「舌先三寸」日記タイトル画像
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村本天志さん
プロフィール

東北新社SPS部入社。横浜博、名古屋デザイン博などイベント展示映像の制作に関わる。90年よりCM本部に移籍。以降、CMディレクターとして企画・演出。96年より東北新社退社後、フリーランスに。
現在、今秋公開予定映画『MASK DE 41』(マスク・ド・フォーワン)ポスプロ中。

# 6 /2000.12.17

第3回 前編

才能に経済は伴わないのがこの世界らしい。なんにせよ人とのつながりでこの世はまわるのだ。

すっかり冬だ。が、話は去年の9月にさかのぼる。

オレはライター志望のAと向き合っている。Aは貧乏な27歳。どれくらい貧乏かというと風邪をひいても医者にかかれない位貧乏だ。保険証など持っちゃいないからだ。Aにあるのはささやかな才能だけ。本当はつい最近まで2人彼女がいたのだが、Aの不用心から二股がばれ、その誠意の無さに愛想を尽かした彼女たちは2人同時に去った。しかしAの良いところは妙に楽天的なところで、ポケットに小銭しか無かろうと自分はいつの日か売れっ子脚本家になり、幸せになれると信じて疑わない。

「いやぁ……、何かいーことないですかねぇ?」

オレのおごりのクリームパフェをパクパク食べながらAはニコニコしている。オレは時々そのくったくの無さに不安になってしまう。

「ないよ。なにも。」

新宿のただ騒がしいカフェで、2人は結局さっき見たばかりの芝居のひどさにぐったりしながら、糖分を補給するだけだった。

そんな時、オレのケータイに10年来の知り合いのCFプロデューサーKから連絡が入った。地方のケータイ電話CFを撮ってくれないかというのだ。

「予算ないんだけどさぁ、けっこう遊べると思うんだよねー。」

このプロデューサーKは誠実な良い奴なので、来た仕事は断らないよーにしている。オレたちは明日会う約束をし、電話を切った。

「何か仕事あったら回してくださいよォ…全日(の試合が)あんすよねぇ、来月。ブドーカン。」

Aがチェリーを口の中で転がしながら言った。


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