上西 雄大(監督・主演)『ひとくず』

上西 雄大 (監督・主演)
映画『ひとくず』について【2/4】

2020年3月14日(土)より 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)

『ひとくず』場面画像2(徳武未夏) 『ひとくず』場面画像3(上西雄大、小南希良梨、古川藍)
――取材ではどんなことを調べたのですか?

上西 僕は虐待の当事者に話を聞くことはやりたくなかったんです。その人たちにとって虐待というのは凄まじい体験だったわけで、映画を作るためにその話を聞くことはやりたくなかった。そういう方々が楠部先生とお話ししているところを見せていただいたりしながら、あそこでああいう表情をされたのはどういうことかな?と、捉えたものを自分の中で育てていって、それをつなげながら人物を構築していきました。また、実際に起こった虐待の事件を調べていくと、同じようなケースが多いことに愕然としました。調べれば調べるほど、近い環境で虐待が起こっていることが見えてきて、人それぞれというのではないなと思いました。ということは、そこを考え直せば救済する手立てもあるのではないかな?とも思いましたが、でも僕にできることは何もないなと自分を責めるしかなく、そういう想いを全部脚本に落としていって、映画製作に持ち込んでいきました。

――同じようなケースというのは、この映画に描かれているように、母親の連れ子を養父が虐待するというものでしょうか?

上西 そうです。そこで起こる虐待というのは本当に残酷だし痛ましい。実の親が子供に手をあげるときは、すごく重傷を負わすところまでいくケースはあまりなく、手をあげることで親も傷つき、子も傷つき……。それはそれで悲しいことなんですけど、他人がやる虐待というのは命に関わる痛ましい内容になるから、話を聞いて本当に腹が立ちました。最近の事件でも、教師や児童相談所が相談を受けていながら、その時点で全力で救い出す人がいなかったことをすごく悲しく思います。子供が訴えるというのは、親を捨てた気持ちに至っているわけで、その勇気はものすごいものなのに、それをなぜ救えないのか?と。

――上西監督の憤りや悲しみが映画からひしひしと伝わってきました。それと同時にとてもエモーショナルで、夢中で見入ってしまう作品になりましたね。

上西 虐待を重く悲しいものとしてお客さんにポンと渡すつもりはまったくありませんでした。そんなものを渡したところでお客さんは余計目を背けたくなるだけです。虐待に目を向けてもらうということがやりたいのであれば、やはりドラマとして、悲しい環境で生まれ育った人間が、心の中に残っていた良心をいかにいい方向に向かわせ、他人を救いに行けるのか?ということを考えてもらえるものを作ろうと。そして、家族のぬくもりもそこに描いて、最後は感動していただける作品にしたいと思いました。

――人間のくずと呼ばれる人が、他人を助けることができる。誰にでもできることなんだと勇気ももらえました。
古川藍&上西雄大監督画像古川藍&上西雄大監督 『ひとくず』場面画像4(小南希良梨、古川藍)

上西 助け方が間違っていますけどね、暴力で助けるわけですから(苦笑)。カネマサには教養がないからそういう発想に至るけど、子供を助けようと必死でしているわけで。そういう男の心が見せられれば、極端な行為でもストーリーとして見てもらえるかなと思いました。

――上西さんもダメ母の凛役の古川藍さんも、本当のくずになり切った熱演が素晴らしかったです。

上西 カネマサは自分の中でも愛しい、かわいそうな男だなあと思いますね。演じているときはその人間になり至っていて、自分をかわいそうだとは思わなかったんですけど、撮り終えて俯瞰でこの作品を見れば見るほどかわいそうな男だなあと思って。ラストシーンを撮ったときは、演じながら俯瞰で見ている感覚が若干あって、「この男は本当にかわいそうだなあ……」と思いながらカネマサをやるという。あそこのシーンをやったときの心境は先にも後にもないですね。

――私もあそこは祈るように観ました。

上西 上映すると、その直前のカネマサが女性店員に怒鳴るシーンでかなり笑いが起こるんですね。あそこまで進むと「あいつまた言ってるわ!」とカネマサを愛くるしく見てもらえているから。あそこでの笑いに毎回劇場で救われます。

――(笑)。本当にどんどん感情移入していってしまうんですよね。

上西 人間を描こうと思っていて、人間を描くとそこに笑いも、あざとく狙ったりしなくても生まれてきました。焼肉屋で鞠がカネマサのことを「泥棒のおじさん」と呼ぶと、後ろのテーブルの客が毎回振り向くというのも現場でつけた演出だったんですけど、あそこでもいつも笑いが起きますね。

――多分海外の映画祭でこの作品は大いに盛り上がるだろうなという気がするんですが、日本でも笑いが起こるんですか?

上西 そうなんですよ。海外でも日本でも同じところでみなさんクスッと笑うし、3回ぐらいガーッと泣くし。人間が持つ家族への想いというのはどこの国でも同じなんだなあと。

――そうですよね。あと、底辺ですさんだ生活をしている人にここまで肉迫した作品もほとんどないので、そこにも目を開かされました。

上西 貧富の格差が日本にはすごくあると思っていて。すごいお金持ちもいれば、ビックリするぐらいお金のない家族もいる。そういうところにこういった悲しいことがついてくる気がしています。それをドラマとして渡して、みなさんに受け取って考えてほしいというのが僕の願いでした。

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ひとくず (2019/STEREO/日本/DCP/117分)
出演:上西雄大,小南希良梨,古川藍,徳竹未夏,城明男,税所篤彦,川合敏之,椿鮒子,空田浩志,中里ひろみ,
谷しげる,星川桂,美咲,西川莉子,中谷昌代,上村ゆきえ,工藤俊作,堀田眞三,飯島大介,田中要次,木下ほうか
監督・脚本・編集・プロデューサー:上西雄大
エグゼクティブ・プロデューサー:平野剛,中田徹 監修:楠部知子 撮影・照明:前田智広,川路哲也
録音:仁山裕斗,中谷昌代 音楽プロデューサー:Na Seung Chul 主題歌:吉村ビソー「Hitokuzu」
制作:テンアンツ 配給・宣伝:渋谷プロダクション
協賛:㈱リゾートライフ,ドリームクロス㈱,串カツだるま,カンサイ建装工業㈱,高橋鋭一,
平野マタニティクリニック,㈱エフアンドエム,㈱中島食品,ALEMO㈱,㈱USK,㈱ラフト
© YUDAI UENISHI
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2020年3月14日(土)より 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

2020/03/09/18:32 | トラックバック (0)
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