インタビュー
ソハの地下水道/アグニェシュカ・ホランド監督

アグニェシュカ・ホランド (映画監督)

映画「ソハの地下水道」について

公式サイト 公式Facebook

2012年 9月22日(土)より、TOHOシネマズ シャンテ ほか全国にて順次公開

1943年のポーランド、ルヴフ。下水修理工のソハは、コソ泥を繰り返しては隅々まで知り尽くした地下水道に盗品を隠し、3人家族の生計を立てていた。ある日、ナチスの迫害を逃れるため地下への脱出口を掘るユダヤ人たちと遭遇したソハは、彼らのカネに目を付け、地下の安全な場所に匿って見返りを搾り取ろうと思い付く……。およそヒーローらしからぬ男が、やがて自分の身の危険も顧みず赤の他人を救うため奔走していく姿を描いた『地下水道のソハ』は実話を基にする物語だ。フィクション以上に驚きのある市井の人の真実のドラマに心を動かされたアグニェシュカ・ホランド監督は、地下の暗さや臭気、人々の生々しく矛盾にも満ちた行動を長回しを多用してじっくり描き、言語や衣装にもリアリティを追求して説得力ある力作を作り上げた。来日したホランド監督に映画について語っていただいたところ、やはり並々ならぬこだわりが伺えた。(取材:深谷直子

アグニェシュカ・ホランド 1948年ワルシャワ生まれ。1971年にプラハ芸術アカデミーを卒業後、ポーランドに戻り映画業界に入る。クシシュトフ・ザヌーシの助監督になり、アンジェイ・ワイダから指導を受けた。初監督作品"Provincial Actors"(78)で1980年のカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。1981年にフランスへと移住。ポーランドを去ってから、"Washington Square"(97)やアカデミー脚本賞にノミネートされた『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』(90)など、自己実現を求めて困難な状況から逃れようとする人々の物語を作品にしてきた。また、友人クシシュトフ・キェシロフスキの"トリコロール"三部作の一作目『トリコロール/青の愛』(93)の共同脚本も手掛けている。その後の作品として、『オリヴィエオリヴィエ』(92)、『秘密の花園』(93)、『太陽と月に背いて』(95)、『敬愛なるベートーヴェン』(06)など。テレビ作品の監督としてもエミー賞最優秀ドラマシリーズ部門にノミネートされるなど活躍している。

アグニェシュカ・ホランド監督1――『ソハの地下水道』を拝見してまず印象的だったのは、キャラクターがとても人間臭く描かれていることです。迫害されるユダヤ人は弱く、彼らを助ける人物は善人、というこれまでのホロコースト映画とはずいぶん違うものに思いました。

ホランド まさにそこにこの映画を作る価値を見出したのです。脚本を読んだ段階で主人公のソハやユダヤ人の方たちの複雑でありながら非常に豊かなキャラクター造形というのはもう出来上がったものとしてあったわけです。ホロコーストの物語では通常ユダヤ人は無垢な被害者として一面的に描かれることが多いのですが、この映画にはそれだけではない複雑な人間らしさが描かれています。そのリアルさがあるからこそ感情移入ができて何が起こったのかを理解できるのです。

――俳優さんたちの演技もリアリティがあってそれぞれ素晴らしかったですが、演出に特に気を配ったのはどのようなことですか?

ホランド 自分をよく分かっている俳優さんばかりだったんですね。映画というものはキャスティングが最も大切で、必要な俳優を起用できればあとは監督としてやることはないぐらいなんです。準備やリハ―サルは多少はしましたが、そのときは様々なドキュメンタリーを一緒に観たり、お互いの人生経験についてディスカッションしたりしました。また、この作品では言語にこだわり、実際と同じく標準ポーランド語や方言やドイツ語など様々な言語を使って撮りましたが、自分が使っているのとは違う言語を話さなければならない俳優さんもいたので、2ヵ月ぐらい言語レッスンに励んでもらいました。そのことが期せずして役作りに役立ちましたね。そういうことを通して役を掴んでもらいました。あとはみなさんそれぞれ役へのアプローチは様々で、現場では自分の世界に入ってしまって一切喋らない人もいましたし、「カット!」がかかるとすぐさま音楽を聴き出すような人もいましたね。面白いなと思ったのはユダヤ人役の方々、特に女優さんたちが、地下水道のシーンを撮っていてセッティングを変えるのにちょっと小休止するというようなときに、その場所から移動しようとしなかったのです。テンションを壊したくないという思いだったのかどうかは私には分かりませんが、カメラが回っていないのにも関わらず、その暗い場所でじっと待っていました。また、ムンデクを演じたベンノ(・フユルマン)さんはドイツ人なのですが、ドイツ人なのにユダヤ人役を演るということにいろいろ思いがあったようで、ソハと二人で若いドイツ兵を殺すシーンでは本気で殴ったらしく本当に怪我をするということがありました。ソハ役のロベルト(・ヴィェンツキェヴィチ)さんも2、3回現場で泣いてしまい、それは精神的にいろんな思いが去来したからではないかと思います。素晴らしい俳優に恵まれたと思いますし、きっと俳優たち誰にとっても生涯忘れられない1本になったのではないかと思います。

――この作品は2時間25分という長尺になりましたね。じっくり物語に浸るとともに、登場人物と一緒に地下で息苦しい時間を過ごしているような感覚にも陥りましたが、観客にそういう体験を味わってほしいという狙いもあったのでしょうか?

『ソハの地下水道』1 『ソハの地下水道』2ホランド 長くしようと意図したわけではなかったんです。最初は2時間以内にしようと思っていました。そのほうが興行会社も配給会社も扱いやすいですから。ただ、ユダヤ人の方がそこに滞在している「時間」は表現しなければと思っていました。何も起きるわけではない長い時間を彼らは地下で過ごしていた、その局面を見過ごしたくないという気持ちで、最初に上げたファーストカットは何と4時間だったんです(苦笑)。そのまま公開するのはもちろん無理なので、そこから短くしていくのが編集作業でした。試行錯誤しながら140分ぐらいが理想的だということで最終的にこの尺に収まったんです。実はこのバージョンの他に2時間バージョンも作ってまわりの人に観比べてもらったんですよ。そしたら何と2時間バージョンのほうが長く感じると言われたんです。編集するときに、何かが起きているシーンというのは前後の繋がりがあるので短く切ることができず、何も起こっていないシーンを切って調整することになるわけですよね。だから短い方が情報過多になって情報を押し付けられていると感じさせる作品になってしまうのです。何かが起きている時間と何も起きていない時間とのバランスが理想的に取れた、このストーリーに見合う尺が2時間25分だったということです。長い尺にして観客に辛い思いをさせようなどという考えは持っていませんでしたが(笑)、登場人物が感じたフラストレーションを観客の方にも感じていただきたかったし、そのためにはある程度の時間が必要で、バランスが重要だったのだと思います。

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ソハの地下水道
監督:アグニエシュカ・ホランド 原作:ロバート・マーシャル  脚本:デヴィッド・F・シャムーン 撮影:ヨランタ・ディレウスカ
出演:ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ,ベンノ・フユルマン,アグニエシュカ・グロホウスカ,マリア・シュラーダー,ヘルバート・クナウプ,キンガ・プレイス
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
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2012/09/23/21:10 | BBS | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー
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