地球はイデ隊員の星

連載第7回 放送第6話『沿岸警備命令』

 このところ、今度のイデ隊員は序盤に比べて脇に引っ込んでいる、道化に徹している、と毎回のように書きつつ、よく吟味すれば存在感はたっぷり。そう撤回することの繰り返しでした。 すっかりそのペースに慣れて、さあ、今度はイデ隊員のどんな魅力が見つかるかな、と期待しながら見てみた第6話です。……セリフが数えるほどしかなくて、しかも全て平凡なリアクション。だから見せ場もゼロ。いいところを見せないのはいつものこととして、おどけたり失敗したりすら、しない。まさかと思って、もう1度DVDを見てみましたが、印象に変わりはありませんでした。
 ついに、来た。第6話にしてついに初めて、イデ隊員は本当に単なる脇役です。

 しかし、およそ残念な気持ちはおきません。今までのイデ隊員があまりにもフル回転だったのだ、と改めて思います。前回、第5話のように、エーカゲンな発言しかしないのにいちばん目立って面白いなんて境地までいくと、完全にまわりを食ってしまう。僕はイデ隊員を〈男のなかの男〉=酸いも甘いも噛み分けていることすら余人に気取らせない本物の人物、社会遊泳術の達人だと捉えていますから、逆に、らしくない気もしてくるのです。
 だから、今回の単なる脇役振りは、ある意味では見事。他のレギュラー・メンバーにいったん出番を譲るとなれば、ここまであっさりと存在感を消せるのです。幅の成せる業です。
 その代り、誰がフィーチャーされるかと言ったら、前回は出番の無かったホシノ少年。そして、ウルトラマンと一心同体であることが強烈な制約となってしまい、主人公なのに今一つキャラを打ち出せないでいたハヤタ隊員です。

 ホシノ少年は、何らかの育成教育プログラムに基づいて科特隊本部に住んでいるのでしょうか。それとも、近隣から通っているのでしょうか。まだ少し謎のある子ですが、とにかく横浜へ友だちと遊びに行ったら、指名手配中の宝石密輸団を見つけ、少年探偵団よろしく追いかけることに。
 悪党たちは南米から輸入されたカカオの実のなかに密輸ダイヤを仕込んでいたのですが、一緒に、トカゲの一種であるゲスラの卵も海を渡ってきました。ホシノ少年たちに親切な船員のおじさんによると、ゲスラは「カカオの実が大好きなんじゃ。それに、カカオの実にたかる害虫まで退治するいいトカゲなんだ」とのこと。ところが、そのゲスラが、廃液で汚れた海水の影響で巨大化してしまいます。
『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 脚本は、ホシノ少年が怪獣ネロンガの正体を調べる第3話に続いて、山田正弘。『ウルトラQ』でも第6話「育てよ!カメ」、第12話「鳥を見た」、第15話「カネゴンの繭」など、子どもが主人公のファンタジー路線の主軸を担った人です。つまりこの第6話には、『ウルトラQ』の揺り戻しという特長があります。しかし、『Q』における山田ワールドは、少年少女と怪獣が直接関係し、異世界と結び合うところに奇想とポエジーがあったので(先に挙げた3本には今見てもハッとさせるものがあります)。『ウルトラマン』の設定ではそうはいかない。ホシノ少年たちがいろいろがんばる冒険譚をまた手掛けてみたものの、科学特捜隊のサポート役、ウルトラマンの応援役以上の存在感は示せない。おそらく山田さん自身も書いていて、ちょっと違うかな……という思いは持たれたのではないかと想像します。

 ともあれ、そんなホシノ少年の頼れるお兄さん、保護者的な存在として、今までになく前に出るハヤタ隊員です。横浜沖に20メートルあるサメの死体が上がり、そのサメに噛み傷があったという奇怪な情報が科特隊に通報されます。廃液の流れ込む海は自然のバランスを崩してしまう、というテーゼ含みのオープニング。ハヤタ隊員は、横浜に遊びに行ったホシノ少年は大丈夫だろうか、と心配します。あとで、宝石密輸団を追っていると知り、フジ隊員が「あら、ホシノ探偵なかなかやるじゃない」と感心すると、「おい、無責任なこと言うなよ。怪我でもしたら危ないじゃないか」とやや厳しくたしなめたりさえする。フジ隊員のほうがホシノ少年の面倒をよく見ていますから、(あのコならそれぐらいなんとかするわよ)と判断しての軽口です。さすが唯一の女性隊員らしい肝の座り具合が垣間見えるのですが、まあ、ここはハヤタ隊員の正論に譲るとして。
 今の段階での仮説ですが、これこそが生来のハヤタ隊員なのではないか? 年の離れた兄のような、下級生のケアを面倒がらない生徒会長のような、ちょっと心配性で口うるさいぐらいの優しさの持ち主。しかし、ウルトラマンと一心同体となる運命が訪れたことで自重が働き、無駄口を叩かず、能吏のように働く、傍目にはあまり面白味のない生き方を選ぶことになったのではないか?

 そう自分で書きながら、ハヤタ隊員の内実も相当なものなのだ、と今、おそらく生まれて初めて気付きました! 自重せねばならないほど、ウルトラマンの力は圧倒的なのです。そしてその圧倒的な力のコントロールが、自分ただひとりに委ねられているハヤタ隊員なのです。う~む。今まで、主人公なのに地味(=イデ隊員のほうが好き)と単純に見做していて、ゴメンナサイ。カトちゃん風に言うと「間違ってました」。
 後々、スポ根ブームのエッセンスが合流してからの特撮/アニメのヒーローにどうしても馴染めず、同級生の子と比べても割と早く離れることになった(なのに「初代ウルトラマン」だけはこうしてしつこく“大人書き”している)、その理由さえ見えてきた気がします。長髪でハンサムで血気盛んなアンチャンがですね、「やってやるぜ!」とか「正義を守るぜ!」とか、荒々しく叫びながら変身したり巨大合体ロボットに乗り込んだりしたら、これはもう、端的にアブナッカシイ。どうしても乱暴なムードが先に立ちます。ああそうか、そういう勇ましい男らしさがダメなのは、子どもの頃からだったんだ……。それはきっと、イデ隊員のようなキャラに親しむ気持ちとセットでしょう。また、ハヤタ隊員だったらウルトラマンに変身しても(いろんな面で)大丈夫、という安心感は、当時は全く意識していないながら、自然と育まれていたのかもしれません。

ウルトラマン Vol.2 [DVD] ハヤタ隊員の良さまで分かって来ると、科特隊というチームの鉄壁っぷり、ますます強固になってきます。イデ隊員チェック、気合を入れねばと思います。
 ストーリーに戻りましょう。冒頭、ホシノ少年を心配する場面でハヤタ隊員と会話しているのはアラシ隊員にフジ隊員。イデ隊員の姿がありません。そういえば第4話でも、イデ隊員は出撃命令が出るタイミングで席を外していた。ここからは、2つの点が窺えます。1つ、シナリオ上、誰かをフィーチャーする時にはイデ隊員はいないほうがよい。それだけ、イデ隊員の“便利さ”は万能に近くなりつつある。そして(あくまでイデ隊員を1人の人格として考えた)もう1つは、少しずつ露わになりつつある、イデ隊員の反集団的、アウトロー的性向。こう書けばちょっと攻撃的な印象になりますが、仲間といる間は明るくサービス満点になる人ほど、1人の時間が大切です。特に理由もなく、フッと場を離れたくなるものです。そういうことです。イデ隊員本人はおくびに出すつもりは一切なくても、僕には勘で分かるのです。

 今回の怪獣ゲスラは、巨大化パターンの怪獣です。大量の電気を食べたネロンガ、海底で原子爆弾の爆発を受けたラゴン、実験で放射線を浴びたミロガンダ(グリーンモンス)、そして工業廃液で汚れた海で異常成長したゲスラと、4回連続してこのパターン。人間の文明科学が生物に悪影響を与え、怪獣を生んでしまう。国産怪獣映画の本家本元『ゴジラ』(54)のテーマは、すでにひとつの伝統となっています。フジ隊員は、ゲスラのような怪獣が生まれてしまうのは「(人間への)罰ね、きっと神さまが怒ったのよ」と、あっさり重要なセリフを口にします。
 好きで巨大化、凶暴化しているわけじゃないぜ、という怪獣側の一分の理が、科学特捜隊の隊員の間でもこうして話題に。だんだんと、シリーズの裏テーマになりつつあります。

 あと、細かいところでは、ムラマツキャップが、ゲスラのもともとの性質等について「国際科学警察のブラジル支部に目下照会中です」と話す場面で、初めてパリ本部と日本支部(=科特隊)以外の支部の存在が示唆されました。
 また、ゲスラが暴れて壊した倉庫のなかで、鉄筋に挟まれたハヤタ隊員が、ウルトラマンに変身するためのベーターカプセルになかなか手が届かない場面。今回のように前半でキャラが押し出されると、てきめんにハラハラ度が増します。しかし、前述したように、ハヤタ隊員の人間くさい面があまり描かれると、ウルトラマンに身体を貸している大事な設定に濁りが生じてしまう。ここも今後の注意すべきポイントです。

 そういうわけで、見事に書くべきポイントの無かった第6話のイデ隊員。ところが最後の最後に、しっかりといいことを言います。

 イデ隊員のおとこ語録:第6話 「良かった、良かった」

 例えば仕事で、大きな案件が無事に契約締結、または出荷や納品までこぎつけたとして。目に見える貢献を果たせた人ならば、打ち上げの席で呑むビールもさぞかし美味しいものですが、大きな役割を果たせなかった人、職場での存在感を示せなかった人は、内心、複雑な思いを持つものです。向上心を強く持っている場合ならなおさらで、だからといって活躍した同僚を羨む気持ちも、自己嫌悪の種になる。誰だって少なからず覚えのあるところでしょう。
 そんな目線でラストのイデ隊員を見ると、しみじみと、学ぶべきものがあります。ホシノ少年たちが無事ならぱ、ウルトラマンが怪獣を海底に沈めることができれば(今回はスペシウム光線は使わない)、自分の出番はほとんど無かろうと、「良かった、良かった」と笑顔で、しかも画面の一番隅っこで言える。この、無私に徹することのできる精神の強さよ。あやかりたい。

(つづく)

( 2010.9.17 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

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2010/09/17/12:54 | トラックバック (0)
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