大森立嗣監督/『ぼっちゃん』

大森 立嗣 (監督)
映画『ぼっちゃん』について

公式サイト 公式twitter

2013 年3月16日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー!

『ゲルマニウムの夜』や『まほろ駅前多田便利軒』などファンを多く持つ小説を、独自の世界観を貫かせて映像化してきた大森立嗣監督が、新作『ぼっちゃん』の題材に選んだのは秋葉原無差別殺傷事件。犯人がインターネット上に残した言葉に触発された監督は、想像力と生身の俳優の演技によって、これまで見たこともない異色でリアルな青春映画を作り上げた。屈折した主人公は美化などされずとことん無様に描かれるが、友達にならなければ覗けないその心はとても純真で、彼を引き止められなかったことが悔しくてたまらなくなる。そしてこれが「映画化する」ということなのだなとフィクションならではの力に圧倒された。「孤独」や「愛」という探り続けるテーマとともに「笑い」と「叫び」という本能的なものを求め、製作面からも原点に立ち返るような挑戦をした大森監督に、本作について伺った。(取材:深谷直子

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大森立嗣監督3――監督の作品では、このあと公開になる『さよなら渓谷』(13)は早くから話題になっていましたが、この作品は去年の東京フィルメックスに突然出品されたという感じで、いつの間に撮っていたんだろうということにまず驚いたんです。前情報がなかった分、本当に衝撃が大きく楽しめましたが。難しい題材だから秘密裡に撮っていたということではないんですか?

大森 いや、そんなことは全然ないです(笑)。本当にものすごく低予算だったんですよ。地味にやっていたという感じです。

――今も俳優さんたちがゲリラ的にチラシ配りをしているようで、本当に原点に立ち戻って手作りでやっている感じですね。プロデューサーの方が『ゲルマニウムの夜』と同じだそうで、あの作品も一角座という劇場まで作って、映画を面白く見せようという情熱が伝わるものでしたが、この作品もやっぱりチームの心がこもっているなあと思います。

大森 心しか込められるものがないですからね(笑)。そういうふうにやらなきゃいけない時代になってきましたね。

――でも作品は予算の低さを感じさせないものですよね。大友良英さんの音楽もすごくよかったです。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』の寄り添うような感じとは全然違って躍動的で、激しさや滑稽さで登場人物を後押ししていくようでした。

大森 低予算なので誰に頼めるかなあと考えて、勇気を振り絞って大友さんにお願いしたんですけど、引き受けてもらえてすごく嬉しかったですね。1日で録音してミックスまで全部やりました。音楽がきついと世界観もきつくなってしまうから笑える余地を残した滑稽な音楽にしたいなと思っていて、その一方できついところはフリージャズで、その両方をやりたいという考えが最初からありましたね。フリージャズをやるとなると一流のミュージシャンじゃないとできないところがあって、予算は全然ないんだけど大友さんは一流の人たちを呼んでくれて、贅沢でしたよ。

――その「きつさ」というのは、イケメンとそうでない男がそういう価値観で分けられてしまうような今の社会に対して感じるものですか?

大森 今というか昔からそうなんだろうけど、僕自身も結構生きづらいところがあって、それが何かというといろんなものにがんじがらめになり過ぎているんじゃないのかなと。いちばん大きなもので言うと国家とか法律とかがあるし、道徳みたいなものもあるし、この映画だと「基地外」とか「基地内」とかいう分け方をしているんですけど、そういうものでカテゴライズすることによって自分のアイデンティティをギリギリ保って、それがないヤツを違うものとして見るという視点とかが生きづらいんじゃないかなという感じがしているんです。もっと言うと、ちょっと過激なものになってしまうんですけど、やっぱり映画では生命力のようなものを見たいじゃないですか。そうすると元気が出るわけですよ。だけど人殺しのシーンなんて映画の歴史の中でたくさんあるのに、今はそういうこともあんまりやってはいけないという感じとかもあって、僕もそんなに残忍なシーンとかが好きなわけではないんですけど、そういうところにちゃんと生命力みたいなものがあれば何かが伝わるんじゃないかなという思いがあるんですよね。

『ぼっちゃん』場面3 『ぼっちゃん』場面4――既存の社会や映画に対しても思うところがあったということですね。この映画だと、梶たちは犯罪に巻き込まれながらどうして早く警察に行かないんだ、という単純な疑問が湧いてきたりもすると思うんですが、それはあえてということで。

大森 社会っていう枠の中で物事をやるとすごくつまらなくなるという思いが僕の中ではあって、むしろ生物としてこの人たちを見てくださいという思いがあって。もちろん僕らが実際生きていく中では社会というのはすごく必要なもので、アナキズムは僕にはないんですけど、そういうものを取っ払ったものへの憧れはあるんですよね。

――本当に思いや熱意が多くの方に届いてほしいと思います。監督としてはどんな方に観ていただきたいですか?

大森 そういえばそこは考えていなかったな(笑)。やっぱり20代とか30代とかの一生懸命生きていて、どうやって生きていこうかなあと考えている人たちに観てほしいですね。

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( 2013年2月26日 中目黒・アパッチで 取材:深谷直子

ぼっちゃん 日本 / 2012 / 130分 / DCP / カラー / 1:1.85
監督・脚本:大森立嗣
プロデューサー:村岡伸一郎,近藤貴彦 撮影:深谷敦彦 美術:黒川通利 録音:島津未来介 音楽:大友良英
編集:早野亮 衣装助言:伊賀大介 ヘアメイク:佐々木裕 音響効果:伊藤進一
アニメーション:蛹ナヲヤ 共同脚本:土屋豪護 助監督:加治屋彰人
出演:水澤紳吾,宇野祥平,淵上泰史,田村愛,鈴木晋介,遠藤雅,三浦景虎,日向丈,今泉惠美子,高橋真由美,小川朝子,
津和孝行,川畑和雄,石鍋正寿,中村文夫,塚田丈夫,松下貞治,堀杏子,町屋友康,伊藤陽子
声の出演:長尾卓磨,鈴木将一朗,小嶋喜生,久保麻里菜,岡部尚,南場尚,大川原直太,池浪玄八
製作・配給:アパッチ ©Apach Inc.
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2013/03/13/19:30 | トラックバック (0)
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