御法川 修監督/『泣き虫ピエロの結婚式』

御法川 修 (監督)
映画『泣き虫ピエロの結婚式』について【3/6】

2016年9月24日(土)シネマート新宿他全国順次ロードショー

公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)

『泣き虫ピエロの結婚式』場面2 『泣き虫ピエロの結婚式』場面3
――スピード感はすごく感じました。志田未来さん、竜星涼さんという主演のお二人の鮮烈なお芝居が素晴らしかったですね。役柄にもピッタリ合っていました。

御法川 志田さんと竜星さんに出会えたことを大切に想っています。ヒロインの佳奈美は、自分のピュアな正論を押し通して猪突猛進、恋する男性にアプローチし続ける、ひとつ間違えればストーカーのようですよね(笑)。その向こう見ずな天真爛漫さを、誠実さと共に説得力をもって演じられる女優は誰だろう?と考えた時に、志田未来さんしかいないと。迷う声は無かったですね。個人的にもご一緒してみたかったんです。志田さんが他の同世代の役者と決定的に違うのは、たとえば山田洋次監督の『母べえ』(08)で吉永小百合さんと現場を共にしていたりする、単に芸歴が長いというだけではない、映画を作る現場の様式や優雅さ、厳しさを知っているキャリアの持ち主だからです。数をこなすだけでは得られない、本物の映画作りの中で磨かれた艶や品格って、その人がカメラの前に立つとすぐ分かるものなんです。優れた仕事に携わってきた俳優は、監督やスタッフを信頼する態度があります。そうでない俳優はひとりよがりな感情に溺れて、自分勝手な工夫や努力に終始してしまう。志田さんと向かい合っていると、俳優と監督の信頼関係はこういうものなんだと、無言で教えられる気がして身震いする緊張をおぼえました。当然、彼女より僕の方が歳上ですが、尊敬できる経験を積んできた人と現場を共にして、同じ空気が吸えるのは幸せなことです。やっぱり俳優って素晴らしい仕事で、様々な役を演じることで自身の人生を高めていく存在ですから。志田さんは強く自分を主張するようなことがなく、一見控えめにみえるのですが、こちらが押すと引くし、引くと押してくるような、結局いつも目を離せなくなる(笑)。自然と皆の視線を奪う魅力に溢れていて、普段から日常と非日常の境目が微妙に揺れている、その佇まいが「女優」そのものだと感じました。逆に竜星涼さんはまっさらな存在です。彼の魅力を一瞬も取りこぼさずカメラに写し撮ろうと、僕は女優たちに注ぐ視線よりも熱く迫ったつもりです。竜星涼が自分の等身大を超えて、演じる陽介という男の人生に憑依する瞬間を写し撮りたい。その勝負を、僕は映画のちょうど中盤、「死ぬんだぞ、俺は!」と感情を爆発させるシーンに懸けたんです。死の恐怖というものを、観る人に思わず想像させてしまう強い説得力をもって表現してほしかったし、胸キュン恋愛モノの王子様にとどまらない竜星涼の凄みを映画に刻みたかったから。僕が仕組んだ演出は、そのシーンを撮影する前日に撮った病室のシーンで、陽介がやるせない胸中を打ち明ける芝居を徹底的に追い込むことでした。物語上では順序が前後するのですが、撮影する順番と物語の流れがバラバラなのは、人の感情を通り一遍になぞらないですむ映画作りの醍醐味です。高貴な容姿の彼が見るも無残に崩れるまで、僕は一歩も引かない覚悟でいたし、罵るような汚い言葉も使って絞りあげました。彼も見事に応えてくれて、5回目のテイクでは鼻水まで垂らして泣きじゃくった。スタッフも感極まるほどでした。実際に映画で使っているのはテイク1と4で、感情を漲らせる一歩手前の芝居なんですけど、そのシーンを撮り終えた翌日から彼は明らかに変化したと思います。今、僕のような馬の骨監督が与えられる撮影環境では何かを待つことが許されない、時間に追われる現場を強いられます。この作品も10日間で撮影されたのですが、それを告白すると、「また日本映画がいい加減な作り方をして」と中傷されたりもするのですが、現実時間の長短では計り知れない密度を生きられるのがこの仕事の奥深さでもあるんです。竜星さんは得体のしれない時間の中に飛び込んで行って、もがくことを恐れなかった。繰り返し演じながら立ち昇ってくるものに懸ける、そこから滲み出るものが、わずかコンマ1の変化でも、それが10カット積み重なることで映画全体の輝きは確実に増すわけです。そうして肝心の「死ぬんだぞ、俺は!」を撮り終えた帰りの車中で、ぽつりと「彼女には幸せになってほしいんですよね」なんて呟いていた彼の横顔は、思い出すと愛おしい感じ(笑)。役からぬけ出せないでいる彼をみて、いま竜星涼と仕事ができて本当に良かったと、しみじみ感じ入りましたね。優しい味わいの映画に、ほとばしる熱量を加えることができたのは彼のおかげです。

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泣き虫ピエロの結婚式 (2016/88分/カラー/アメリカンビスタ/5.1CH)
出演:志田未来、竜星 涼、髙橋 洋、おかやまはじめ、岩橋道子、佐藤恒治、粟田 麗、新木優子、螢雪次朗
監督:御法川 修 原作:望月美由紀「泣き虫ピエロの結婚式」(リンダパブリッシャーズ)
エグゼクティブプロデューサー:浅野由香 中西一雄 高木徳昭 余田光隆 プロデューサー:山本晃久 八尾香澄
スーパーバイジングプロデューサー:久保田 修 共同プロデューサー:木幡久美
ラインプロデューサー:佐藤幹也 宣伝プロデューサー:西 利一郎 撮影:池田直矢 照明:加持通明
美術:松田香代子 録音:照井康政 衣裳:植田瑠里子 小道具:武田恭子 ヘアメイク:清田恵子
助監督:長尾 楽 編集:山中貴夫 リレコーディングミキサー:浅梨なおこ 音響効果:勝亦さくら
製作:映画『泣き虫ピエロの結婚式』製作委員会 配給:スールキートス
©2016映画『泣き虫ピエロの結婚式』製作委員会
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2016年9月24日(土)シネマート新宿他全国順次ロードショー

2016/10/03/19:43 | トラックバック (0)
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