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映画『アルビノの木』凱旋上映 @池袋シネマ・ロサ
宮台真司(社会学者・映画批評家) × 金子雅和監督
トークイベントレポート【1/3】

『アルビノの木』凱旋上映 宮台真司(社会学者・映画批評家)×金子雅和監督 トークイベントレポート

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5月4日(金・祝)20:00~で池袋シネマ・ロサ=都内での上映終了
6月10日(日)、長野/木曽ペインティングスにて凱旋上映

2016年にテアトル新宿で初公開され、各国の国際映画祭で11の賞を受賞した金子雅和監督の『アルビノの木』。池袋シネマ・ロサでは、処女作『AURA』からの全9作を一挙上映する「金子雅和監督特集」に続き、4月21日より5月4日までの2週間、本作の凱旋上映を行っている。今回の上映のために監督自らがDCP化を行い、長野、群馬、山形の大自然の中ロケーション撮影された映像は、ますます鮮やかに生々しく迫り来るものとなって、初公開時とはまったくの別の作品になったと評判を呼んでいる。連日のゲストトークで展開される様々な考察も刺激に満ちており、金子雅和という日本の新しい才能のこれからに期待が高まる好企画だ。GWに突入した4月30日に行われた、社会学者・映画批評家の宮台真司氏と金子雅和監督のトークを採録でお届けする。 (取材:深谷直子)

金子雅和監督金子雅和監督

金子 『アルビノの木』という映画は今回初公開というわけではなく、2016年にテアトル新宿で公開されて、それから海外の映画祭を16ヶ所ぐらい回って今回東京で再上映となりました。宮台さんには2週間ぐらい前にDVDで観ていただいたんですが、ご覧になって受けた印象や感想などありましたら。

宮台 結構大きなスクリーンで妻と一緒に観ました。観始めて3分か5分くらいでこれは間違いなくいい映画だとお互いに確信しました。いい映画かダメな映画かというのは冒頭を5分か10分観ればわかる。僕はこれはダメだなと思ったら映画館を途中で出ちゃいます。その基準は、僕らは動物なので、ものを見たり、ものに対して何か働きかけたりして、それにリアクションが返ってくるというのは動物と同じ。ものとの関わり、あるいは自然との関わりという側面に興味がある。でも人間は意識を持つ存在なので、対象との関わりとは別に、自分との関わりというのがあるんですね。人間は単に反応するのではなくて、対象に対する反応、に対する反応、に対する反応……というふうに繰り返して生きるわけです。だから自分が対象を見ているときに、対象に意識を奪われている自分ももちろんいるわけですが、意識を奪われている自分に意識が向くということも当然ある。真利子哲也監督の『NINIFUNI』(11)という作品は、それを理解するのにいちばんいい作品のひとつなんです。複数のまったく交わらない視座があって、しかしそれを観客は見ているんです。主人公の宮崎将にもなるし、ももクロの早見あかりにもなるし、プロデューサーにもなる。まったく関係のない人間たちが、それぞれまったく無関連に見る場面を観察して没入するときに、不思議な感覚になっている自分がいるわけですね。つまりこの『アルビノの木』と同じなわけです。自分は見ているな、自分は感じているな、思っているなというふうに見たり感じたり思ったりすることを、結構早い段階で強いられる。場面に没入して「次は何が来るの?」と血湧き肉躍る感じとはまったく違う。そういう呑み込まれる映画というのは緊張感がない。ずっと自らが裁量を取っていく、視線に意識的にならざるを得ない、緊張を強いられる。だから多分いい映画だと、最初から妻とそう話していたんだと思います。

金子 この映画の他の映画との相違点や特徴は何だと思いますか?

宮台 ナギという女性を、観客が鹿の化身だと感じたら、そう見ればいいと思うんです。金子監督がどういうふうに意図したかではなく、鹿の化身だと感じたら鹿の化身なんです。僕はなりすまし、なりきりという言葉をよく使うけれど、例えば手塚治虫の『火の鳥 太陽編』にも描かれるように、人は昔、鹿を狩るときには鹿の皮を被り、あるいは狼の毛皮を被ってハンティングをした。シベリアの先住民もアマゾンの先住民もみんな同じです。鹿の毛皮を被ると鹿になり、雌鹿が寄ってきて鹿同士の会話が成り立ち、油断したところで人間に戻って相手を撃つというのが基本的な先住民の狩りのパターンです。なりきって元に戻ってだまし討ちというのは残虐だな、と僕らは思うけど、先住民にはそうではない。そこで本当になりきってついていくと今度は自分が殺されてしまう。どちらかが殺し殺されるという関係がどこまでもついて回る。しかし人は鹿になるし、鹿は人になる。この映画はそういう感じがずっと一貫していて、特に最後がとてもよかった。人が鹿を見る、人の視座があってそこに白鹿がいるシーンがずっと描かれていたわけだけれど、ラストシーンは鹿から人が見えるというもので、鹿が人を見るときの感じと、人が鹿を見るときの感じが同じなんですね。人が鹿を、例えば害獣とか人間社会にとってのストレンジャーとして見るのと同じ視座で、鹿からも人間がストレンジャーとして見る感じ。そういう互換性が最後に提示されているというのも非常によかったし、ナギがユクを裏切って村の男と結婚する、あの結婚のシーンもとてもよかったですね。宮台真司宮台真司お葬式や結婚式で、ああやって10人から20人がゾロゾロ歩くというのは、今世紀になって随分廃れちゃいましたけど前世紀はまだ田舎にありましたよね。もうそれだけでも持っていかれちゃうんだけどそれはそれとして、裏切りが非常にナチュラルで、摂理みたいに感じられる。なぜかというとユクにはナギと結婚する資格がない、資格がない者が結婚することはできない。そういう今の僕たちにとっては当たり前ではないけれど、僕たちが昔持っていた当たり前の感覚が、非常に説得力を持って描かれていて、僕はすごく納得しました。ちなみに僕はゆえあってこの1年間映画の批評をしていませんが、僕は人間が4万年前に言葉を持つ以前、1万年前に法、決まりを知る以前の生き方にすごく関心があって。僕たちの遺伝的な基盤というのは言葉以前、決まり以前にあるんです。そうした「もともと僕たちはどういう感じ方をしていたのか?」ということを描く映画が今世紀に入ってから多い。去年公開されたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』(16)は、テッド・チャンという中国系の作家がアジアの先住民の思考を意識して描いたものでした。『NINIFUNI』も非常に先住民的な発想に基づいて描かれています。脚本の竹馬靖具と真利子哲也は昔から知り合いなので、相互に影響を与え合っているというのはもちろんあるんですけど。そういうのがなくても、テレンス・マリック監督の『シン・レッド・ライン』(98)は、人間の時間、ワニの時間、鳥の時間、米兵の時間、先住民の時間、日本兵の時間、全部違ったレイヤーを構成していて、僕らはどれにでも乗れる。どれにでもに乗れるがゆえに特殊なレイヤーの戦争に奇妙さがある。鳥の時間もワニの時間も先住民の時間も無関係で、ただアメリカ兵の時間と日本兵の時間の中で対決をしているような奇妙さ。いわゆるヒューマニズムに基づく戦争批判とはまったく違っていて、「一体何をやっているんだ?」というような。『アルビノの木』は、その流れの上にぴったり乗っていて、しかも無駄な要素がまったくない、すごくいい映画だと思いました。

金子 ありがとうございます。2年ぐらい前のシーロ・ゲーラ監督の『彷徨える河』(15)にも感銘を受けました。あの映画もまさにひとつの場所に同時にいろんな時間が存在しているのが映画ならではの表現だと思いました。

宮台 あの映画には先住民のアイデンティティがあって、近代人のアイデンティティがあって、近代人の中に平和主義者のアイデンティティがあって、好戦的なアイデンティティもある。そして先住民の中にもクズ先住民がいて、別の種族の生き残りであるカラマカテという先住民はクズ先住民をクズ扱いし、また老いたカラマカテは人類学者を後継者とし、ヤクルナという聖なる植物を授けてしまう。非常に面白いですね。日本人なら日本人、アメリカ人ならアメリカ人、先住民なら先住民のアイデンティティがあるっていう、そういうクズな発想をしない。LGBTとかいうのもクズな発想で、人は男でもあるし女でもあるし、レズビアンでもあるしゲイでもあるし、バイセクシュアルでもあるしトランスセクシュアルでもある。それをひとつのアイデンティティに固定されたところからものを見て「権利をくれ」というのは馬鹿げた発想なんですよね。『彷徨える河』は完全にそういう話で、アイデンティティをベースに権利要求をするという近代人の発想をクズだと位置付けているのが非常に面白かったです。

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アルビノの木
( 2016|JAPAN|COLOR|2.0ch & 5.1ch|shot by NIKON D7100|screened by DCP & Blu-Ray Disc|86minutes)
出演:松岡龍平,東加奈子,福地祐介,山田キヌヲ,長谷川初範,増田修一朗,尾崎愛,細井学,松蔭浩之,松永麻里,山口智恵
監督/編集/撮影:金子雅和
プロデューサー:金子雅和,金子美由紀 脚本:金子雅和,金子美由紀 撮影助手:東哲哉 照明:白石宏明
録音:間野翼 美術/衣装:金子美由紀 メイク:知野香那子,鈴木啓士朗 助監督:滝野弘仁,登り山智志
監督助手:福田佑一郎 制作:名倉愛,堀内蔵人 整音:黄永昌 特殊効果:高橋昂也,高橋絢 音楽:石橋英子
ロケーションコーディネイト:坂詰史博 協力:長野県須坂市 配給:マコトヤ 製作:kinone ©kinone
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5月4日(金・祝)20:00~で池袋シネマ・ロサ=都内での上映終了
6月10日(日)、長野/木曽ペインティングスにて凱旋上映

2018/05/04/14:51 | トラックバック (0)
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