今年のロカルノ国際映画祭で演技未経験者4名が最優秀女優賞を受賞したことで注目を集めていた濱口竜介監督の新作『ハッピーアワー』が、現在開催中の第37回ナント三大陸映画祭のオフィシャル・コンペディションに正式招待され、準グランプリにあたる「銀の気球賞」と「観客賞」をダブル受賞したというニュースが届いた。

ナント三大陸映画祭は、フランスのナント市で1979年から開催されている映画祭で、その名の通りアジア・アフリカ・ラテンアメリカの三大陸の作品に特化しているのが特徴。商業映画だけでなく、芸術映画からドキュメンタリーまで、様々なジャンルの映画を紹介している同映画祭のオフィシャル・コンペティションは、今では世界的な映画監督として多くの人々に愛されているホウ・シャオシェン(台湾)やアッバス・キアロスタミ(イラン)、ジャ・ジャンクー(中国)らの作品をヨーロッパで初めて取り上げたことでも知られており、近年では富田克也監督が『サウダーヂ』で33回のグランプリ、深田晃司監督が『ほとりの朔子』で35回のグランプリを獲得している。今回の濱口竜介監督の準グランプリと観客賞のダブル受賞は、彼らに続く快挙となった。

映画『ハッピーアワー』は、30代後半の4人の女性を主人公に、それぞれの家庭や仕事、人間関係を丁寧に描きながら、今の自分は本当になりたかった自分なのか？本当に伝えたいことを言葉にできているのか？という、どこにでもいるような“普通”の女性たちが抱える等身大の不安や悩みを、緊張感あふれるドラマに仕立てた感動作だ。主な出演者は、演技未経験者も含む「KIITOアーティスト・イン・レジデンス2013『濱口竜介 即興演技ワークショップ in Kobe』」の参加者たちがつとめており、総尺5時間17分という異例の大作。濱口竜介監督は、これまでにも映画学校の生徒たちを起用した4時間を超える大作『親密さ』(12)を撮っているが、今回の立て続けの受賞は、今作が濱口作品の一つの集大成としての完成をみせた証左と言えよう。

映画『ハッピーアワー』は、12月12日（土）よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開されるほか、神戸元町映画館では12月5日（土）より特別先行上映される。尺の長さ的に、今回の公開を見逃すと次に上映される機会がかなり限られてしまうと予想されるので、ぜひ体調を整えて劇場まで足を運んでスクリーンで鑑賞して欲しい。

4人の女性たちが直面するそれぞれの人生の岐路

30代も後半を迎えた、あかり、桜子、芙美、純の4人は、なんでも話せる親友同士だと思っていた。純の秘密を知るまでは……。中学生の息子がいる桜子は、多忙な夫を支えながら家庭を守る平凡な暮らしにどこか寂しさを感じていた。編集者である夫をもつ芙美もまた、真に向き合うことのできないうわべだけ良好な夫婦関係に言い知れぬ不安を覚えていた。あかりはバツイチ独身の看護師。できの悪い後輩に手を焼きながら多忙な日々を過ごし、病院で知り合った男性からアプローチを受けるも今は恋愛をする気になれずにいる。
純の現状を思わぬかたちで知った彼女たちの動揺は、いつしか自身の人生をも大きく動かすきっかけとなっていく。つかの間の慰めに4人は有馬温泉へ旅行に出かけ楽しい時を過ごすが、純の秘めた決意を3人は知る由もなかった。やがてくる長い夜に彼女たちは問いかける。
――私は本当になりたかった私なの？