東北新社SPS部入社。横浜博、名古屋デザイン博などイベント展示映像の制作に関わる。90年よりCM本部に移籍。以降、CMディレクターとして企画・演出。96年より東北新社退社後、フリーランスに。
現在、今春公開予定映画『MASK DE 41』(マスク・ド・フォーワン)待機中。
# 109 /2002.4.11
スズナリ横丁にある場末のスナック・Leeは数年前から時々立寄るディープな店だ。
ひたすらコンテを書いていたオレのとこに深夜12時を過 ぎた頃、「出動せよ!」との司令がママから入り、ノコノコ出てきた。
ママに言わせるとオレ好みのニューフェイスがいるからとのこと。
なるほどカウンターの中には幸薄顔のヤスダジュンコ22才が慣れない手つきで柿の種を器に入れていた。
ここを訪れる客はすれっからしの酒好きばかりだから、ヤスダジュンコ22才が堕ちてゆくのも時間の問題だ。
極薄のジャックダニエルの水割りをオレは複雑な気分でちびりちびりと口に運んだ。ロボコンライターでヤスダジュンコは煙草に火を付けた。
* * * * * *
ヤスダジュンコ・22才の物語はなかなか数奇のようで、パターンのようであった。
埼玉のごく普通の県立高校を卒業後、ヘアスタイリストを目指し専門学校へ行き、その後地元の美容院に勤めたまではよかったが、幼なじみの親友の借金の保証人になったのが痛かった。
いつのまにか親友は表舞台から消え、こわもての借金取りが店に来るようになり店も辞めた。
元より家族とは折り合いが悪く彼氏の部屋に転がりこむもまた踏み込まれ、そのまま吉原に連れていかれた。元来そっちの方は嫌いじゃないので、まぁいいかと研修を受けることに。
しかし!店のマネー ジャーも三分ともたないその名器は、覚えたてのソープテクを補って余りあるものがあり、あっというまに店のNO.1になる。数百万に膨れ上がった借金は三ヵ月で完済。
予約は三ヵ月先までいっぱいという売れっ子ぶり。
しかしヤスダジュンコ・22才はあっさりと足を洗い、下北沢をぶらぶらしていて一番街の山ちゃんの軒先でみたスナック・Leeバイト募集のチラシに飛び付く。
で、今オレの前でマルボロをふかしている。
吉原を驚愕させた名器には興味深々なのだが、古着を趣味良く着こなすヤスダジュンコにあどけなさは見て取れても、そんなもん持ち合わせてるよーには見えない。
うーん、深い。
* * * * * *
スズナリ横丁スナック Leeには「幻の柿の種」という名物おつまみがある。
これさえあればボトル一本は軽いというシンちゃんや、ひと月に2キロは食うもんねという善さん。夜毎「幻の柿の種」を求めて集う酒仙たち。
今夜はヤスダジュンコ・22才がピーナッツをまぶしてくれた。
ヤスダジュンコはさっきからオレと町田さんの共有ボトルを三分の二はくいくいと流し込み、薄幸な潤んだ瞳が艶めかしく「村本さん家あ たしんとこからすぐだね。」と取りようによっては深読み出来無くもないこと言って38才を惑わせてくれる。
が、アンダー28は守備範囲ではないオレは軽く聞き流す。
夜は更けてく。
* * * * * *
かなり煮詰まり眼圧が上がり目が痛むので、深夜ふらふらと散歩に出る。しかし今夜はやけにタクシーが多くて歩きづらいことこの上なく、20分で諦め戻る。
部屋に戻りWOWWOWをつけたら最近気に入ったバンド「ego-wrappin'」(スペル合ってる?)のライブをやっててしばし観る。
大阪のバンドだったのか…妙に納得。
「UA」以来だよなぁ、こんないいの…。
ロックかぁ…。
【編注:「EGO-WRAPPIN'」のHPはココ】