杉田協士監督『ひかりの歌』

杉田 協士 (監督) 映画『ひかりの歌』について【6/7】

2019年1月12日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)

――俳優さんの演技がとても生々しいですが、演出で意識したことはありますか?

杉田 基本的には、やってくださいとお願いしてやってもらうだけです。助監督をしていたときも含めての経験なのですが、「次はこうしてください」と伝えたり、段取りを変えたりしても、それが有効に作用することはほとんどないです。だからどこかで腹をくくるしかないんです。撮影に入る前から、結果はほとんど決まっているというのがベースにあります。出演者が決まって、ロケーションがあって、脚本が出来上がったら、そこでほとんどのことは終わっていて、あとは丁寧に現場をすすめることが大事です。

――テイクは重ねていたりするんですか?

杉田 3章だけはかなり重ねています。車内のシーンで、金子岳憲さん演じる宏が「これ始発だよ」と言い、笠島さん演じる雪子が「なんでわかるんですか?」と言うところは、30回以上やっています。

――えっ! 監督、鬼ですね(笑)。どうしてそんなに何度もやることになったのでしょうか?

『ひかりの歌』場面4杉田 難しいラインがありました。そのカットでは、嘘くさいんだけど本当っぽいことを突然言う、というラインがすごく難しくて。ちょっとしたさじ加減で、そのセリフがまったくの嘘に聞こえてしまったり、ただの説明ゼリフのようになってしまったり。今までの映画作りの中で、編集の時点になってはじめて現場での判断ミスに気づいて後悔した経験があって、「こんなもんで大丈夫だろう」というのは絶対に大丈夫じゃないと身に沁みているんです。だからそこは鬼でいきます。その微妙なラインは、4章の並木愛枝さんと松本勝さんも結構我慢して付き合ってくれたかもしれないです。あるカットを何テイクか撮影するときに、並木さんと松本さんで、これ以上ないようなベストな演技が出てくるタイミングに少し違いがあるんです。性格の違いと一緒で、それは一人一人が持っているものだと思います。あまり変えられないところもきっと性格と一緒なんです。ベストはみなさん持っていて、出てくるタイミングに違いがあるというだけです。だから、そこは待つ作業になります。並木さんも松本さんも、とてもいい芝居をされる。そのなかでの私の役割は、そのベストのタイミングがくるまで粘ることです。「もう1回お願いします」は本当にもう1回お願いしたいだけで、いつかそれが出てくるのを代表して待っている。

――衣装はどうしているんですか?

杉田 俳優に任せています。2章のジョギングウェアだけは伊東さんと一緒に南大沢のアウトレットに買いに行きました。

――そうなんですか。どの衣装も作品のトーンに合っているのでスタイリストがいるのかと思っていました。第3章で主人公が借りて着ているコートが素敵ですね。

杉田 あのコートは、2章で主演をした伊東さんのものです。札幌のロケが面白そうだからと手伝いで一緒に来てくれたんですが、その札幌行きのために古着屋で買って、「いいのが見つかった」と嬉しそうに着ていたコートを、「これ使えるんじゃないかな」と撮影の途中で思いついて「今日の撮影で借りてもいい?」と相談したんです。

――そうなんですか。じゃあコートを借りるというエピソードもそこで考えたものですか?

杉田 始発のシーンを撮る前日くらいに思いつきました。「借りたコートだからポケットにピーナツ入っていてもいいな、このお話できた!」ということを、撮影中にやっていました。……ぎりぎりすぎますよね。第3章は脚本をほとんど用意せずに撮影をすすめた章なんです。

――そうでしたか。上手いですよね、女の子はあまりピーナツを食べないかもしれないですけど、借り物のコートだったらあり得る。即興のようなことをしていたんですね。

杉田 だからずっと胃が痛かったです。わざわざそのやり方を選んだのは自分なので、言ってる場合ではなかったです。

――最終的にはすべてが上手くまとまって。

杉田 それは編集の二人の力も大きいです。編集が二人いるのは、1章と3章の編集をしてもらった大川景子さんが、事情があってタイミング的に残りの2本をできなくなってしまったからで、そちらは小堀由起子さんという、商業映画の編集をメインにしていて、ありがたいことにいつか私の映画の編集をやってみたいと伝えてくれていた方に、「今だ」と思ってお願いしました。たまたま1章と3章は大川さんに、2章と4章は小堀さんに向いた撮り方をしていたかもしれません。大川さんは普段ドキュメンタリーをやっている方なんです。2章と4章はフィクションを組み立てるような撮り方に変わっていて、それがきっと小堀さんに合っていたんだと思います。

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ひかりの歌 ( 2017年/日本/カラー/スタンダード/153分 )
出演:北村美岬,伊東茄那,笠島智,並木愛枝,廣末哲万,日高啓介,金子岳憲,松本勝,リャオ・プェイティン,
西田夏奈子,渡辺拓真,深井順子,佐藤克明,橋口義大,柚木政則,柚木澄江,中静将也,白木浩介,島村吉典,
鎌滝和孝,鎌滝富士子,内門侑也,木村朋哉,菊池有希子,小島歩美,岡本陽介
監督・脚本:杉田協士 原作短歌:加賀田優子,後藤グミ,宇津つよし,沖川泰平 撮影:飯岡幸子
音響:黄永昌 編集:大川景子,小堀由起子 音楽:スカンク/SKANK カラリスト:田巻源太
写真:鈴木理絵 題字:岸野統隆 配給協力・宣伝:髭野純 宣伝:平井万里子 宣伝デザイン:篠田直樹
配給: GenuineLightPictures 製作:光の短歌映画プロジェクト © 光の短歌映画プロジェクト
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2019年1月12日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

2019/01/15/18:06 | トラックバック (0)
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