チャン・ゴンジェ監督 映画『ひと夏のファンタジア』について【2/5】
第37回PFF 招待作品部門「映画内映画」サプライズ上映作品
今冬公開予定
公式サイト 公式twitter トレイラー (取材:深谷直子)
――第1章と第2章はモノクロとカラーで明確に描き分けられていますが、第1章は実際の住人の方々にインタビューをするというリアルなことを描いているので、こちらにモノクロというリアルではない表現を使うのはちょっと変わったことのようにも思えますよね。どういう意図でモノクロにしたのですか?
チャン まず五條という場所が古い町で時間が止まったようなところで、端的に言うとやや寂れた地方都市なんですが、それにモノクロが似合うのじゃないかと思ったんです。あとは自分が五條を訪れたときに感じた感情を色で表すとモノクロだったのでそうしました。
――モノクロでもとてもくっきりとした鮮明なモノクロで、五條の町の美しさばかりではなく、夏の暑さも焼き付けられているようでした。
チャン 撮影をしてくださった藤井昌之さんが、時間がない中でも素晴らしい作業をしてくださったのでそうできたのだと思います。ただ、暑さに関してはあれでも実際の暑さが出ていない気がして、実は心配だなあと思ったぐらいだったんです(笑)。
――そんなに暑かったんですか? 韓国でも味わったことがないぐらいに?
チャン その年は韓国も暑かったんですが、奈良が特別に暑かった気がしますね……(苦笑)。
――それは大変でしたね(笑)。そこから一転してカラーで撮られた第2章は、ドキドキするようなボーイ・ミーツ・ガールの物語でした。これはこれでドキュメンタリー・タッチというか、言い方が悪いのですがリアリティ番組のようにどうなっていくのか分からない展開の仕方で、とても臨場感がありました。第1章にも出ていた岩瀬亮さんとキム・セビョクさんもさらに生々しいお芝居をされていましたが、どのように演出したのですか?
チャン 撮影は映画の順序どおりに第1章を撮ってから第2章を撮ったので、第2章を撮るときには、岩瀬さんとセビョクさんはだいぶ仲よくなられていたんです。ただ、第2章は見知らぬ男女が出会って知り合っていくという設定でしたので、俳優お二人のほうでそういう関係を出せるように距離感を維持しようという努力をしていたことをあとから聞きました。そのへんは俳優たちがきちんと役割を果たしてくれた部分で、ありがたいなあと思っています。僕のほうでは、撮りながら何度も「実際に自分がお話のような状況だったらどうしますか? どんな感情になりますか?」という質問をしていきました。場面ごとに感情を確認して、俳優たちもその感情を納得してリアルに表現できるように、「それが自分の感情ですか?」と確かめながら撮った部分が本当に大きかったです。
――では本当にそこはドキュメンタリーというか、感情自体はその場で俳優さんに湧いてきたものを大事にしたということですよね。
チャン そうです。俳優たちに感情を確認するというのは第1章を撮るときにもやっていたことだったのですが、日本人のスタッフの方たちにとっては、普通は監督が「このシーンはこういう感情で」と決めたものに俳優が合わせるのであって、現場で監督が俳優に確かめたりすることはあまりない進め方なので、その部分で戸惑われていたようです。そこを納得してもらうのには結構時間もかかったし、難しかったことですね。