チャン・ゴンジェ (監督)
映画『ひと夏のファンタジア』について【1/5】
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第37回PFF 招待作品部門「映画内映画」サプライズ上映作品/今冬公開予定
釜山国際映画祭をはじめとする数々の映画祭での受賞歴を持ち、「第二のホン・サンス」との呼び声も高い韓国の新鋭、チャン・ゴンジェ監督。その長編第3作となる『ひと夏のファンタジア』は、河瀬直美監督プロデュースのもと、古い町並みが残る奈良県五條市で撮られた映画をめぐるファンタジー。同じ風景を同じ俳優が歩く2部構成で、寂れゆく町で美しい思い出を胸に秘め営みを続ける人たちと、旅先で淡い恋に落ちる若い男女の物語が、ときに交錯しながら静かに綴られていく。今年6月に公開された韓国では、自主製作作品ながら公開1カ月で3万人を超える動員を記録し、この夏の五條市は映画に旅情を誘われた若い女性の観光ラッシュに沸いたという。そんな本作が、これまで映画祭でしか上映されていなかったチャン監督の作品としては初めて日本で劇場公開されることになった。ぜひエモーショナルで瑞々しく、観たらきっと人恋しくなるこの作品の世界を体験してほしい。公開に先駆けて第37回PFFでの上映のために来日したチャン・ゴンジェ監督にお話を伺った。 (取材:深谷直子)
Story ”夢の映画”をめぐる、ささやかな恋と無限の映画の物語。
第1章 韓国から奈良県五條市にシナリオ・ハンティングにやってきた映画監督のテフン。彼は日本語を話す助手のミジョンと共に、観光課の職員タケダの案内で町を訪ね歩く。古い喫茶店、廃校、一人暮らしの老人の家……インタビューを通し、寂れゆく町にも人々の営みを感じたテフンは、旅の最後の夜に不思議な夢を見る。目覚めたとき、窓の外には花火があがっていた…。
第2章 韓国から奈良にやってきた若い女性ヘジョン。彼女は五條市の観光案内所で知り合った柿農家の青年ユウスケと共に、古い町を歩き始める。ユウスケは徐々に彼女に惹かれるようになり…。
――監督はこれまで個人的な体験を元にして作品を撮られてきましたが、長編第3作となる『ひと夏のファンタジア』は、なら国際映画祭の映画製作プロジェクト「NARAtive」で撮った作品で、奈良県内で撮るという制限もあり、監督にとって新しい挑戦であったと言えると思います。どんなお気持ちで取り組まれましたか?
チャン 海外で映画作りをするのは大変だったんですが、取り組むうえでは前向きな気持ちが強かったですね。『つむじ風』(09)と『眠れぬ夜』(12)がいろいろな映画祭に招待され、そこで多くの海外の監督などと会ってお話する中で、海外の映画会社や監督、スタッフの方と合作で低予算の映画を撮るというお話もいろいろ聞いて、いつか自分も海外の方たちと共同製作をしたいと思うようになっていました。そんなときにタイミングよく河瀬直美監督から今回のお話をいただいたんです。お話を聞いたときはもちろん「難しいだろうな」という予感もありましたが、自分の監督としての世界も広げられるだろうし、願っていた海外との共同製作ができるということで喜んでお受けしました。
――そうしてできた作品は「映画内映画」というこれまでにないスタイルの作品になりました。でも、これも映画監督としてのご自身の体験を映画にしたということで、今までのチャン監督のやり方を通したということになりますね。
チャン 海外で映画を撮ることになって、何を撮ったらよいのかアイデアがまったく思い浮かばなかったので、リサーチのために五條市に行き、そのときのインタビューを映画に盛り込みました。この作品を作りながら、自分の経験や会った人のことなど個人的な出来事を元にして普遍的なストーリーに仕立てるのが自分のやり方なんだろうな、ということを再認識しました。
――この作品は2章に分かれていて、まず第1章のほうは、シナリオ・ハンティングのため五條にやってきた映画監督が、町のお年寄りなどにインタビューをするというドキュメンタリー・タッチで進められていきます。ここに監督の体験が投影されているわけですが、どこまでが実際にあったことで、どこがお話を作った部分なのでしょうか?
チャン 第1章のインタビューのシーンに出てきた方たちは、映画を撮る前のリサーチのときにお話を聞いて、映画を撮るときにもう一度同じような質問をして答えてもらった方たちなんです。(岩瀬亮さん演じる)タケダユウスケと、(康すおんさん演じる)ケンジさんは映画のキャラクターとして作り上げた人物ですが、モデルとなった人物はいて、それは町の案内をしてくれた五條市役所の方などでした。どちらかというと、リサーチのために最初から計画してお話を聞いた人や場所よりも、案内してくれた人や、休憩で入った喫茶店でちょっと話を聞いた方などからインスピレーションを受けた部分があり、本当に何気なくご飯を食べながら話した話を活かしていますね。実は案内をしてくださった五條市の職員の方が、食事をしながら過去の恋愛話をしてくれて、僕はすごくそのお話を映画にしたかったんです。それで映画祭のスタッフに「このお話で映画を作ったらどうかな?」と言ってみたんですが、「個人的なラブ・ストーリーを映画にするのはマズイんじゃないか?」ということになってできなかったんです(苦笑)。
――どんなお話だったのか、すごく気になりますね(笑)。でもそのお話を聞いたから第2章がラブ・ストーリーになったのでしょうか?
チャン はっきりとそれがきっかけではないかもしれませんが、切ない恋愛を描こうと思ったのはその職員の方のお話の影響があったかもしれません。