金子 雅和 (監督) & 長谷川初範(俳優)
映画『リング・ワンダリング』について【3/4】
2022年2月19日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
公式サイト 公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子 撮影協力:宮益御嶽神社)
――川内家の人たちで気になったことがあって。名前がみんな色名なんですよね。
金子 ミドリ、青一、藍子、黄太、シロ、と、全員色の名前ですね。長谷川さんが演じた銀三もそうです。
――ああ、そこまで入っているんですね。
金子 はい。写真は昔、銀塩写真と呼ばれていて、実は銀にはそれもかけていますね。
――なるほど。やっぱり銀三という役にこの作品のすべてが凝縮されている感じなんですね。色というものにもこだわりをお持ちなんですか?
金子 そうですね、この映画では写真や絵など、ビジュアルが非常に重要な要素となっているので、人物に色の名前をつけたかったというのがあります。お父さんの名前が青一でお母さんが藍子で青系なんですね。で、黄太の黄色というのは青の反対色になる。要するに、黄太はまだ生きているので生者は黄色で死者は青で、緑色は青と黄色の中間色だから、ミドリは生者と死者の間をつなぐ者として草介の前に現れた。そういう解釈をあるライターさんに言われて、僕は無意識だったのでハッとしました。
――画面の端々まで神経が行き届いている感じですね。
金子 求めている画があると同時に、計算を超えたものが入ってくることも面白いなと思っています。だから僕は自然の中で撮るのが好きなんです。この映画だと長谷川さんにご出演いただいたシーンや、草介が神社にたたずむシーンのような、自然に囲まれて撮影しているところに関しては、風がいつ吹いてくるかだとか予測ができないじゃないですか。計算を超えたものが必ずある。室内のシーンも、何かしら外からの自然光が入ってきて、そのゆらめきが、人間が発する言葉以上に語ることがあるなと。そういったことはいつも思っています。
――撮影場所が今回も本当に素晴らしくて、長谷川さんの出演シーンの雪山も見ものでしたし、最初のススキの草原も幻想的でよかったですね。あれはどこで撮っているんですか?
金子 あれは山中湖です。ほかにススキスポットの候補が3つぐらいある中で、実際に撮影した場所がすべての面でいちばんよかった。
――自然の撮影で大変だったことはありますか?
金子 いつもそこがラッキーなところなんですが、僕は天気運がよくて、大体狙いの天気が来ます。もちろんスケジュールを組むチーフ助監督の采配が大きいと思うんですが、ススキの草原の撮影日は奇跡的に朝から晩まで一度も雲が出なくて。『アルビノの木』のときは何年分も天気の記録を調べて、確率的にこの日は雨が降りにくいというのでスケジュールを組んだりしていました。今回は、雨が降っても撮影の直前に止んで、街の中のアスファルトが濡れることで質感が出て美しくなったりして、そういう点でもすごく恵まれたところがありました。
――タイトルの『リング・ワンダリング』というのは抽象的な言葉で、今までの『アルビノの木』などの抒情性あるタイトルとはちょっと違い、ここにもポップさが感じられるというか。どんな想いが込められているのでしょうか?
金子 タイトルは妻が思い付いたものです。もともとこの映画は短編として企画がスタートしていて、今の作品とどこが違っていたかというと、短編企画のときは長谷川さんに出ていただいた劇中漫画のシーンがなかったんです。草介は漫画家の設定で、過去に行ってミドリと出会うのも完成形と一緒なんですが、漫画の世界までは交錯してこなくて。そのときのタイトルは『花火の夜』でした。花火大会の一夜の物語なので。
長谷川 なるほどね。
金子 そこから長編化するときに、不思議な物語なのでタイトルの語感から「なんだろう?」と引っかかるものがほしいなと思ったし、スタート地点と同じところに戻ってくるという円環する感じと、主人公が漫画が描けないことや人生に対して迷っていて、実際にも異世界に迷い込んでしまうので「ワンダリング(wandering)」と。あとはファンタジー要素もあるので、字が違いますけど”wo~”のほうの”wonder”ともダブル・ミーニングになるなって。
――時空を越える物語がファンタジックで面白いんですが、写真や絵が時代を超えて実際に残っているというところにも何か象徴的なものを感じます。人が生きていたこと、何かが存在していたということは記憶としてどこかに刻まれて消えることがないものだけれど、より確かな証拠をこうした「作品」は残すことができる。監督自身も映画という作品を作っているわけで、そういう想いもお持ちなのかなと。
金子 なるほど。写真というものは被写体を永遠化するので死んでしまったものや失われたものもそこには残りますね。絵画も映画もそうですね。
――映画の中に2020年のコロナ前の東京がくっきりと残っているのも、貴重な記録だなあと。
金子 映画だとか映像には記録の意味合いもありますよね。街はどんどん変わっていきますし。一方で、過去の短編に自然の中の巨岩が出てくるところがあって、それを観た人が「百年後に見ても同じ風景であろうものが映っていることが面白い」と言ってくれて、その両方がありますよね。変わっていくものを記録するのと同時に、百年経っても変わらないものを記録するという。この映画自体は、僕らが普段見たり感じたり考えたりしている世界よりももっと大きな世界だとか時間の捉え方があると、そういうものを描きたいなと思って作りました。
――まさに映画の最後にそういう体験をしました。ここまで見てきたものが裏返ってしまうような……。秀逸な脚本で、どうやって書いたんだろう?とすごく思います。
金子 さっきおっしゃってくださったように、この映画にはいろんな要素が入っていて、漫画もあるし写真もあるし、時代もいくつもあって、戦争やオリンピックがあって。『アルビノの木』が終わってから題材としていろいろなことを考えていて、するといつもそうなんですが、それらがある日突然スッと1本筋が通るというか、自分の中で最初から最後までパズルがつながる瞬間があって、そうなると一気に話が書けるんです。まあそこに行き着くまでが長いんですけど、大体いつもそんな感じです。
出演:笠松将,阿部純子,片岡礼子,長谷川初範,田中要次,品川徹,安田顕,伊藤駿太,横山美智代,古屋隆太,増田修一朗,細井学,友秋,桜まゆみ,石本政晶,ボブ鈴木,比佐仁,山下徳久,大宮将司,平沼誠士,伊藤ひろし,納葉,川綱治加来
監督:金子雅和 脚本:金子雅和,吉村元希 劇中漫画:森泉岳土 音楽:富山優子 撮影:古屋幸一
照明:吉川慎太郎 美術:部谷京子 録音:岩間翼 音響:黄永昌 VFX:高橋昂也
スタイリスト:チバヤスヒロ メイク:知野香那子 イメージボード:金子美由紀 助監督:土屋圭
制作主任:名倉愛 アソシエイトプロデューサー:松井晶子 ラインプロデューサー:武石宏登
キャスティング:大松高 エグゼクティヴ・プロデューサー:松本光司
プロデューサー:塩月隆史,鴻池和彦 製作協力:中山豊,中田直美
製作:リング・ワンダリング製作委員会(Monkey Syndicate、ラフター、プロジェクト ドーン、cinepos、kinone)
©2021 リング・ワンダリング製作委員会 配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
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2022年2月19日(土)より
渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
- 監督:金子雅和
- 出演:松岡龍平, 東加奈子, 福地祐介, 増田修一朗, 尾崎愛
- 発売日:2019/1/5
- おすすめ度:
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