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『ホーリー・モーターズ』先行特別上映会&トークショーレポート

『ホーリー・モーターズ』先行特別上映会&トークショーレポート http://www.holymotors.jp/

2013年4月、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー

80年代に『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』で鮮烈にデビューし、ここ日本でも熱狂的なファンを持つレオス・カラックス監督が、13年ぶりの長編となる『ホーリー・モーターズ』を携えて来日を果たした。第16回カイエ・デュ・シネマ週間の一環として行われた先行上映会の会場となったユーロスペースには、早朝から並んでチケットを手に入れた幸運なファンたちが詰めかけた。
昨年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に登場するや話題を呼び、無冠に終わった結果をものともせず高い評価を受けている本作。私もついにこの日観ることができたが、13年のブランクの体験を丸ごと詰め込み、映画への執着と情愛に満ちた見事な復帰作だった。ごくパーソナルにして包括的で、ノスタルジーを迸らせながら13年の間に変化した社会を風刺し、また進化した映像技術も存分に駆使した、回帰と再生の作品だ。映画史の映画であり、演技についての映画であり、さまざまな切り口で捉えられるその意味はこれからじっくり探っていきたいが、カラックス本人が上映後に語っていたように、撮れない期間を気が狂いそうに過ごし、撮影にあたり多くの制約を課しながら、美しく躍動的で喜びにあふれた「映画」を撮り上げた、ぶれのなさと成熟とに感動した。
上映後にはいよいよカラックス本人が現れ、批評家の佐々木敦氏の司会にてトークイベントが行われた。カラックスは火の点いていない煙草を終始手にしたまま淡々と、しかし率直にシンプルに思いを語り、その様子には、さまざまにイマジネーションの翼を広げながら、芯に確固とした聖なる力を貫かせる映画の姿そのものを見る気がしてとても興味深かった。(取材:深谷直子)

レオス・カラックス監督レオス・カラックス監督カラックス 何を話したらいいのか、分からないな……。『ホーリー・モーターズ』では、以前の僕の映画と比べると外国に呼ばれることも多く、ずいぶん話をしてきたんだ。もう話すことはないような気がしているが、何とか話をしてみよう。

佐々木 今日はみなさんぜひとも監督の口から映画の内容を聞きたいと思っていると思いますので、よろしくお願いします。『ホーリー・モーターズ』は、これまでの作品と同様に、あるいは今まで以上に映画についての映画であると同時に、演技についての映画であるとも言えると思います。着想はどこから得たのでしょうか。

カラックス この主人公は俳優と言えるかもしれないが、ただの俳優ではなく、SFの世界にいる人物として構想した。そして朝起きてから夜に至るまで、彼の1日を描いた。今日生きているということは何なのかという問いかけをしたかったんだ。だから主人公は屠殺人でもいいし肉屋であってもいいのだが、そうするとなぜ彼がそれをしているかということを説明するためにフラッシュバックを使わなければいけなくなる。今回のような手法を取ることによってさまざまな年齢、さまざまな人間の経験を1日の中に表すことができた。僕がこの映画を発見したのは編集しながらだった。この映画は実は短い時間で考えられ、作られている。元々は外国で別の映画を作ろうと思っていたんだけどそれが叶わず、何とか早く映画を1本作ろうと思って撮った映画なんだ。短い時間で作るためにラッシュを見ることをしなかった。『TOKYO!』も早撮りで、そのときはラッシュを見ていたが、早く作ろうと思っているときにラッシュを見ると、もうやめようと思ってしまうことがある。それを避けるためにラッシュを見ないで作った。

佐々木敦佐々木敦氏佐々木 今のお話はかなり意外でした。短期間で撮られたということですが、ご覧になったみなさんもお分かりのとおり少なくとも9つの映画が入っているという感じで、短期間で撮ろうとするとこういう映画になるのかという気がします。ドニ・ラヴァンがいくつもの人間になっていくんですが、ドニはカラックス監督の最初の作品からの盟友というか分身のような存在と言えると思います。演出も阿吽の呼吸でなさっていると思うんですが、演出面ではどんなことをお話されたのでしょう?

カラックス 今回早く撮影しなければならないと思ったという話を先ほどもしたが、もう10年以上も長編を撮っていなかったので、何か早く撮影しなければ気が狂ってしまうという思いだったんだ。そして早く撮るためにいくつかの要素が生まれてきた。パリで撮ること、低予算で撮ること、ビデオで撮ること、ラッシュを見ないことだ。そしてドニ・ラヴァンを撮影するということも早くから決めていた。いちばんよく知っている俳優だからだ。だが、よく知っていると言っても僕の実人生をドニ・ラヴァンは全く知らない。一緒に食事をしたこともなければ友人でもない。今ドニは僕の家から200メートルのところに住んでいるが、普段は会うこともない。僕と同じ年齢で背丈も同じぐらいで、出会ったのはお互いが20歳ぐらいのときのことだけれど、そのときから本当に彼と話をしたことは一度もないんだ(場内より失笑)。最初の作品(『ボーイ・ミーツ・ガール』・84)を撮ったとき、彼に対して話をしなかったので、出来上がったものを観て彼のことをまるで彫像のように撮影していたことに気付いた。よく彼のことを見ていなかったのではないかと思い、次の『汚れた血』(86)を撮ったときは彼を動かし、彼に踊らせた。今回の作品でも彼と特には話していない。今回は衣装やメイクを編み出さなくてはならず、それだけでかなりの仕事だった。それぞれの人物がどのような話し方をし、どのように動くかということだけを考えたが、それ以上の話はしていない。

佐々木 ドニ・ラヴァンはちょうど1年前にお芝居で来日していて僕も観たんですが、目の前で見るドニは小柄でそんなにすごい人という感じがしないのに、演技を始めるとものすごく大柄に見えました。この映画では何人もの役を演じ、この人の素顔は何なんだろうという気がしました。

レオス・カラックス監督2カラックス 僕は20歳ぐらいのときにドニに出会い、20歳から50歳に至るまで彼を撮影してきた。彼は今日では20歳のときよりもはるかに偉大な俳優になり、特殊な素晴らしい身体を作り出してきた。そしていつも僕は「身体」を撮影したいと思っている。だからこそ、この映画の冒頭に19世紀のモノクロの(エティエンヌ=ジュール・)マレーという人が撮った連続写真を入れたんだ。『ホーリー・モーターズ』は実は人間の身体とも関係がある。映画作家は画家と同じように人間の身体や顔を見ることを行う。もちろん風景や建物やビル、煙草やピストルやそのほかいろんなものを見るのも好きだが、何よりも人間の身体を見るのが僕は好きだ。走っている人間の身体、泣いている身体、セックスをしている身体もだ。そこで冒頭に映画の祖先とも言える19世紀の連続写真を出したんだ。男と子供がいて、二人が走っていく、ボールを投げて地面近くの何かを壊す……。それこそが“ホーリー・モーターズ”、映画の神聖な原動力なんだ。

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ホーリー・モーターズ 2012年/フランス・ドイツ/フランス語/115分/DCP/カラー
監督・脚本:レオス・カラックス(Leos Carax)
撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カープ
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、ミッシェル・ピコリ
提供:ユーロスペース、キングレコード 配給:ユーロスペース ©Pierre Grise Productions
公式

2013年4月、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー

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2013/02/10/19:10 | トラックバック (0)
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