坂本 欣弘 (監督)
映画『もみの家』について【2/3】
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国大ヒット上映中!
公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)
――撮影でのこだわりはありますか?
坂本 彩花の感情が変化していくタイミングは注意しながら作っていきました。どのタイミングで少しずつ心を開いていくか、例えばトマトを食べるシーンとか、些細なことですけど、どういう仕草で、どういう表情で芝居するかに気をつけながら作っていきました。
――農作業のシーンは寮生が総出演でとても楽しそうに見えますが、こういうところは自由に演技をしてもらっているんですか?
坂本 田んぼのシーンは芝居をああしてこうしてというより、カメラ含めてスタッフがあまり動き回れなくて、そっちが大変でした。機材のセッティングに手間取っている間にキャストがああいうなじんだ動きになっていったというか。衣装がどれだけ汚れるかもわからないからテストのしようがなくて、若干アドリブが強かったなと思います。田んぼのシーンは1カット1カット大変だった気がしますね。彩花が田んぼに落ちるシーンがあって、そのあとに佐々木すみ江さんが演じるハナエさんから「大丈夫?」と声をかけられるシーンが続くんですけど、寒くて長くは芝居ができないというのもあって、現場では色々大変でした。
――農作業やハナエさんをはじめとした人々とのふれあいを通して、彩花は命の神秘や大切さを知っていきますね。
坂本 命の大切さもそうですけど、時間の大切さというのが伝わればいいなと思っています。永久というものはないから一瞬一瞬を大事に、というのがこの映画の中で僕が伝えたいことだったりするんです。引きこもりの原因は家族関係にあると言われるんですが、15歳、16歳という年代だと、些細なことで少しずつずれていくということが多くて、自分もそうでしたけど、ちょっと親のことを嫌いになる時期とかがあって、それが一生続くのは悲しいなと思うんです。そうやって噛み合わなくなっていた家族でも、どちらかが折れたらすごくいい家族になるということも自分でも経験していたので、そういうのが伝わる映画になればいいなと思っています。
――彩花は学校でいじめられているわけでもないし、親も彩花のことを気にかけてくれているし、はっきりとした引きこもりの原因は見えてこないんですよね。それがとてもリアルだなと思いました。
坂本 もみの家の寮生たちの人物像は、はぐれ雲で会った子たちをイメージしています。僕らの前では元気に「こんにちは」「おはようございます」と言って、「この子たち全然大丈夫だろう?」みたいな子ばかりで、何が原因でここに来ているのかはわからないんですけど、彼らの中ではすごく些細なことが壁になってこういうことになっているんだな、というのが取材を重ねてあらためて感じたことでした。昔だったらシンナーをやったり赤い髪をしたヤンキーだったりってあるけど、今はごく普通の子が些細なことで、という時代なのかもしれないなと。
――もみの家の代表とその妻を演じた緒形直人さんと田中美里さんがとても頼れる雰囲気を醸し出していました。どんなやり取りをしましたか?
坂本 緒形さんのことは90年代からテレビや映画で見てきていて、断られることを覚悟しながらオファーしたんですが、『真白の恋』を観て気に入ってくれて「この監督なら大丈夫だ」と言って参加してくれたという話を聞きました。絶大な信頼を置いてお願いしました。時には「このシーンにこのセリフはいるのか?」というディスカッションも結構やったと思います。「もし言うんだったらこの時間軸の中では言えないから、シーンをもう一つ作れないか?」という相談を受けたり、こちらからしたりしていましたね。田中美里さんとはそうしたやり取りはあまりなかったんですが、全然違和感なくやってもらいました。
出演:南 沙良,緒形直人,田中美里,中村 蒼,渡辺真起子,二階堂 智,菅原大吉,佐々木すみ江
監督:坂本欣弘 脚本:北川亜矢子 音楽:未知瑠 主題歌:羊毛とおはな 「明日は、」(LD&K)
製作:映画「もみの家」製作委員会 制作プロダクション:コトリ 配給:ビターズ・エンド
© 「もみの家」製作委員会
公式サイト 公式twitter 公式Facebook