サトウトシキ監督監督『名前のない女たち うそつき女』

サトウトシキ (監督)
映画『名前のない女たち うそつき女』について【5/6】

2018年2月3日(土)~3月2日(金)新宿K’s cinemaにて公開 他全国順次

公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)

――確かに、とても生々しい人物像で、吹越さんが演じることによってさらに人間臭さが出ていたと思います。吹越さんとは以前からのお知り合いですよね?

サトウ ええ、仕事での知り合いですね。それも20年ほど前のことで、久しぶりに出ていただきました。吹越さんのおかげで映画がずいぶん締まりました。なかなか可愛いというかカッコイイというか(笑)。

――(笑)。哀愁が漂っていました。お母さんの介護のところもとてもよかったのですが、家族もこの映画のテーマのひとつですよね。痴呆症のお母さんが志村に梨を食べさせてもらって「家に帰ろう」と言ったり、葉菜子の作ったハンバーグを食べて明日香が昔の話をしたりと、食事が家族の思い出につながるものとして描かれているように思いました。これも加瀬さんのアイディアでしょうか?

サトウ まあそのへんが生活を描くということですよね。例えば妹の家出であったり、お母さんの呆けであったり、彼氏が働かないということであったり、家族のことだけではなくていろいろなことが生活にはありますが、そうした生活を中心に考えてのことなんでしょうね。何かを選択するとか何になりたい、どうしたい、ということだけではなく、何かを受け入れて環境を作っていくという。彼女の脚本の特徴です。

『名前のない女たち うそつき女』場面2 『名前のない女たち うそつき女』場面3
――不二子さんが演じる女性ジャーナリストも、いろいろな過去を自分の糧にして生きているのが素敵でした。

サトウ そうですね。この映画は、自分で仕事を取って生きるフリーランスに近い立場の人たちの話でもあるのかもしれないですよね。どう生きればいいのかはわからないけど、何かをひとつ選択しようとして、それを自分の何かにしようとしているというかね。職人のように訓練をして自分で仕事を手に入れると。編集者が出てきますけど、演じてくれた川瀬(陽太)くんにはあれだけど、この話はそういう勤め人側には目が行かない感じがしますよね。

――ああ、ウェブの記事はエロを入れればいい、とかいうのも常々感じていることでとてもリアルでした(笑)。でもこの役に対しては、編集は編集で厳しい競争の中で売れる商品を作るために必死で、元々目指していたものを捨てずにいられなかったのかもしれない、とそこまで考えましたね。他人を見る目が変わってくる映画だと思います。

サトウ 最初の脚本では葉菜子は歩いていって終わっちゃう、彼とは違うところに歩いていっていなくなっちゃうというものだったんです。この映画ではそのへんを最後まで描いていて、9年も経っていますから社会の見え方も変わってきたんだろうなと思いました。僕がこの映画をどんなふうに観てもらいたいのかっていうのはあまり決めなかったんですね。それは決められない脚本であったという感じですね。葉菜子に起こったこと、感情をあらわにする理由が何なのか? 彼を失うかもしれないこと、妹のこと、ほかにお母さんのこととかもあるかもしれないけど、そのどれかひとつでああいうふうに感情をあらわにして泣いているんじゃないだろうと思いました。彼女の中で何かが変わった、何かを背負ってしまったということが、ああいうふうに感情的にさせたんじゃないのかなと思ったんですね。

――自分でも気付いていなかったけど、いろんな体験を積み重ねるうちに何かを背負ってしまっていたと。

サトウ そうですね。先ほど出ていた幸・不幸とか妹の行動含め、葉菜子が「ペディキュアを塗った爪を見るとどうだ」と言っている、あのへんのことなんじゃないかと思って。彼女は「大人であることを忘れてしまうからペディキュアを塗った爪を見て思い出す」って言っていますよね。でも大人かどうかって自分で決める必要もないし、勝手になるわけだし、今の現実社会に生きていて「私は大人になりたくない」って無理に思う必要はないだろうってどこかで思っているんですよ。彼女はやっぱり大人になってしまっている、いろんなものを背負ってしまっている。気付いていなかったけどそうだったことにおののく、ということなんじゃないかと思う。そういう見え方になっていたらいいなと思います。

――そのあとペディキュアを塗り直すときは、本当に大人になったという実感を得ながらという感じでした。

サトウ うん、そういう意味で悲しいから泣いていたんじゃないんですよね。

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名前のない女たち うそつき女 ( 2018年/日本/DCP/カラー/ステレオ/86分 )
出演:吹越満,城アンティア,円田はるか,笠松将,小南光司,吉岡睦雄,不二子,クノ真季子,川瀬陽太
監督:サトウトシキ(「ジャイブ」「ちゃんこ」「モーニングセット、牛乳、春」)
原作:中村淳彦「名前のない女たち 貧困 AV 嬢の独白」(宝島社)
プロデューサー:森原俊朗・小林良二・橘慎 脚本:加瀬仁美 撮影監督・スティル・編集:小川真司(J.S.C.)
録音:岩間翼 助監督:大城義弘 音楽:入江陽 ラインプロデューサー:川上泰弘
制作会社:ソリッドフィーチャー 配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「名前のない女たち うそつき女」製作委員会(オデッサエンタテイメント・渋谷プロダクション)
主題歌:アクメ『CALL MY NAME』 ©「名前のない女たち うそつき女」製作委員会
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2018年2月3日(土)~3月2日(金)
新宿K’s cinemaにて公開 他全国順次

2018/02/05/20:25 | トラックバック (0)
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