インタビュー
「三姉妹~雲南の子」/ワン・ビン(王兵)監督

ワン・ビン(王兵) (監督)
映画「三姉妹~雲南の子」について

公式

2013年5月25日(土)より、
シアター・イメージフォーラム
ほか全国順次ロードショー
同劇場にて5月11日(土)~5月24日(金)までワン・ビン監督傑作選上映
上映スケジュール(PDF)

新作『三姉妹~雲南の子』を携え来日したワン・ビン監督を囲んでの合同インタビューが4月9日に行われ、筆者も末席を汚させていただいた。ワン・ビン監督は実に物腰穏やかで、些かも周囲を圧することなく粛々と質問に応じる姿が強く印象に残った。ワン・ビン作品の至大さとは、斯様に粛々と重ねられた手仕事の成果なのかと感じ入った。いつもながら、機会を与えてくださった諸兄に感謝します。(取材:後河大貴)
ワン・ビン(王兵) 1967年11月17日、中国陝西省西案生まれ。魯迅美術学院で写真を専攻した後、北京電影学院映像学科に入学。1998年から映画映像作家としての仕事を始め、インディペンデントの長編劇映画『偏差』で撮影を担当。その後、9時間を超えるドキュメンタリー『鉄西区』を監督。同作品は2003年の山形国際ドキュメンタリー映画際グランプリをはじめリスボン、マルセイユの国際ドキュメンタリー映画際、ナント三大映画祭などで最高賞を獲得するなど国際的に高い評価を得た。続いて「反右派闘争」の時代を生き抜いた『鳳鳴(フォンミン)-中国の記憶』で2度目の山形国際ドキュメンタリー映画際グランプリを獲得。2010年には初の長編劇映画『無言歌』がベネチア国際映画祭のサプライズ・フィルムとして上映され、世界に衝撃を与えた。

Introductuion 今回、ワン・ビンがカメラを向けたのは、中国で最も貧しいと言われる雲南省の山中の村に暮らす10歳、6歳、4歳の幼い三姉妹である。驚くべきことに、子供たちの両親は家に不在だ。母は家を出、父は出稼ぎにいった。近くに祖母や祖父はいるものの、姉妹は自分たちだけで生活している。わずか10歳の長女が幼いながら、母親代わりとなり、妹たちの面倒を見て、家畜の世話や畑仕事に一日を費やす。やがて、町から父親が戻り、子供たちを町に連れていくことを考えるが、経済的な理由から長女だけが村に残ることになる――。


ワン・ビン(王兵)監督――『鳳鳴(フォンミン)-中国の記憶』の反右派闘争然り、劇映画である『無言歌』然り、王兵監督はいつも撮影の事前にその時代を生きた証言者にお会いになって、膨大なリサーチをされることで知られています。今回は雲南の三姉妹に出会われてから、撮影の事前にどういったアプローチをされたんでしょうか?

ワン・ビン 『鳳鳴(フォンミン)-中国の記憶』や『無言歌』と異なり、とてもシンプルな状況で撮っていきました。『三姉妹~雲南の子』では、1回が4日から5日間の撮影を都合3回行いましたが、あまり事前の準備というものはしていません。スタッフと相互に、どういうふうに分担するか、どういうスタイルで撮影するかを打ち合わせて撮影に入っていったに過ぎません。

――『三姉妹~雲南の子』を拝見していて、非常に被写体に近い位置で撮影されていたんですが、被写体がカメラの存在を忘れているような自然な表情を捉えていて……どう撮影したのだろう?と純粋に思いました。あの村の方々は撮影されることには慣れてないでしょうし、一体どのようなテクニックを駆使されたのかな、と。

ワン・ビン  彼女達に、「ああしてくれ」とか「これをしてくれ」とか、そういった演出を施すことはありません。ほとんど言葉は掛けません。彼女たちの普段の生に介入して邪魔したりしないように、ということです。

――村の皆さんのプライヴェートな空間にまでカメラは踏み込んでいますね。一定の親密さがないと、ああした撮影は困難なのかな……と単純に思ったんですが、その辺りのコミュニケーションはどうされているのですか?

ワン・ビン  まず、最初は村の知り合いを通じて、三姉妹の祖父に「撮ってもいいですか?」と相談しました。その後、三姉妹のお父さんに了解を得ました。そうした手順を踏んでから撮影しています。被写体は子供ですから、まず大人の許諾がないと撮ってはいけないと思いました。そういう風にして、徐々に徐々に……できるだけ被写体との信頼関係を構築していくんです。そして、親密な関係を作ってから撮影に望んだわけです。

――撮影を20日間に限定した理由をお聞かせ願えますか。

ワン・ビン  これは、あらかじめ短期間で映画を製作しなければならないという条件がありました。制作費との兼ね合いがあって、あまり日数を要すると、それだけお金が掛かってしまうという。スタッフの給料とか、そうしたお金が掛かってしまうので、短期間で撮ってしまわなければ、というのが第一にありました。ゆえに、三姉妹にフォーカスして、その他の村の人をあまり撮らないようにしました。三姉妹と深いかかわりのある人は撮りましたけど。ほぼ20日間、三姉妹に集中して撮ったわけですが、それはやはり時間の制限があったからだということですね。

――編集をしていく上での方針と言いますか、例えば監督が意図的に排除したようなシーンがあればご教示ください。

ワン・ビン  編集の方針としては、三姉妹の日常……朝起きてから夜寝るまでの日々を重ねていくっていうふうに繋いでいったわけです。それを次の一日も朝から晩まで、というふうに繰り返していく。このリズムっていうのは、撮影していたときのリズムと同じなんですね。一日一日と繰り返しながら撮っていくわけで、その中で必然的に不要な素材はカットしていったわけです。例えば、「あの日の午後の素材が足りない」という時は、他の日の午後の素材を持ってくるとかですね。そういった調整はしていきました。

ワン・ビン(王兵)監督2――三姉妹のお父さんが帰宅した際、それまで大人として振舞わざるを得なかった長姉のインインが、初めて子供らしく破顔一笑するシーンに胸衝かれました。その直前には、インインが壁を背に凝然と立ち、強張った表情でフレーム左方を見詰めているクローズ・アップが挿入されています。ドキュメンタリーの制作にあたって、感情的な振幅を生み出す編集技法の使用をどこまで御自分にお許しになっているのか、線引きのようなものがあればご教示いただきたいのですが。

ワン・ビン  あそこのシーンは、撮った素材自体の実時間に合わせて編集をしています。お父さんが帰る前の顔っていうのは実際にあったことですし、お父さんが帰ってからの笑顔も実際にあったことで、前後の変更はしていません。ですから、編集する際に過度にストーリー性を重視するということはありません。ただ、私があのシーンで言いたかったのは、彼女……インインの、10歳の子供の孤独、無表情な顔。あれは、ぼんやりとした子供らしい顔だと思ったんですよ。それを撮りたいと思ったんです。

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三姉妹~雲南の子 フランス、香港 / 2012 / 153分/16:9/stereo
監督:ワン・ビン(王 兵)WANG BING
配給:ムヴィオラ ©ALBUM Productions, Chinese Shadows
2012年ベネチア映画祭オリゾンティ部門グランプリ
2012年ナント三大陸映画祭 グランプリ&観客賞 ダブル受賞

公式

2013年5月25日(土)より、
シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
同劇場にて5月11日(土)~5月24日(金)までワン・ビン監督傑作選上映
上映スケジュール(PDF)

無言歌(むごんか) Blu-ray
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  • 監督:ワン・ビン
  • 出演:ルウ・イエ, リェン・レンジュン, シュー・ツェンツー, ヤン・ハオユー, チョン・ジェンウー
  • 発売日:2012/10/27
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2013/05/11/18:55 | トラックバック (0)
後河大貴 ,インタビュー
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