アンジェリカの微笑み
公式サイト 公式Facebook 公式twitter2015年12月5日(土)より、Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー
現役最高齢監督として国際的に知られ、2015年4月2日に、惜しまれつつも106歳で永眠した世界の巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ。そのオリヴェイラ監督が101歳の時に撮り上げ、第63回カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門のオープニングを飾った『アンジェリカの微笑み』が、紆余曲折を経て、ついに日本公開される。本作はもともと、オリヴェイラ監督が1952年に脚本を執筆したものだが、その後映画化されないままになっていた。当初は、第二次世界大戦におけるホロコーストの記憶が生々しく残され、ナチス・ドイツの迫害を逃れてポルトガルに移り住んだユダヤ青年である主人公のアイデンティティが強調されていた。それを半世紀以上の歳月をかけて熟成させ、混沌とする世界情勢を背景に監督自らが書き直して、現代の物語として完成させた、まさに、芳醇な極上ヴィンテージワインのような傑作である。
ポルトガルはドウロ河流域の小さな町。カメラが趣味の青年イザクは、ある夜、若くして亡くなった娘アンジェリカの写真撮影を依頼され、町でも有数の富豪の邸宅を訪れる。白い死に装束に身を包み、花束を手に抱えて横たわる、かの娘にカメラを向けると、その美しい娘は、突然瞼を開きイザクに微笑みかける。その瞬間、イザクは雷に打たれたように恋に落ち、すっかりアンジェリカの虜になってしまうのだった。
絶世の美女アンジェリカの神秘に満ちた美しすぎる微笑みに心奪われ、日頃の愁いも忘れて、昼も夜もアンジェリカに想いを馳せるイザク。その想いに応えるように出没するアンジェリカの幻影。
一瞬にして重なり呼応する愛の波動が、この世とあの世の境界を飛び越え、ふたつの魂を引き寄せる。生と死、夢と現実、静寂と喧騒、手仕事と機械化、物質と反物質など真逆のエレメントの数々が、この運命的な出会いを際立たせ一層の深みを与えている。魔術的な語り口に長けた映画作家オリヴェイラ監督だからこそ創り得た、ミステリアスで驚くほど瑞々しい、時空を超えた愛の幻想譚である。
青年イザクを演じるのは、『夜顔』(06)『ブロンド少女は過激に美しく』(09)など、オリヴェイラ映画の常連俳優であり、監督の実の孫でもあるリカルド・トレパ。一方、『女王フアナ』(01)『シルビアのいる街で』(07)などの人気女優ピラール・ロペス・デ・アジャラがアンジェリカに扮し、うっとりするほど艶美な微笑みで観る者すべてを魅了する。
加えて、レオノール・シルヴェイラ、ルイス・ミゲル・シントラ、イザベル・ルートほか、オリヴェイラ一家とも呼べるベテラン俳優たちが脇を固め、日常の何気ない行為や会話に、そこはかとないユーモアや年輪を感じさせるエスプリを散りばめた、オリヴェイラ映画独特の世界観を支えている。
ドウロ河の川面に、町の灯がおぼろげに映る夜の風景が、とりわけ秀逸な撮影を手がけるのは、『家路』(01)や『夜顔』でも手腕を振るっているサビーヌ・ランスラン。アンジェリカの姿を鮮やかに浮き立たせて、イザクとの運命的出会いを鮮烈に印象づける写真撮影の場面や、イザクとアンジェリカが宙を浮遊するモノトーンの幻想シーンなど、端整で抒情あふれる映像美は卓越している。
さらに、監督のお気に入りのピアニストで、日本でも人気の高いマリア・ジョアン・ピリスが奏でる、ショパンのピアノソナタ3番などが深々と胸に染み入る情感を喚起する。一方農夫たちが歌う朴訥とした労働歌はどこかユーモラスであり、そのコントラストも絶妙だ。
舞台となるドウロ河は、オリヴェイラ監督が生まれ育った、ポルトガル第2の都市ポルトを流れる大河。オリヴェイラ監督の思い入れも深く、デビュー作であるドキュメンタリー『ドウロ河』(31)や『アブラハム渓谷』(93)をはじめ、その流域を舞台にした作品は数多い。
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:サビーヌ・ランスラン 録音:アンリ・マイコフ 編集:ヴァレリー・ロワズルー
美術:クリスティアン・マルティ、ジョゼ・ペドロ・ペーニャ 衣装:アデライド・トレパ
メイク:イグナジ・ルイス 理髪:ピラルツォ・ディエス 助監督:ブルーノ・セケイラ
製作主任:ジョアン・モンタルヴェルヌ
出演:リカルド・トレパ,ピラール・ロペス・デ・アジャラ,レオノール・シルヴェイラ,
ルイス・ミゲル・シントラ,イザベル・ルート
2010/ポルトガル・スペイン・フランス・ブラジル/97分/カラー/原題:The Strange Case of Angelica
配給:クレストインターナショナル
© Filmes Do Tejo II, Eddie Saeta S.A., Les Films De l’Après-Midi,Mostra Internacional de Cinema 2010
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