――中神さんは22歳でスカウトされたとのことですが、演技したり、表現したりしようと思ってアクターズ・ヴィジョンに行ったのですよね？

中神　就職活動中にスカウトされて就職先よりも事務所の所属が先に決まったので「これも何かの縁なのかもしれない」と思ってちょっとやってみようと始めました。

――演じることは大変ですよね。もがきまくると思います。この作品はお二人にとっての大きな役でのスクリーンデビューになりますが、お二人とも夢鹿や十百子と共通点があって、そしてそれを乗り越えて行かなくてはいけないのかもしれないと思いました。最後に、観客のみなさんに伝えたいことはありますか？

縄田　夢鹿、十百子、貴也、鏡一、4人いるキャラクターの中に何かしら自分と共通点があるかと思うので、自分が生きていて体験できない感情や心の動きを観ることによって、普段抑えていること、感じ得ないものを感じてもらえたらいいなと思います。

――この映画に関わった人にはそういう意見が多いですよね。伝わるべき人に伝わってほしい、と。先程の中神さんの言葉にもありましたが、同性愛者の方を傷付けてしまうかもしれないけど、この映画で描かれていることが伝わるべき人に伝わってほしいという半々の思いなのでしょうか？

縄田　語弊はあるかもしれませんが、何も感じないよりは傷付つくというか、この映画を観て何かを思い、持ち帰って頂けたらなと思います。私はそれを「心のお土産」と呼んでいるのですが、この作品が少しでも多くの人たちの哀しみや苦しみにそっと寄り添う事が出来たらなと願います。

――映画を観に行く人は無防備な状態で映画館に行って安全な客席から何か衝撃を与えられたいという面もありますよね。自分が好きな映画は感情が爆発するシーンのある映画です。怒鳴ったり、泣いたり、自分が日常でそれをしたら大変ですが、そのシーンを観ることで感情を清める/昇華するということはあると思います。この映画にもそういうシーンが幾つもありますよね。十百子のベッドシーンで叫ぶ姿を観て泣く人はいると思います。そして今作は、いわゆる男が好きなエロの話ではないということは試写会に来ていた知り合いの男性とも話しました。

縄田　性を描いているので、そういう風に捉えられやすいかと思うのですが、全て観てもらえたら印象としてこれは肉食ではなくて、どちらかというと草食の話だと思ってもらえるんじゃないかなと。心と体が分離している話なので。

――そうですね。映画が公開された後はTwitterなどのSNSや劇場に観に来たお客さんから直接のフィードバックがたくさん来ます。かつてない経験かと思いますが、自分が成し遂げたことへのフィードバックなので人生の醍醐味を味わうと思います。自分のやりたい表現でポジティブでもネガティブでもフィードバックが来る、というのは幸せなことですよね。

縄田　はい。本当に何かを感じて頂けたら嬉しいです。

――中神さんも同じ気持ちですか？

中神　お客さんは、ある程度は「こういうお話なのでは」と想像した上で観に来てくださるかと思うのですが、そういう想像を超える衝撃を与えられたら嬉しいなと思います。観てくださった方からどんな気持ちになったか教えて欲しいですね。

――本日は忙しい中をありがとうございました。今作が1人でも多くの伝わるべき人に伝わることを願っています。

脚本家・荒井美早さんインタビュー