――今作「ソレダケ/that's it」のサントラ盤も聴かせていただきましたが、ライブの音源の一部を使っていたり、「この曲をここで使うのか！」もあったりと日本で映画にロックを使うことを先駆的にやってきた石井さんならではでした。

石井　自分がブッチャーズのファンだから、分かりやすい選曲ばかりにはしないと決めていたし、映画を作る前にあらためてブッチャーズの音源を全部聴き直して、映画に使えるところを幾つも気づいたんです。それに音にインスパイアされた画面作りもしています。

――そのような音楽の使い方は石井映画の大ファンとして堪能しました。本当に圧倒的でした。今作「ソレダケ/that's it」の荒々しくもヴァイオレントな作風に染谷くんがきっちりハマっているのも素晴らしかったです。

石井　染谷くんは出演作を見て「こんなに存在感のある若い俳優が日本にもいるんだ」と思い「生きてるものはいないのか」で組んだわけですが、今回も厳しい製作体制なの中で本当によくやってくれました。彼は俳優として基本的に呑み込みが早くて、そのシーンで意図されていることがすく分かるし、演出で指示すればすぐその通りにできるんです。他にも村上くんと渋川くんも期待以上の演技をしてくれましたね。二人のイカれた演技は最高で今作の見どころの1つです。「シャニダールの花」で組んだ綾野くんは非常に忙しい中、出演オファーを快諾してくれて出演が実現しました。

――ヒロインの水野絵梨奈さんも良かったです。

石井　水野さんは始めは緊張していましたね。染谷くんは子役からやっていて、その点ではベテランだし、他の俳優も経験は積んでいますから。他の役もそうですが、水野さんの役も極限状態に置かれるから撮影中はなかなか役の緊張感から抜け出せなさそうでした。よく頑張ってくれました。先に言ったように今作は「修行」ですから（笑）。

――クライマックスの襲撃前にベトコンなどみたいに染谷くんと水野さんが顔に泥を塗り闘争心を高めるところは観ていて、こちらも燃えました。

石井　もうあそこまでやるしかないんですよ。映画ですから。クライマックスのアクションにアニメのようにマンガを入れたのは、主人公がバイブルのように持っているマンガの世界を実現しているというのもありますが、ありきたりにアクションシーンを撮っても観る側も刺激がないだろうし、作る側として同じことでなく何か新しいことをしたいですから。

――あのシーンでのマンガの入れ方は素晴らしかったです。個人的に今作を観て驚いたのは、冒頭で染谷くんが爆走するシーンが、こちらの自宅からすぐの場所だったことです。知らないで見たのでとても驚きました。以前から石井さんの現場は見たかったので声をかけていただければエキストラも兼ねて行きました。

石井　それは知らなかった。ロケハン担当が見つけてきて、去年の夏の猛暑時に撮影しました。前から、わたなべくんがこちらの現場を見たいことは知っているので機会があったら声をかけます。

――その機会を待っています。今作は製作自体がとても大変だとは知っていましたが、こうやって公開されたことがとても嬉しいです。石井さんの作品を知らない若い映画ファンも見て石井作品のファンになると思います。

石井　是非そうなってほしいです。先に言った企画段階だけでなく、製作中にももうダメだとう段階から奇跡的に再度復活できて出来た作品です。その分、思い入れもあるし是非多くの方の観ていただけたら幸いです。