チャン・ゴンジェ監督 映画『ひと夏のファンタジア』について【3/5】
第37回PFF 招待作品部門「映画内映画」サプライズ上映作品
今冬公開予定
公式サイト 公式twitter トレイラー (取材:深谷直子)
――二人の会話の中に出てくる弘法大師の井戸と鯉にまつわる伝説がエロティックで面白かったです。物語の状況的にも、韓国からの旅行者であるヘジョンに好意を持ちつつ紳士的にふるまっていたユウスケが、ちょっと色っぽい関係に持っていきたいな……という下心を覗かせるような印象的なシーンでした。また、伝説自体からは、『ブンミおじさんの森』(11)の王女とナマズのエピソードを私は思い浮かべて、人間と動物の共存というちょっと次元の違うファンタジーもそこに感じたのですが、監督としてはどういう意図で弘法大師の伝説を入れたのですか?
チャン ああ、『ブンミおじさんの森』は僕も観ているんですが、その場面のことは全然忘れていて今思い出しました。特にそれを意識したわけではないんですけど、井戸のシーンに関しては韓国にも「木こりと天女」という似たような伝説があるので、そういうのが頭にあったとは思います。「木こりと天女」の伝説は、普段平凡に暮らしている木こりの前に突然天女が現れて、心を乱して天に帰っていく、という話なんです。ユウスケも、地元で普通に暮らしているところにある日外国からへジョンがやってきて、心を奪われるんだけど彼女は帰っていく。そういう部分で繋がっていると思いますね。で、おっしゃるように、ちょっと冗談を言いながら自分の感情を表すのを入れたかったのでああいうシーンを作りました。そういう面白おかしくしながらさりげなく自分の感情を伝えるというのは自分の好きなスタイルでもあるので、岩瀬さんにもそういう注文をして演じてもらいました。
――弘法大師にこんなエロティックな伝説があるの?っていうのにも驚きました。多分そこはみんないちばんギョッとするところだと思います(笑)。ユウスケの作り話のようでもありますが……?
チャン 実はあの伝説は僕がその場で作ったお話なんです(笑)。僕はこの話を考えて映画をすごく面白くできるなって思ったんですけど、日本人の女性のスタッフからは「ちょっと卑猥すぎないか?」って言われて、すごく評判が悪かったというか、いい顔をされなかった部分ではあります(苦笑)。
――あははは、日本人は真面目ですからね(笑)。でも似たような伝説がある韓国では、これを入れたことで親しみやすくなったところもあるのでしょうね。
チャン そうですね、弘法大師が井戸を掘ったというところまでは本当の伝説にあるんですが、そのあとの僕が勝手に作った部分は韓国ですごくウケていました(笑)。
――キム・セビョクさん、岩瀬亮さんという主演のお二人がとても魅力的でした。長回しの中、自然に振る舞うようなお芝居を続けていて演技力も素晴らしいなと思いましたが、俳優を選ばれるのにはやはり演技力を重視したのでしょうか?
チャン 俳優さんがいい演技をしてくれたというのは僕も思うところであって、演技の上手さを感じていただけたのはありがたいと思います。ただ、僕はどんな俳優もあのぐらいはできるのではないかなと思います。監督の意図が明確であれば、俳優もついてきてくれるものだと思います。役なのか俳優その人なのか分からないような演技をするというのは、監督としてそうでないと僕は撮れないと思っています。そのように表現してくれて幸いでした。