何かが芽生える作品

緒方貴臣監督――この作品をどのような人に観てもらいたいですか。

緒方 前の作品もそうなんですけど、『終わらない青』だったら、リストカットに性的虐待、今作だったらラブ・ドールと、そういう人たちに対して世間は冷たいというか、他人事と思っているところが強くて。そういったものに気づいていない人、無関心な人に僕は知ってほしいと思っています。

石崎 ニュースを観て、でも、このニュースを特定の誰かに観てほしい、というのはないじゃないですか。観た人がどう思うか、知ってもらうかという部分で、「ニュース」と今回の映画は、少し似ているのかなと思います。

緒方 そうですね。ニュースではないけど、僕はもともとジャーナリズムにいきたいというのもあるので、不特定多数の方に観てほしいです。この映画は、TVドラマの映画化や人気原作モノやハリウッド映画など、いわゆる人気映画を見慣れた人が観ると、正直面食らうと思うんですよ。音楽もないし、時間の流れもゆっくりでセリフも少なく、事件も起こらず大きな盛り上がりもない。そして性描写。通常、性描写はかなりカットされますし、それがかなり直接的に描写されているので面食らうと思うんですけど、本当のことを描こうとするとそこは隠してはいけないと思います。映画ファンの方だけでなく、日頃、映画を観ない人にこそ観てほしい。過激な部分もありますが、レイティングもないので中学生、高校生にも観てほしいですね。

石崎 これは僕の中の倫太郎目線ですけど、誰にでも自己で完結している世界は何かしら持っているはずじゃないのかなと思うんですね。そういう人が観た時に、ハッと気づくというか、何かしら大きく突く作品になっていると思います。僕も緒方さんが言っているように、いわゆる大作を普段観ている方がこの作品を観たら、新しい映画の面を知ることができる作品じゃないかと思うんです。楽しい！で終わってしまう映画が多いですからね。そういう意味で沢山の人に見てもらいたいですし、今回の『体温』は答えが提示されている作品ではなく、男性が観た印象・意味合いと女性の方が感じる受け取り方が絶対違うと思いますし、観た人たちの中にどんどん何かが芽生えてくる、そういった刺激がもらえる作品だと思います。だから、映画を観ていない人にこそ観てほしいですね。

次回作に向けて

石崎チャベ太郎――最後に今後の活動について一言ずつお願いします。

緒方 体温の次に撮った作品『子宮に沈める』は、実際に起きた事件を元に書いた「育児放棄」がテーマのものなんですが、今後も、実際にいる人間を描きたいなと思っています。リアリティを重視していきたいとは思っているのですが、いくつかある企画のうちの一つはそうではないものもあって、そのときそのときで変わっていくかもしれません。今のところは国内の、先進国ならではの問題というか、人が見て見ぬ振りをするようなものを問題提起していきたいなと考えています。次の四作目はイジメを扱おうかなと思っています。

石崎 まずは今年の二月にチリにいって映画の撮影があります。秋にはミャンマーを舞台にした作品もあったり、海外の人と接する機会が多い年になりそうです。単純に、面白い作品に参加してその作品や監督の世界観と出逢っていきたい、という気持ちがすごくあります。今後国内外にかぎらない、その土地・その人種ならではの作品にもそういった姿勢で挑戦していきたいという気持ちですね。こういう映画がやりたい、という意識のあるような作品にこれからも参加していきたいですし、自分からもアプローチを掛けたいと思っています。