塚本晋也監督 & 森優作
映画『野火』
外国特派員協会記者会見レポート
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2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
7月14日、東京・有楽町の日本外国特派員協会にて、塚本晋也監督の新作『野火』の試写会と記者会見が行われた。第71回ベネチア国際映画祭でのワールド・プレミアに続き、日本でも国境を越えて多くの観客に観てもらえるよう、一部の劇場では英語字幕版でも上映される本作を、日本の文化にも精通する外国特派員がどのように評価するのかをうかがい知る大変興味深い機会となった。塚本監督と、出演者の森優作が登壇した記者会見の模様をお届けする。
(取材:深谷直子)
この日の来場者数は100人以上。私が記者会見の受付を済ませ、会場の外で待っている間に上映はクライマックスに差し掛かっており、場内から映画の音が漏れ聞こえていたが、やがて静寂ののちに拍手が響いてきた。興奮の中で登壇者のお二人を迎えて始まった記者会見では、塚本監督の作品を観続けている方などから活発な質問が上がった。また記者の中にも日本語と英語両方で質問する方がいたが、通訳を志していたという森も流暢な英語で直接答えて頼もしい姿を見せた。
――この作品の映像感覚についてお尋ねします。『野火』は市川崑監督の作品(59年製作)が先にあり、白黒とカラーとの違いもありますが、あちらは35mmで大きなスタジオが作ったものでした。一方今は35mmの時代ではありませんが、戦争映画というと『永遠の0』(13)のようなSFXを使った素晴らしい躍動感がある作品もあります。この作品はその両方とも違い、手持ちのビデオ撮影で、インディペンデントで作っています。何も知らない人からしたら低予算の作品で十分なことはできなかったと思うかもしれませんが、僕はそうではなくこれがいいと思いました。この感覚は独特で、監督の8mm時代を彷彿させるようなところもありましたので、今回の映像感覚についてお話していただけたらと思います。
塚本晋也監督塚本 この映画は何十年も前から撮りたいと思っていた映画で、最初はとても大きい規模で撮りたいなと思っていたんです。小さなインディペンデントで撮るというのは、僕が「都市と人間」みたいなテーマを扱っていたときに、16mmで撮ったものを35mmにブロー・アップするようなことが多かったんですけど、今度の映画でどうしても大事だったのはフィリピンの大自然の美しさと、泥んこになっていく愚かしい人間のコントラストを描きたいということであり、大自然の美しさを撮るには16mmでは絶対に無理、35mmじゃなきゃやらない、と思っていました。結局この映画に対してはお金が集まらない状況で今に至ってしまったんですけど、一方でデジタルビデオが発達して、これでしたらフィリピンの原野の美しさが16mmとは違ってクッキリとした形で映せますので、自分にとっては最初に思うような形ではできなかったけど、逆にデジタルがあるおかげでできたということが言えます。また、この作品は主人公の田村一等兵の目線とお客さんの目線が一体化するような小さな視点の映画なんですけど、これはもしお金があってもこうしようと最初から思っていたことです。敵の兵隊の姿は見えず、それどころか自分たちの上官さえも見えないようにしようというのは最初から決めていたことだったのですが、そのシンプルにしようという狙いが、お金がないから一層明確化することになったというのはあるかもしれません。昔からどうしてもやりたかった映像を、お金がないからあきらめるのではなく全部やったし、逆にやりたいエッセンスだけでできた塊みたいな映画になりました。
――(司会者) 私のほうから、塚本監督にキャスティングについてお伺いしたいと思います。また、今日は、市川監督の作品ではミッキー・カーチスさんが演じていた役を演じた若手俳優の森優作さんにもお越しいただいているので、森さんにも撮影での体験をお聞かせいただきたいと思います。
森 自分は演技の経験がほとんどないので、塚本監督に言われたことをしっかりやるようにということに集中してやっていました。演技経験がないから失うものは何もないので、ただ精一杯やりました。
塚本 キャスティングは、この映画は兵隊さんがたくさん出るんですけど、基本的にはスタッフとキャストの両方ができる人ということでツイッターなどでボランティアを募集しました。スタッフとキャスト両方のお弁当代はないので両方のことをやってもらおうと思い、やせることができてひげを伸ばすことができる、キャストも兼ねられるスタッフを募集したんです。結構前から募集して、1ヵ月に2回ぐらい写真を送ってもらって、「もっとひげを伸ばして、もっとやせて。ああ、だいぶいいね」というふうに指導して現場に来てもらった人がほとんどです。そんな中で、リリー・フランキーさんと中村達也さんという映画の中でキーとなる役の二人は僕が頼んで出てもらいました。リリーさんは15年ぐらい前に石井輝男監督の『盲獣vs一寸法師』(01)で共演して、そのときにとてもやわらかくて居心地のいい方だったので、これは断られないだろうと思ってお願いしました(笑)。リリーさんも今は大活躍ですけど、当時は今ほどは活躍されていなかったので、ちょうどいいタイミングで出ていただくことができました。脚本に文字で書かれた「安田」という人物を本当の人間にしてくださる俳優さんとしてベストな方でした。中村達也さんはドラマーですが、17、8年前に僕の『BULLET BALLET/バレット・バレエ』(98)で俳優デビューをした方で、素晴らしい存在感がありますので、今度の「伍長」の役がこういうキャラクターになったところで久々にお願いしました。森くんは今話した募集に応募してきてくれたのですが、多くの方の中から「松永」役に3人まで残ったあとに選んだ理由は、普段は押せば倒れてしまいそうな感じから(笑)、今日観ていただいたように豹変していく様の、振り幅の非常に大きな演技ができるということで選びました。あと冒頭に出てくる山本浩司さんと、最後に妻の役で出てくる中村優子さんも僕が頼んだプロの俳優さんです。
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
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