「舌先三寸」日記タイトル画像
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村本天志さん
プロフィール

東北新社SPS部入社。横浜博、名古屋デザイン博などイベント展示映像の制作に関わる。90年よりCM本部に移籍。以降、CMディレクターとして企画・演出。96年より東北新社退社後、フリーランスに。
映画MASK DE 41(マスク・ド・フォーワン)、新宿K'sシネマにて8月中旬ロードショー。


窓に映る自分。


のどかなスコットランドの田舎道。ここで犬に襲われた。


広いよ。なんか。

# 318/2004.6.8

第317回

「スコットランド通信」編

5月24日着

飛行機にたっぷり揺られぐったりしロンドンに着き国内線に乗り換えエジンバラへ。

寒い。オレは鞄からイッセイミヤケMA‐1を出してはおる。スモークサーモンとアンコウのソテーの夕食をとりドラクエをするとぐったりした。街には人がいない。古い時間が止まった街。時差で頭が回らない。

いきなり野犬に追い掛けられた。しかも三匹。
あとで冷静になれば首輪してんだから飼い犬つーか羊追いの強い犬なんだが、その緊迫した流れの中ではオレ&久西PMには野犬にしか思えなかった。でかいし。のんびりとした気分で牧草地をこの納屋100年前からあったんだろーなとか言いながら景色に気を取られてたら気付くと歯を剥いた犬どもがオレらを取り囲み激しく吠えていた。

「監督走っちゃだめっすよ!ゆっくり歩いて!」
…オレは犬が苦手だ。わかった!歩く。しかし一匹がオレの足に軽く攻撃してきてさらに吠える。
「おい、さっき蒸留所で買ったのだせ!」
「えっ、ウイスキーケーキの方すか?」久西PMもうろたえている。
「いやウイスキーファッジだ」野性の勘がそう言った。
久西PMは袋からファッジを出しビニールの付いたまま放り投げた。一匹が反応し食べはじめた。
「ばか!剥け!ビニールは!食えないだろ?!」 「ういっす!」
ビニールなしファッジを2ヶ所に投げる。犬飛び付く。一瞬ふたりはほっとすると目で逃げるぞと合図しあい早足で納屋付近から街道に出た。

「もう大丈夫っすね!」
野犬?に見えた、がたいのいい犬どもがウイスキーファッジと格闘しているのが遠くに見えた。
ファッジとは黒砂糖の固まりを想像してもらえばいいがなんかやたら甘い小麦粉と砂糖のこねた固まりだ。今回のはそれにたっぷりウイスキーが練り混まれててオレらは一口食って吐き出した代モンだ。

「あいつら今頃べろ酔いっすよ!」ようやく安心した久西PMはなんか嬉しそうだ。オレもこの歳になってしかもこんなスコットランドの田舎で犬に襲われるとは思ってもみなかった。

記念に夕食はふたりで灯りのない田舎道をのんびりとぶらつき隣のホテルのバーでサーモンやらトラウトやら新じゃがのソテーなどをぱくつきながら、けらけらと笑った。

ありえないよな…犬に噛まれて運ばれたら。
ひとりになると北海道みたいなスコットランドで電話もない素泊まりのホテルの小部屋でオレはくすくすと思い出し笑いしながらつらい現状をちょっとだけ忘れた。

明日は鹿の肉の煮込みと野鳩のローストでも食べようかな。

メアリーという小柄な38才のカメラマンは大きな重いリュックを背負ってやってきた。オレは草ムラに座りのんびり煙草をふかしていた。
会った瞬間恋の予感がしたので左手の薬指をすかさずチェックしたら空だったので荷物を持ってやったり「若く見えるね}とか「君のリールを見たときから早く会いたくて日本から飛んできたのだ」とか伝えたかったのだがすぐロケハンが始まりそんな暇なかった。

日本人のカメラマンにも藤井春日さんという素敵な女性がいるんだがメアリーも負けていない。ただ胸が小さい。これでDカップならオレは蔵の中で押し倒していたに違いない。楽しいロケになりそうだ。

しかしスコットランドはいい。美しい。どこまでもつづく菜の花畑見たときにはびっくりした。森もきれいだ。水もきれいだ。空も雲も美しい。これで飯が美味ければ言うことないがそこそこのもんを探すのがやっとだ。

悠久の時が延々と続く。前進も後退もなくひたすら続く。スコットランドはスコットランドでしかない。強いよな、こーいうの。