
第24回TAMA NEW WAVE コンペティション部門 入選
うえだ城下町映画祭 第21回自主制作映画コンテスト 大賞
カナザワ映画祭2023「期待の新人監督」期待の新人俳優賞受賞/櫻井成美
平坦な戦場で


2025年7月5日(土)より池袋シネマ・ロサで劇場公開!
日常が、人を殺す。
それでも僕らは、誰も殺したくない。
高校2年、冬。早崎のぶえと村木智也は仲睦まじく過ごしていた。
ある夜、村木は路上で泣いていた女性を家まで送り届けるも、突然女性から「お金は払うから、抱いてほしい」と頼まれてしまう。
すでに断れる空気ではなく、村木はやむをえず女性を抱くことに。しかし、この経験がトラウマになった村木は、学校を休むようになる。
のぶえは村木のいない日常に、孤独を募らせていく……。
恋人として平穏な日常を送っていたはずの高校生の男女が思わぬ形で性的搾取と遭遇する物語を通じて、多くの人々が「ただの日常」と受け入れてしまう属性への偏見や経済格差が蔓延する社会と、それらがもたらす人間の孤独と苦悩を綴った映画『平坦な戦場で』。
第24回TAMA NEW WAVE コンペティション部門で入選 、うえだ城下町映画祭 第21回自主制作映画コンテストで大賞を獲得した本作。監督・脚本の遠上恵未は、“若い女性”という社会に押し付けられる属性に囚われる24歳当時の自己と向き合った『遠上恵未(24)』がぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2020で入選。初の長編監督作である本作では、男性自身もまた押し付けられる性の属性をはじめ、人間を孤独へと追い詰める現代の日常をより多面的かつ切実に描き出した。
そしてW主演を務めたのは『犬も食わねどチャーリーは笑う』『春の結晶』に出演し、本作でカナザワ映画祭2023「期待の新人監督」期待の新人俳優賞を受賞した櫻井成美と、『ドクター・デスの遺産』『脳天パラダイス』に出演し、ぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した『未亡人』など自身も自主映画を監督する野村陽介。それぞれの心の痛みに苛まれながらも共に“生き延びる”方法を模索する主人公たちを繊細に演じた。


- 孤独な人たちが出てくる。
ペットのウサギの死が耐えきれず、男子高校生に金を渡し、性交を迫る中年女。
お金を出せばやってあげる、と高校生たちのあいだで有名な若い女。
「性」を糸口に他人と接点を持つ女たち。彼女たちの目が、喋り方が、そこにいる居方が、とてもリアルだ。
孤独が肌にしみついて、それは彼女たちを侵食し、分かち難い。歩く孤独そのもの……。
彼女たちは主役ではない。主人公のひとりである少年をさらなる孤独の「平坦な戦場」に呼び込み、並走させる者たちだ。
彼女たちの孤独が圧倒的なリアリティで少年に迫る。全ての人たちが孤独のタコツボに閉じこもっている日本が、六畳間にふいに現れる。
日本はどこに行ってもそう。出口なんてない。その中で生きて行くには……。
圧倒的な絶望の中で、小さな声で希望を呟こうとする遠上監督にやられた。傑作です。――古廐智之(映画監督) - 2020年代の現代社会について、人間関係の痛みと後悔とわずかな温もりとのなかで安易なジャッジをせずに描ききっているところにとても感銘を受けた。
分断が加速するこの時代において、微光のような共感のありかを信じては探し、見出した本作の眼差しはまさに映画の役割という気もして、この作品が響くかもしれない観客たちに、いますぐ届いてほしいとまで感じさせられた。
――宮崎洋平(TAMA NEW WAVE ディレクター)


- ウィリアム・ギブスンの詩の断片を思わせる “平坦な戦場で”、これは漫画「リバーズ・エッジ」(岡崎京子)でも引用された言葉だ。1990年代の岡崎の作品は、窒息しそうな若者の空気感を音楽と色で彩った。
だが2020年代を映す遠上恵未監督の平坦な戦場は、それは空気もない宇宙のように静かだ。登場人物は苦しみの中、鳴けないウサギのように静かで、平地がゆえに隠れる場所もない。途方に暮れるほど平らな静けさの中、抜身のナイフのような緊張感と共に、いつしかわたしも愛を探していた。これはドラマではなくて映画。映画とはこういうものだったなと思い出させてくれた。
――岡田裕子(現代美術家) - 『平坦な戦場で』は特別な出来事を描くわけではない。けれどもそこに映し出される光景は心をかき乱す。
すぐ隣にある違和感や息苦しさ、多くの人が気づかぬふりをしているその揺らぎをカメラは捉える。
櫻井成美と野村陽介は感情を押し出すでもなく感傷に流れるでもなくただその場に『いる』。
彼らの佇まいこそがこの作品の説得力になっている。
遠上恵未監督も登場人物たちの揺らぎに静かに寄り添う。その距離感はむしろ深い関心の裏返しだ。
この映画は誰かの物語ではなく観客自身の経験と向き合うための装置として機能している。
問いかけられるのは物語ではなくあなたの居場所そのものだ。
――佐藤佐吉(映画監督・脚本家・俳優) - 『平坦な戦場で』とは自分が審査員をしていたカナザワ映画祭で出会いました。
審査しなくてはいけない立場でありながら、この作品は映画祭ではなく、映画館でこの作品にお金を払って観る観客からいろんな感想をもらうべき、と興行者の意見が浮かんでしまいました。
それはなぜか。
遠上監督はもちろん、キャスト・スタッフの皆さんが観客の顔を想像して演出できていること。
これは映画館で皆さん、体験して、『平坦な戦場で』を育ててほしいです。
もちろん、シネマスコーレでも上映します!――坪井篤史(「シネマスコーレ」支配人)


- 高校生の時、大好きで付き合えた彼と
セックスしたことを思い出しました
どうしようもない村木に呆れ笑い
面白い映画なのだと感じました
理性やお金を考え過ぎて、社会に閉じ込められて
生きるということ、真情の発露がない
何か自分という存在が殺されてどんどん曖昧になっていく感じ
そんな中でも、のぶえとホームレスの女性の
素敵な一夜の絵空事
布団で横になって
ただ泣いていた彼女の涙から目が離せなかった、
私の想いも彼女の涙の中にいた、
嬉しいのか、悲しいのか、口惜しいのか、惨めなのか……
私だけではない、村木やのぶえの感情も
彼女の涙の中で溢れ出したような、
私はあのシーンがとても好きです――南阿豆(舞踏家) - この社会では性的搾取や虐待の被害に遭う属性は圧倒的に女性のほうが多いが、この映画ではそれが智也という男子高校生として設定された。
『平坦な戦場で』はそうしてジェンダーを反転させ、別の角度、新たな視点からこの社会をまなざそうとしてみせる。
その意思はメインプロットに留まらず、物語の至るところに鏤められている。
スクリーンに映し出された平坦な光景に見えるそこではいったい何が変質し、何が水面下で蠢いているのか。観客はそれこそを注視しなくてはならない。わたしたちが闘わなくてはいけない「敵」は、そこら中に影を潜め、そしていつも凡庸な顔をしているものなのだから。――児玉美月(映画批評家) - 万札をマグネットで冷蔵庫に貼り付ける父親に虫酸が走り、空気を読まないと生き抜けない友達関係にうんざりする。
繰り返される平坦な日常は、ただのコピペや反復ではない。
たった一つの亀裂でいとも簡単に崩れ、2人の高校生男女はより外の孤独な者たちと出会い、さらなる戦場へと導かれる。
私の心は散々かき乱されるが、孤独を知る者こそわかち合える微かな希望の表出に、ぼっと火が灯った。
安易な希望を描かない遠上監督の眼差しと姿勢に共感を覚え、この作品を通じて知らない者同士が繋がれたら素敵だなと想像しました。――市井昌秀(映画監督)


- 可笑しさはせつなく、哀しさはやるせない。遠上恵未監督は、そんな人間という存在のどうしようもない可笑しさや哀しさに対して、真正面から誠実に繊細に対峙している。淡々と繰り返される日常がふとしたはずみで変容したあとの、人の善意も悪意もとどかない向こう側は、どこまでもせつなくやるせない。でも、僕らが平坦な戦場で生き延びるために必要な人間関係はようやくそこから始まるのだ、と教えてもらった。
そして、この作品には、僕も知っている玉りんどさん、大河原恵さんが出演しているのだけれども、自分にはついぞ引き出せなかった彼女たちの魅力が画面に充満していた。そのことで密かに嫉妬を覚えたのは、ここだけの話である。
――菊地健雄(映画監督) - 生きているかぎり、日常は常に戦場なのかもしれない。
しかし遠上恵未は、どのような環境下であろうとも、自分であろうとすることをあきらめず、目の前の違和感を、存在を、痛みをなかったことにしない。
その一点でもって、私は今後も遠上恵未の作品を観続けるだろう。
――木村奈緒(ライター) - この作品は、やさしく繊細な高校生カップルの動静から、この社会の息詰まる「平坦」さの呪縛をあぶり出す傑作だ。そのブレッソン的なショットの積み重ねは、静謐ななかにも尖鋭に、いかんともしがたい日常の閉塞感を描き出す。
そして乾いたセックスの売買をめぐる青春の悲喜劇を通して、遠上恵未監督はヒステリックなフェミニズム称揚やセクハラ批判の次元をしなやかに跳躍し、われわれを縛る不自由なこわばりを解くヒントを見せてくれるだろう。
――樋口尚文(映画評論家・映画監督)
玉りんど,佐倉萌,竹下かおり,安藤チカラ,つかさ,山田荘一朗,上野山圭治,金子翔,大野やすひろ,大河原恵
監督・脚本・編集:遠上恵未
撮影:井坂雄哉 録音・整音:若杉佳彦 照明:奥田夏輝 美術:鶴優希 撮影助手:堂脇和奏
助監督:川島崇 小川将也 遠上明希 深見はまる 安藤チカラ
カラーグレーディング:奥田夏輝 井坂雄哉
宣伝デザイン:Do Ho Kieu Diem 宣伝:河合のび(Cinemago)
2023年/⽇本/78分/カラー/ステレオ/R-15
©2023/遠上恵未
※性被害の問題を一部扱っていますが、直接的な描写はありません。
フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。