インタビュー
ヤエレ・カヤム監督/『オリーブの山』

ヤエレ・カヤム (監督)
映画『オリーブの山』について【1/3】

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第17回東京フィルメックス・コンペティション上映作品

エルサレム東部のオリーブ山に広がる古いユダヤ人墓地。そこに暮らす正統派ユダヤ教徒一家の主婦の孤独を描いたヤエレ・カヤム監督の長編デビュー作『オリーブの山』が、第17回東京フィルメックスのコンペティション部門で上映された。夫に顧みられず家事に囚われる若い主婦ツヴィアが、ときおり家を訪ねてくる人々や墓地で目にするできごとによって内なる渇望を目覚めさせ、新しい世界に足を踏み入れていく。その変化や行為はどこか曖昧で思いがけない飛躍もあるが、結局のところ他人のことを完全に知ることはできないのだ。様々に色合いを変える墓地の美しく力強い景観とともに、若い感性で明晰に描かれるそんな複雑な心の旅に惹きつけられた。すでに多くの国際映画祭での受賞歴を持ち、前途輝くヤエレ・カヤム監督に、ストーリー作りのプロセスや、初長編作品への想い、俳優についてなどうかがった。 (取材:深谷直子)
ヤエレ・カヤム Yaelle KAYAM 2004年からメルボルンのビクトリア芸術大学、2006年からはエルサレムのサム・スピーゲル映画テレビ学校で映画を専攻。卒業制作の『Diploma』は2009年のカンヌ映画祭シネフォンダシオン部門で三席に選ばれる。同作は70の映画祭に招待され、14の賞を受賞した他、フランスのカナル・プリュスで放送され、ニューヨーク近代美術館でも上映された。長編デビュー作『オリーブの山』はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でプレミア上映の後、フリブールやサンフランシスコなどの映画祭で受賞。脚本を手がけた長編映画『Sameria』はカンヌ映画祭シネフォンダシオンのレジデンス、ベルリン24/7奨学金、サンダンス・スクリプト・ラボなどのスカラシップを得て準備中。サピル学院大学映画学部の講師でもある。

作品解説 主人公はエルサレム東部のオリーブ山にあるユダヤ人墓地の中の家で暮らす若い主婦、ツヴィア。夫が仕事に、子供たちが学校に出ていった後は一人で家事を行っているツヴィアは、時折気を紛らわすように墓地を散策する。ある夜、衝動的に外に出たツヴィアは、墓地で人目をはばかることもなく抱き合っている男女を目撃する。その瞬間、ツヴィアの単調な日々の生活に大きな転機が訪れる……。ヤエル・カヤムの監督デビュー作となる本作は、イスラエルの厳格なユダヤ教徒の家庭を舞台に、慎ましい生活を送っていた主婦がこれまで想像もしなかった世界を発見するプロセスをストイックに描いた作品だ。2015年ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映された。
ヤエレ・カヤム監督1
――『オリーブの山』が長編デビュー作になりますが、監督はそれまでに映画の勉強をいろいろとされていたようですね。最初は演技を学び、コメディ女優として活動されていた時期もあるようですが。

カヤム 演技の勉強をしたのはほんの短期間だけですね。その間に端役でちょこちょこと出演もしたのですが、本当に何本かだけです。映画制作を学ぶ前はいろいろなことをしていて、最初の大学では人類学を学びました。そのあとオーストラリアにいたときに、メルボルンにあるビクトリア芸術大学に通ったのですが、1年ほどでもう中退してしまおうと考えていました。でも当時の学長に説得されて結局は2年間そこで学びました。それからイスラエルに戻り、エルサレムのサム・スピーゲル映画テレビ学校で映画を専攻しました。ちょうどつい先週メルボルンでこの映画が上映されたのですが、私を説得してくれた学長も観に来てくださったようなので、とても嬉しかったです。

――経歴をうかがってもアクティヴな印象を受けますが、自分の映画を撮るときには故郷のイスラエルを題材に選びました。オリーブ山の風景からこの映画の着想を得たとのことですが、昔から好きな場所だったのですか?

カヤム お気に入りの場所とは言いませんが、ものすごく惹きつけられる場所ではありました。とても強い力のある景観ですし、また、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教を象徴する場所でもあり、関連する物語もたくさんありますので、昔から興味を感じる場所でした。子どものころは、死者が再生するところだと聞いていたので、いろいろ想像を膨らませていましたね。「生まれ変わるときって、死んだのと同じ歳で生まれ変わるのかしら? それとも生まれ変わるまでに経過した年数分、歳をとるのかしら? みんながみんな生まれ変わっていたら、地球が人であふれてしまう!」とか、いろんなことを考えていました(笑)。それで、オリーブ山に惹きつけられてそこで何かやりたいと長年思っていたのですが、どういうストーリーにするかはまったくわからなかったので、とにかくそこに行って時間を過ごしてみようと思いました。オリーブ山に関連する逸話などはたくさんあるのですが、自分のストーリーを作って、それが既存の物語とリンクするようにしたいと考え、まずはそこに身を置いてみようと思いました。

――どれぐらいオリーブ山でそういう時間を過ごしたのですか?

カヤム 半年ぐらいでしょうか、1週間に1回とか2回とか足を運びました。私はテルアビブに住んでいるので、バスを3回ぐらい乗り継いで、片道2時間ほどかけて通いました。自分が何を探しているのかもよくわからないまま、とにかくあの主人公と同じように山を登ったり下ったりしながらさまよい、一方で関連する書物もたくさん読みました。歴史的な事実も調べましたし、神話や伝承なども読みました。ラビなど何人かの関係者にも会って、いろいろと教えてもらいました。オリーブ山で時間を過ごすうちに、私の服装も変わっていきました。風景にとけ込むようなつつましい服、映画の中で主人公が着ているユダヤ教徒風の服を身に着けるようになりました。また、映画の中にアビッドという男性が出てきますよね。彼は私がオリーブ山で実際に出会った2人の人物を合わせて作ったキャラクターです。あのオリーブ山の墓地には世話人と呼ばれる人たちが何人かいるのですが、彼らはみんなパレスチナ人だということを知ってとても驚き、それもあってああいうキャラクターが生まれました。

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オリーブの山 (2015年/イスラエル、デンマーク/83分/ヘブライ語、アラビア語/DCP/カラー)
脚本・監督・製作:ヤエレ・カヤム
撮影:イタイ・マロム 美術:ネタ・ドロール 編集:オル・ベン・ダヴィッド
音楽:オフィール・レイボヴィッチ 衣装:ヒラ・グリック 録音:テュリー・ヘン
音響:ピーター・アルブレックツェン、イチック・コーエン
製作:エイロン・ラツコフスキー、ヨハナン・クレド、リサ&ヨシ・ウズラド、ガイ・ヤコエル
出演:シャニ・クライン、アヴシャロム・ポラック、ハイタム・イブラヘム・オマリ
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第17回東京フィルメックス・コンペティション上映作品

2016/12/10/17:11 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー ,映画祭情報
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