新作情報

まなざしの旅
土本典昭と大津幸四郎

http://a-shibuya.jp/archives/424

2011年6月3日(金)~16日(木)まで、
オーディトリウム渋谷にてモーニング&レイトショー

INTRODUCTION

「痛みと悲しみ」の映像が溢れるなかで

『まなざしの旅 土本典昭と大津幸四郎』土本典昭2011年3月11日に起きた東日本大震災とその後の状況を見守りながら、あらためて映画『まなざしの旅 土本典昭と大津幸四郎』が伝える「他者を撮ることに対する自覚」の重要さを考えていた。テレビから、ネットから、あらゆるメディアから、大量の「痛みと悲しみ」の映像が溢れ出してくる。「慰め」の気持ちを添えて、「励まし」の言葉も忘れずに。この「痛みと悲しみ」と「慰めと励まし」というセットになった物語化と定番メニューはいまにはじまったことではない。「ひとの噂」に代表される人間のDNAに埋め込まれた性癖なのかもしれない。いまなぜ「痛みと悲しみ」の映像が氾濫するのかと言えば、痛々しい姿を、悲しみの表情による臨場感をみんなが欲しているから(この点では震災の被災者の映像も、視聴率の高い「世界びっくり仰天ニュース」系の映像と変わらない)。見たいという理由にはさまざまな理由があるのに違いなくても、ともかく見たい、のが人間だ。人間はそういう(ある意味ひどい)性癖をもつ生きものだということをもっと自覚しなければならない。

「人間を撮る」ということ

土本と大津は自分の内にも在る「ひどい性癖」を自覚しながら、被写体となる他者と向き合いつづけた。「痛みと悲しみ」の源にある人間の闇の深さをみつめ、確かめようとした。この映画のなかで、大津は絞り出すように呟く。「土本は常に真実を撮ると言っていたけど……。(真実を撮ろうとする)おれは“鬼”かもしれないとも言っていた……」。映画づくりの同伴者であった大津もまた一匹の“鬼”になる。震災後の「痛みと悲しみ」を伝える人びとに“鬼”はいない。“仏”ばかりだから、被災地の真実はみえてこない。自ら“鬼”となり、水俣病周辺に跋扈した権力の“鬼”と対峙し、一方で被害者である患者の内に出た我執の“鬼”からも眼をそらさなかった土本が生きていたら……。人間を撮る、真実を撮るためには“鬼”になる覚悟が必要だ。

ドキュメンタリー=まなざしの旅

『まなざしの旅 土本典昭と大津幸四郎』2この映画を、映画美学校2008年度ドキュメンタリー・コース高等科の受講生と一緒に製作した。次代のドキュメンタリー作家を志す人びとである。〈水俣シリーズ〉で日本ドキュメンタリーにひとつのピークを形成した土本と大津は、いかにしてそこに到達したのか? その道程を明らかにしたかった。映画の中で土本は回想する。「ぼくにとってドキュメンタリーとはスタッフとの旅の記録である。水俣を撮る前に、ぼくのなかでもうそういう考え方ができあがっていた」。土本にとっての“旅の記録”は、キャメラマンである大津にとっては“まなざしの痕跡”と呼べるものかもしれない。予断を許ぬ、矛盾に満ちた現実を生きる「人間の内なる真実」を撮るドキュメンタリーの領域を開拓した土本と大津。この映画を編集し、二人の言葉に耳を傾けながら、ドキュメンタリーとは「まなざしの旅」の記録ではないか、という考えが浮かび、題名を決めた。この旅の記録は五章に分かれている。透明な「痛みや悲しみ」の映像が溢れれば溢れるほど、不透明な真実はみえづらくなる。“鬼”がいなくなり、“仏”ばかりになったとき、ほんとうの悪霊が現れる。映画『まなざしの旅』は、見る者に“鬼”になる覚悟を迫ってくる。

(監督 代島治彦)

C R E D I T
映画美学校2008年度ドキュメンタリー高等科生
五十嵐恭子 今泉秀夫 木邨千尋 杉本暁子 鈴木洋三 舘野素子 環 健一郎
中田 文 渕脇 勤 美野大輔 保田則子 吉田孝行 渡辺真吾
撮影指導・題字:大津幸四郎 録音指導:奥井義哉
整音:米山 靖(ヒポ・コミュニケーションズ) 音楽・演奏:パスカルズ
映像提供:映画同人シネ・アソシエ ビジュアル・トラックス 記録映画保存センター 青林舎 シグロ 自由工房 ユーロスペース アテネ・フランセ文化センター 写真提供:映画同人シネ・アソシエ 奥村祐治 井坂能行
協力:岩佐寿弥 久保田幸雄 東 陽一 土本典子 伏屋博雄 藤岡朝子
藤原敏史 山上徹二郎 山形国際ドキュメンタリー映画際
公式サイト:http://a-shibuya.jp/archives/424

関連情報

特集上映『反権力のポジション―キャメラマン 大津幸四郎』

全共闘、三里塚、水俣……。反権力のポジションから1960年代以降の日本現代史と対峙しつづけるキャメラマン大津幸四郎。彼が撮影した21本の映画と関連作品3本を、多彩なゲストトークをまじえて特集上映する。

『反権力のポジション―キャメラマン 大津幸四郎』本企画は、1958年に岩波映画に入社して以来、戦後日本のドキュメンタリー映画を支えてきた大津幸四郎キャメラマンを特集上映する企画である。大津幸四郎の仕事といえば、土本典昭監督との協働作業である水俣シリーズをまず挙げることができるが、今回の特集では、実質的なデビュー作『圧殺の森』(小川紳介監督)や水俣シリーズの到達点『医学としての水俣病(三部作)』(土本典昭監督)はもちろん、劇映画や外国人監督によるもの、佐藤真監督をはじめとする若手監督との仕事を追うことで、その柔軟な発想にもとづいた独自の撮影方法で、日本の現代史に向き合ってきた、ひとりの映画キャメラマンの足跡をたどりたい。
本特集の企画中に東日本大震災が発生し原発事故が引き起された。混迷の時代に映画ができることは何か。本企画は、大津幸四郎という映画キャメラマンの仕事を通して、それを問い直す作業にもなるだろう。

上映作品一覧(21作品+関連3作品/公式サイト)

大津幸四郎 キャメラマン
1934年、静岡県生まれ。1958年静岡大学文理学部を卒業後、岩波映画製作所に入社。5年間撮影助手としてつとめるが、PR映画に限界を感じ退社。同時期に岩波を退社した土本典昭と小川紳介のキャメラマンとして活動。被写体に皮膚感覚で迫る柔軟なキャメラワークで注目を浴びる一方、現場を読む力によって「大津のいるところで何かが起きる」という伝説を生むなど、日本映画界の最前衛に立つキャメラマンとしての評価を固めた。劇映画にも進出、黒木和雄監督『泪橋』(83)、沖島勲監督『出張』(89)などの作品を残す。90年代以降は積極的に若手映画作家と組み、佐藤真、ジャン・ユンカーマン、熊谷博子などの作品を撮影した。2005年に自ら撮影・構成した作品『大野一雄ひとりごとのように』を発表。もともと演出家志望だった大津は70代にしてついに監督デビューを果たした。

トークゲスト(出演順)14名×大津幸四郎
鎌仲ひとみ(映像作家)鈴木一誌(グラフィック・デザイナー)舩橋淳(映画作家)丸谷肇(映画作家)沖島勲(映画作家)大野慶人(舞踏家)平野克己(映画作家) 吉増剛造(詩人)石坂健治(映画研究者)代島治彦(映画製作者)ジャン・ユンカーマン(映画作家)熊谷博子(映像作家)藤原敏史(映画作家)葛生賢(映画批評家)

2011年6月3日(金)~16日(木)まで、オーディトリウム渋谷にて開催

大津幸四郎 第一回監督作品 大野一雄 ひとりごとのように [DVD]
大津幸四郎 第一回監督作品 大野一雄 ひとりごとのように [DVD]
  • 監督:大津幸四郎
  • 出演:大倉正之助, 佐藤陽子, 大野一雄, 大野慶人, 磯崎新
  • 発売日:2007-12-20
  • Amazon で詳細を見る
〈愛蔵版〉ドキュメンタリー映画の地平 [単行本]
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2011/06/01/11:33 | トラックバック (0)
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