――物語は前半が東京で、後半は沖縄で展開します。沖縄の景色が印象的でした。

矢城　当初、晴れた沖縄と、曇天の都内とで、コントラストを付けたいという狙いがありました。しかし沖縄は1週間ロケしていて、ほとんど雨と曇りだったんです。ピーカン狙いでスケジュールを組んだにもかかわらず、そういう絵が撮れなかったんです。最終的には、1日滞在を延ばして、ビーチのところとかの絵が撮れたんですけど。ただ全体的なトーンを考えると、結果的には沖縄がずっとピーカンだったよりはかえってよかったかなと思います。

――父・敦（中原丈雄）が住む、アパート「ハイビスカス」の建物がいいですね。

矢城　あそこは、大城自身がロケハンをおこなって見つけてきて、「すごくいい場所を見つけた！」と大興奮で電話がかかってきました。脚本の段階で、できたらこういう感じの、ということは伝えていたんです。いわゆる沖縄っぽい、外人の住むようなアパートで、ちょっと下に空き地があって、お母さんが帰ってくる車がバックに見える、というイメージ。でもあんなぴったりな場所があるとはねえ、思わなかったですね。住んでいる方がいらっしゃるところを居抜きでお借りして、撮影の間はホテルに住んでいただきました。

――そのお父さん役ですが、中原丈雄さんでないとこうはならなかったのでは。

矢城　なんとも憎めない親父でとてもよかったです。中原さんも、いままでにやったことのないタイプの役で、どう演じたらいいんだろうと最初戸惑ったらしくて。何もしないというか、いいかげんにそこにいる、ということは役者にとってはなかなか不安だったみたいです。

――そうしたときに、監督から演出というかサジェスチョンみたいなことはなさるのですか。

矢城　現場ではほとんどなかったですね。撮影に入る前の段階でいろいろとコミュニケーションを取らせてもらって、ああしましょうこうしましょうとお互いにイメージを出し合ったりしましたけどね。あるがまま、物語にゆだねてほしいというような。

――息子の光司役、塩谷瞬さんについてはいかがですか。

矢城　この光司役については紆余曲折があって、最終的にぼくのほうから、塩谷君がいいんじゃないかっていう話をさせてもらいました。もともと、彼の「居かた」が好きなので、あまりやりすぎないで、そこにいてほしいという話はさせてもらいました。

――同じ脚本でも、撮り方によっては父と子のぶつかり合いというか、とげとげしくなることもあると思いますが、この父と子は実際にはほとんど接していないですね。

矢城　亡くなったときだけですね。会話をしているところはないです。父と子が出会うシーンを作ってしまうと、そこに集約されてしまって、感情的なものがそこでぶつかっちゃう。それはこの映画にとっては、あんまりよくないのかなという気がしました。