すべて、至るところにある
2024年1月27日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開
旧ユーゴスラビアの巨大建造物を背景に、
現実と虚構を行き来するラブサスペンス!
パンデミック、戦争、混沌とした現代に問いかける
サイバーパンクな叙事詩──
エヴァは旅先のバルカン半島で、映画監督のジェイと出会う。その後、パンデミックと戦争が世界を襲う。ジェイはエヴァにメッセージを残し、姿を消してしまう。エヴァはジェイを探しに再びバルカン半島を訪れ、かつてエヴァが出演した映画が『いつか、どこかで』というタイトルで完成していたことを知る。セルビア、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナでジェイを探す中で、エヴァはジェイの過去と秘密を知ることになり……。
大阪を拠点に、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属さず彷徨う“シネマドリフター(映画流れ者)”を自称する映画監督リム・カーワイ。未知の場所をひとりで訪ね、その場所の人々と出会い、その土地の、その瞬間を切り取っていく前代未聞の制作スタイルの原点になったのが、バルカン半島だ。
妻に逃げられたトルコ人男性を主軸に、東ヨーロッパで現地の人びとと即興で作り上げた異色ドラマ『どこでもない、ここしかない』(2018)で、即興性を取り入れた制作スタイルを取り入れた。続くバルカン半島2作目は、アジア人女性のバックパッカーの目を通して、バルカン半島の歴史と変化に翻弄された人々の生活を映し出したロードムービー『いつか、どこかで』(2019)で、そのスタイルを確立した。
3部作の完結編となるのが『すべて、至るところにある』は、その集大成ともいうべき完結編だ。
ある映画監督の消息を訪ねてバルカン半島を旅する主人公エヴァ役に、『いつか、どこかで』の主役で2013年度ミスマカオのアデラ・ソー。エヴァをバルカン半島に再び呼び寄せるきっかけを作る、映画監督ジェイ役に、『COME & GO カム・アンド・ゴー』(2020)『あなたの微笑み』(2021)にも出演する、リム・カーワイ作品に欠かせない存在となっている尚玄。
劇中の重要なキーアイテムとなるのは、リム監督がバルカン半島で撮影した、『どこでもない、ここしかない』と、アデラ・ソーが主演した映画『いつか、どこかで』だ。なんとジェイがエヴァを主役に撮影した映画として登場する。『どこでもない、ここしかない』に出演したトルコ人のフェデル(フェルディ・ルッビシ)がジェイの友人として登場し、ジェイとの思い出を語りだすなど、バルカン半島3部作が絡み合い、現実と虚構が混ざり異空間にいざなわれていく。
本作は2020年に撮影されるはずであったが、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックによりストップしてしまった。リム監督は、パンデミック、戦争という全世界が体験した未曾有の現実の中で感じた孤独を、映画監督のジェイに投影し、バルカン半島3部作の完結編を完成させた。
バルカン半島はイタリア半島の海をはさんだ東側にあたる地域で、旧ユーゴスラビアの国が多数存在し、かつては「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれ、第一次大戦勃発の地となった場所である。バルカン半島3部作の見どころのひとつに、バルカン半島の美しい風景がある。本作では、セルビア、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナを巡る中で、美しい景色、旧ユーゴスラビアの巨大建造物(スポメニック)、世界遺産となっているモスタルの橋などが映し出され、その雄大な風景に圧倒される。バルカン半島の文化、歴史を背景に、コロナ禍、戦争がもたらした人間の孤独と希望を映し出されていく。
国境と言葉を超えて映画を作り続ける、旅する映画監督(cinema drifter)リム・カーワイならではの無国籍映画の真骨頂ともいえる完結編が完成した。
公開記念トークイベントスケジュール @イメージフォーラム
※すべて上映後のトークイベント
1月27日(土)13:30回 リム・カーワイ監督×アデラ・ソー(本作出演)
1月28日(日)13:30回 リム・カーワイ監督×田中泰延(作家)
1月29日(月)13:30回 リム・カーワイ監督×アデラ・ソー(本作出演)
18:30回 リム・カーワイ監督×舩橋淳(映画監督)
1月30日(火)13:30回 リム・カーワイ監督
1月31日(水)13:30回 リム・カーワイ監督
2月1日(木)18:30回 リム・カーワイ監督×川和田恵真(映画監督)
2月2日(金)13:30回 リム・カーワイ監督
2月3日(土)13:30回 リム・カーワイ監督×星野藍(写真家)
18:30回 リム・カーワイ監督×柘植伊佐夫(人物デザイナー)
2月4日(日)13:30回 リム・カーワイ監督×金平茂紀(ジャーナリスト)
2月5日(月)13:30回 リム・カーワイ監督
2月6日(火)13:30回 リム・カーワイ監督×足立紳(映画監督・脚本家)
2月7日(水)13:30回 リム・カーワイ監督
2月8日(木)13:30回 リム・カーワイ監督
2月17日(土) 尚玄(本作出演) ※上映時間は劇場HPにてご確認下さい
- 柴崎友香(作家)
行ったことのない場所も今は行くことのできない場所も、ずっとそこにあるし、そこで生きている人の生活があって、だから私たちはいつか、もしかしたら今、そこへ行くことができる、その場所をこの映画は映している。 - 金平茂紀(ジャーナリスト)
この映画の本当の主人公は、スポメニックと呼ばれる旧ユーゴスラビア時代の巨大戦勝モニュメント群、あるいはそれを取り囲むまわりの「風景」にあるだろう。
リム・カーワイはこの映画で戦争、そしてパンデミックによって瀕死の状態に陥った記憶を描きだしているだ。
この映画の自由奔放さは映画の希望である。 - アンジェラ・ユン(俳優)
主人公ふたりのミステリアスな関係に心惹かれた。そして虚無感に満ちた広大で美しい風景に引き込まれた。 - 岡本多緒 (俳優)
訪れたことのないバルカン半島、なのに映画を見進めて行くにつれて、不思議と懐かしくなる。 - 三宅唱(映画監督)
映画に抗い、それでも映画にすべてを賭けること。世界を疑い、それでも世界を信じること。主人公ジェイの「一緒に映画を作ろう」という合図で、出会った全員を巻き込んでいくサスペンスの幕が上がる。まるでドン・キホーテの無謀さを思わせもするこの旅の、予想のつかないシーンの連鎖、ショットの連鎖にわたしたち観客も巻き込まれていくうち、劇場にいながらにして、ここではないどこかに至る。そしてなんだか「ありがとう」という気持ちになるのが、リム・カーワイの魔法にかけられたようで爽快。ともかく、ジェイを演じる尚玄の類稀な紳士感によって絶妙に可笑しく絶妙に切ないコメディのようにもみえるのが最高で、それだけで、もう一度この旅をまだまだずっと追いかけたくなる。
- 樋口泰人(boid主宰/映画批評家)
映画とはそれぞれが「スポメニック」であるとも言える。映画作りとは至るところに「スポメニック」を建造する試みである。
スポメニックは至るところにある。
そしてわれわれは映画がある限りそこから聞こえてくる姿なき人々の小さな声を聞き続け、それらに導かれながら自身の人生を歩むことになるだろう。
われわれは何と戦うのか何から解放されるのか、映画からは常にそんな問いかけが聞こえてくるだろう。 - 相田冬二(映画批評家)
別れのための構築。再会のための破壊。そして、モニュメントすべては、至るところにある。 - 柘植伊佐夫(人物デザイナー)
モニュメントを作るのもモニュメントを巡るのも自分である。モニュメントを忘れるのもモニュメントに失望するのも自分である。しかしそれらの記憶は無意味ではない。記憶を失くせば苦しみから逃れられるけれども生きる喜びも失う。詩人リム・カーワイの淡い色の映像からそんな声が聞こえた。 - 倉持明日香(タレント)
人間とは愛とは、希望とは。
美しき自然の中に散りばめられたぬくもりを、壊さないよう紡いでいく旅でした。 - 田中泰延(作家)
リム・カーワイ監督は「サイバーパンクなラブサスペンスです」と言っていたが、ぜんぜん違う。これはバルカン半島の風景の中で交差する、過去と未来、孤独と邂逅、創作と日常、愛と嫌悪、戦争と平和、生と死の叙事詩だ。そんな壮大なテーマを語りすぎず、すべてを映像で語るストイックさが絶妙な映画だった。 - 星野藍(写真家)
孤独とは、終わらない旅の入り口なのかもしれない。
過去と現在、夢か現実か。錯綜する幻想風景は残酷な現実の延長線にある。 - 真利子哲也(映画監督)
淡々と進むバルカン半島を巡る映画を観ていて、自分がどこにいるのか分からなくなる。どこか可笑しく控えめで、それでいて野心的でデタラメで、みんなに認められることじゃないかもしれない。それでもリム・カーワイは命をかけて映画をやっている。映画は彼の生き様だ。所在ないまま、漂流し続けるなんて誰にでもできることじゃない。だから彼の映画はいつもとても優しくて、愛おしい。
- 舩橋淳(映画監督)
ただならぬサイバーパンク・ミステリー。
一見、おだやかな中欧の日常を捉えたロードムービーかと思えば、旅する映画監督(無論、LKWの現し身だろう)の目線を通して、バルカン諸国のきな臭い歴史と痛みが滲み出て来て、それが現代の破綻しゆく世界と呼応しているかのよう。
若き日のヘルツォークの狂気と、西部劇の荒野、本家WKW 的な粘り気のあるラブがミックスされて、トラベルミステリーとして仕上げられている異様な傑作! - 森直人(映画評論家)
混沌と祝祭、追憶と流浪のメタシネマ。監督の自画像が特異な妄想に包まって表出されているという意味で、これはリム・カーワイの『8 1/2』と呼ぶに相応しい。 - Mary Stephen (映画編集)
この混乱した絶望的な時代に、私たちはどうやって自分の方向性を保つのだろうか。リム・カーワイは再びバルカン半島を彷徨いながら自分の人生を重ねながら映画を撮った。
今日の大量生産されたマス・フォーマットの「産業映画」の世界で、彼の作品はとても新鮮であり、麻痺した感覚や思考を目覚めさせるために、発見する価値がある。 - Jim Stark(プロデューサー/『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』(ジム・ジャームッシュ監督)等)
観客をバルカン半島のシュールなロードトリップに連れ込み、最後はこの世のものとは思えないほど素晴らしい所にたどり着かせる。リム・カーワイは注目すべき才能の持ち主だ。 - Edvinas Puksta(タリン・ブラックナイト映画祭キュレーター)
常に実験的なことに挑みつづけ、とどまることを知らないリム・カーワイ。
おそらく彼は、バルカン諸国での撮影を頻繁に敢行する、唯一のアジア人映画監督である。
『すべて、至るところにある』は、ボスニア・ヘルツェゴビナでの戦争と虐殺の過酷な歴史的記憶、コロナ禍の悲しい現実、ロードトリップの冒険的な意外性、そして本物の巨大モニュメントを使った不気味で独創的なファンタジーだ。
即興的でミステリアスな、悲哀に満ちていながら愉快!こんなにも魅了的で独創的な物語はないだろう!
監督・プロデューサー・脚本・編集:リム・カーワイ
撮影:ヴラダン・イリチュコヴィッチ 録音・サウンドデザイン:ボリス・スーラン 音楽:石川潤
宣伝デザイン:阿部宏史 配給:Cinema Drifters 宣伝:大福
2023|日本|カラー|DCP|5.1ch|88分
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