山下 泰司 (Blu-ray/DVD制作ディレクター)
映画『ノスタルジア』ブルーレイ版について【1/5】
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ロシアが産んだ世界的巨匠アンドレイ・タルコフスキーのブルーレイがついに3月6日、発売された。今回、新たなニューマスターを使用することで、これまでにないクオリティの『ノスタルジア』BD化を実現したシネフィル・イマジカ・レーベルの制作担当の山下泰司氏に話を聞いた。(インタビュー取材:飯塚克味 取材企画:わたなべりんたろう)
――『ノスタルジア』ブルーレイ化の経緯からお願い致します。
以前からタルコフスキー作品はやりたいと思っていました。自分自身も大好きだし、ファンも多いですしね。『惑星ソラリス』のように既に他社からリリースされたものもありましたが、『ノスタルジア』に関しては、僕もかつて働いていたパイオニアLDC(その後のジェネオン・エンタテインメント~現・NBCユニバーサル)がDVDを10年くらい出し続けていて、ちょっと前からそろそろ権利が切れるだろうな~って思ってたんですね。でもあまり騒ぐと争奪戦になっちゃうから、水面下で権利元と交渉していたんです。やっぱり他社からもオファーがあったらしいんですが、何とか確保できたと。
この映画、アメリカではすでにブルーレイが発売になっていて、それと同じHDマスターが来ると思ってました。ポジから起こしたとおぼしきもので、ゴミとか傷をまったく取ってなかったんですが、基本的な映像としてはそう悪いものでもなかったので、日本でパラ消し(デジタル技術でゴミや傷を消す作業をこう呼んでます)を丁寧にやれば、まずまずの商品にはできるかな、と思ってました。ところが、去年の11月の終わりくらいだったか、イタリアからやってきたマスターはそれとは別のもので、すごくキレイだったんです。『これはどうやって作ったものですか?』と権利元に聞くと、オリジナル・ネガから撮影監督のジュゼッペ・ランチが監修したものだといいます。
『これはいいぞ』と思って見始めたんですが、あと5分で終わり、というところで急に映像がグレイになって、そこから何も入ってないんです。『なんじゃこりゃー!』と権利元に文句を言ったら、『分かった。だけど、その前にそのテープを返送しろ』って言う。で、送り返したら2週間くらいして新しいのが来ましたよ。まったく同じテープに上書きしてね(笑)。そもそも、最初のテープ、HD CAMという業務用のものですが、ケースになんのラベルも貼ってなければ、通常なら絶対に入っているはずの記録表、それにはどこのスタジオで作業してエンジニアは誰でどういうフォーマットで記録して、何分何秒からはカラーバー、何分何秒からは本編とか、そういうことが書いてあるものが入ってなかった。で、送り直して来たヤツもまったく同じ状態で、そこらへんに何気なく置いたら生テープと区別がつかなくなっちゃう(笑)。
ただ、今度はちゃんと本編が最後まで入ってました。『やれやれ、これでブルーレイ化の作業に入れるぞ』と思ったんですが、何か残像のようなものが気になる。それでIMAGICAのエンジニアの人にもよく見て貰ったら、『コピーの際に何かおかしな変換が施してあって、この元のテープはもっとちゃんとした状態なんじゃないか』という見立てだったので、もう一回イタリアに『頼むから修復が完成した時のマスターとまったく同じ状態にコピーしたものをくれないか』と。その時点でもう年末なんですよ。3月6日発売というのは決まってたから、けっこう焦ってきてました。
それで年が明けて、成人の日のあたりだったかな、やっと、ちゃんとしたものが来ました。今度はラベルも貼ってあったし、記録表も入っていた(笑)。1秒24コマのフィルムと同じシークエンスで記録された24Pのマスターです。そこからはもう、猛ダッシュの作業に突入と。
もちろんイタリアの修復の現場のスタッフたちは一生懸命やっているわけですよ。だけど、こうやって、間に何も分かってない人が介在すると、今回のようなことが起こる。別にこのタイトルに限ったことじゃありません。子どもの頃は大人の世界ってものはきちんとした人たちがきちんと働いて、何もかもスムーズに働いてるんだろう、なんて思ってましたが、全然そんなことはない。それはまあ、ここ日本でだって働いてる大人のみなさんは日々感じてることだと思うけど、まあ、しかし、参りましたね~(笑)。
このHDマスターには35mmの音ネガから起こした音声がHDテープに入っていました。実は別トラックにイタリアで『レストア』した音声も入ってたんですが、それはサーッというヒスノイズとかブーンという低音のノイズを根こそぎ取り除くためにけっこう思い切ったイコライジングが施されたもので、タルコフスキー映画にとっては重要な『空気感』がまったく感じられないし、そもそも台詞や効果音の音質まで変わってしまってる。これはちょっと使えないなあ、ということで、弊社の近年のブルーレイの音声は全てお願いしている、坂本龍一さんとの仕事などでも知られる世界的なオーディオ・エンジニアのオノセイゲンさんに、音ネガのママの音からマスタリングしてもらい、ベストな状態に持っていっています。プリントの横に入ってる光学のサウンドトラックから起こすよりはかなりクオリティは良かったはずです。ただ、音ネガの音ってそのままじゃ使えないんですよ。上映用のプリントにコピーした時に高域が減衰することが分かってるので、音ネガにはあらかじめ高域を強調した状態で記録されてるんです。だからそれをそのままデジタルに変換した状態だと、やけに高域がキツイ。台詞のサ行の音が激しく耳に付くような音です。もちろんセイゲンさんは聞けばすぐに分かるから、まずそこを調整して、そこからいつも以上に入念にマスタリング作業をしてもらいました。これまでのタイトルは完全にデジタル上だけの作業だったんですが、今回はいったんDSDというフォーマットに変換して、そこからアナログ機材なども駆使して、最後にもう一回デジタルに戻すというような凝りようでした。『だってタルコフスキーですから』って。やっぱり、お好きなんですよね。
発売元:IMAGICA TV 販売:㈱KADOKAWA 角川書店 ブルーレイ 4800円(税抜) DVD 3800円(税抜)
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- 監督:アンドレイ・タルコフスキー
- 出演:オレーグ・ヤンコフスキー, エルランド・ヨセフソン, ドミツィアナ・ジョルダーノ
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- 監督:アンドレイ・タルコフスキー
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