脚本(名義は千束北男)と演出を兼ねたのはバルタン星人初登場の第2話以来。この人もまた、実相時・佐々木コンビとは違う角度から『ウルトラマン』の質を上げてくれています。

『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 実際のところは、毛利博士の見た目と態度はちょっと狷介で自信過剰そうですし、バルタン星人に心身を乗っ取られてからの悪相はより目立ちます。岩本博士は二番手に甘んじたのを率直に認めながら、おおとりが危機と知れば、ロケットエンジンを科特隊のビートルに装備して救助に向かう試みに率先してトライ。慎重と豪胆を兼ね備えたかなりの人物だと分かります。年少の視聴者が肩入れするのに望ましいのは誰のほうか、言わずもがなの筋の運びと演出が成されています。
 どっちが先に月面へ行けるかを米ソが争っていた現実の宇宙開発競争への、やんわりした風刺であり、そうでありたい(あるべき)科学技術に携わる者の清廉な精神の提示。こうした核の部分が本質的に描かれていれば、細部の考証がどんなにアバウトでも、本物と呼べるムードと品が自然と生まれる。そこがSFの面白さだよなあ、と改めて。

 10年以上前のことになりますが、自分にとって最も遠い分野はなんだろう。→そりゃもう理系だ。高校では期末テストで0点をとり留年しかけた。→では勉強し直そう。と、やにわ思い立ち、物理や化学の入門書やら講談社ブルーバックスやらを何冊も買い込み、数ヶ月後にはやはり向いていないんだとあきらめた、一過性の熱病のような時期がありました。学びたい意欲はあっても、記号と公式がどうしても頭に入らない。そこを克服できませんでした。
 ただ、挑戦して収穫だったのは、分からない=関心がないの状態から、分からない分野に対して謙虚に接する心持を学べたことです。結局は、16世紀から17世紀に「太陽ではなく地球のほうが回っている」「空気にも重さがある」などと次々に唱えて危険人物扱いされ、牢屋に入れられたガリレオ・ガリレイのような、己の疑問を貫いて常識を覆してきた科学者たちの人物伝が一番心に残るのに気づきまして。自分は自分の場所でがんばればよい、と納得ずくで撤退できたのでした。それでも仏壇用ろうそくに火をつけたり消したりしながらファラデーの「ロウソクの科学」(岩波文庫)を少しずつめくったのは、読書体験としても楽しかった。あれはいずれまたやりたいな、と思っています。

 なかでも忘れられないのが、科学・化学の歴史を少年少女向けに書いた三宅泰雄「空気の発見」(角川文庫)の一文なんです。
 「しかし、私が、もっときみたちにのぞみたいことは、たとえ、むくいられることがなくとも、また、たとえ、めざましい研究ではなくとも、科学の巨大な殿堂のかたすみに、ただ一つでも誠実のこもった石をおく人に、なってもらいたいということです。」
 当時は、周囲の人間の名前がどんどん映画のクレジットに出るのに焦る毎日。あいつら程度がいっぱしの顔をして、どうしてオレにチャンスの気配すら無いんだと、下唇を噛み過ぎて血が出ちゃうほどでしたから、バチーンとしたたかにショックを受けました。自分にはまさに、この「誠実」が足りないのだ。
 そして、当時と状況はほとんど変わらないけど「他に道はない、こうなるように生まれてきた」(そうレディー・ガガ様が歌ってらっしゃいますね)と受け止められるようになった今、記者団の前で「負けました」とさっぱりした顔で認める岩本博士が、たまらなく男前に見えます。時たま科特隊の司令室に顔を出しては分かったような分からないようなアドバイスをする、おかしな人だと思っていてゴメンナサイ!

ウルトラマン Vol.4/DVD この岩本博士、科学特捜隊専用機・ビートルの設計者だったことが初めて明かされます。第7話で、中近東を調査してアントラーの磁力のために墜落大破したインド支部、トルコ支部の機体にはビートルそっくりのものがありましたから、国際科学警察機構の各支部の多くが岩本博士の設計モデルを採用・購入したことは容易に想像されます。日本支部の科特隊メンバーと懇意なのもその縁からでしょう。
 第5話では怪奇植物ミロガンダについて知見を語り、第12話ではミイラ人間の発掘に関わっていましたから、てっきり岩本博士のご専門は生物学だとばかり認識しておりました。それが、金星ロケットの開発でも第一人者だったとは。
 で、この岩本博士と懇意のイデ隊員も、第12話のバリヤー・マシンに続いて第16話では、バルタン星人の言葉を自動翻訳する「パンスペースインタープリター」(全宇宙語翻訳装置)をすでに司令室のコンピュータにセットしており、さらに、科特隊の標準装備火器であるレーザー銃やスパイダーより強力だという「マルス133」を「こんなこともあろうかと、二挺用意しておきました」と披露します。話しぶりからすると、おおとり打ち上げの際のビートルの自動追跡装置もイデ隊員の手によるみたい。
 2人とも、まったくとんでもない幅の広さです。

 こういう、科学者や発明家という設定でさえあれば何でもあり、のガジェットの楽しさは、映画ではサイレント時代からおなじみのものです。スラップスティック・コメディの場合、バスター・キートンはよく、ベッドをひっくりかえしたらテーブルになるような仕掛けだらけの部屋に住んでいました。シリアスな怪奇/スリラーものではもっと凄くて、科学者は(なぜか)原子力によって鉛を金に変えたり、人を小さくしたり。光線と名のつくものは大抵、破壊光線か殺人光線。
 なにしろ、エジソンやニコラ・テスラなどによって電気の実用化が急速に進んだのは19世紀後半ですし、レントゲンがX線を発見したのは1895年11月。リュミエール兄弟が初めて映画を上映したのは同年の12月です。知識の一般への普及も進まないうちから映画は科学を取りこんでいる。科学的裏打ちに無頓着でもどんどん作れたのは、当時の映画人の多くがどうやらテクノロジーを錬金術の現代版として捉えていたらしいのがポイントです。
 戦後になると、主に戦勝国のアメリカやイギリスで考証の「もっともらしさ」に則った本格的なSFが作られるようになる一方、発明は錬金術の怪しさが反転してさらに楽天的に、ギャグに近くなります。イデ隊員の発明家キャラクターの直接のヒントになっているのは、おそらく当時の洋画興行のドル箱「007」シリーズ。秘密兵器の開発担当だった“Q”ではないでしょうか。

 と、いったん映画史的な視点からイデ隊員と岩本博士のスキルを分析してみましたが、ギャグに近いとは、新しい発想や創意、工夫への意欲が誇張して表現されている、ということでもあります。そうした性質がイデ隊員の明るさ、自由人振りにピッタリなのが、僕は嬉しい。
 国際科学警察機構の日本支部は、イデ隊員ひとりの研究開発のために一体どれだけの巨額を投入しているのか。想像すると気が遠くなりそうです。報告書さえ定期的に提出すれば予算に上限は設けない、そう決定されているんじゃないですかね。なのにイデ隊員は驕らず偉ぶらず、他の隊員にからかわれても頭を掻いてみせる余裕を見せ、怪獣対策の現場にも率先して出動。
 要するに2人とも専門バカではない。ものごとを縦割りで考えない。虚栄心や縄張り意識が希薄。だから毛利博士のおおとり打ち上げを、人類全体に寄与する挑戦としてフェアに応援し、喜ぶことができる。ぜひ僕たちも見習いたいこの姿こそが、宇宙時代の科学技術に対する、『ウルトラマン』の作り手の最大のメッセージなのだと思います。

(つづく)

( 2012.4.19 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

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2012/04/19/21:45 | BBS | トラックバック (1)
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Tracked on 2012/04/20(金)05:38:29

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