終わりゆく一日
http://day-is-done.com/
2013年10月26日(土)より、ユーロスペース他 全国順次公開
躍動する都市のパノラマ、別れを告げる留守番電話の伝言、
男の心を代弁するボブ・ディランの歌。
スイス・チューリッヒのとある部屋で
15年にわたって定点記録された人生の断片が、
さまざまな愛について語り始める。
鮮烈な映像と赤裸々な音の奇跡的な連なりが、
観る者にあらゆるエモーションを追体験させる究極の叙情ドキュメンタリー。
チューリッヒの工業地域にあるスタジオ。古い35ミリのカメラを構え、窓の外の風景を撮り続ける男がいる。空を突き刺す巨大な煙突。雲を横切る鳥の群れ。轟音をたてて行き交う列車。行進するブラスバンド。キスする恋人たち。建設中の高層ビルの上で旋回するクレーン。昼夜を分かたず、雨の日も雪の日も窓辺に立ち続ける男は、都市の景観の中に一体何を見つけようとしているのか?
男の背後では、留守番電話の伝言が流れている。「もしもし、今何してるの?」「湖に泳ぎに行かない?」「残念ですがあなたの企画は会議で却下されました」「埋葬の日どりを決めたわ」「今チビちゃん起きたところ」「どこに雲隠れしたのか知らないけど、もう言うことはないわ」「君は逃げ出したのか」「世界で一番大好きなパパ」……。映画作りにおける葛藤、親の死、我が子の誕生、パートナーとの別れ。機械に残された親しき者たちの声が、男の人生を浮かび上がらせる。
やがて、一言も発しない男の気持ちを代弁するかのように、歌が響き出す。ボブ・ディラン、シド・バレット、ジェイソン・モリーナ、ビル・キャラハン、ジョン・フルシアンテ、コナー・オバーストetc。孤高のミュージシャンたちの研ぎ澄まされた詞とメロディが、失われた時と新しい始まりを告げる……。
『終わりゆく一日』(原題はニック・ドレイクの曲名からとった“Day is Done”)は、スイスのインディペンデント映画作家トーマス・イムバッハが一人の男の15年を綴った自伝的作品である。常に斬新な手法でドキュメンタリーとフィクションの境界に挑み続けるイムバッハは、ヨーロッパ映画界で異端のポジションを確立しており、その作品はベルリンやロカルノ国際映画祭などで注目を浴びてきた。本作では、1995年から2010年の間に撮りためた仕事場の窓の外の風景と、1988年から2003年の間に集めた留守番電話のメッセージというパーソナルな素材を組み合わせ、鮮やかに自分の人生を物語化してみせる。一方、監督の分身である主人公の声を担うサウンドトラックで、ロック好きにはたまらない名曲の数々をカバーするのは、この映画のために集まったスイスの気鋭ミュージシャンからなるバンド。ブルースやジャズの要素を含んだ彼らの美しい再解釈はめくるめく映像と溶け合って、観る者にいつまでも忘れがたい余韻をもたらすだろう。
監督からのメッセージ
90年代半ば、ドキュメンタリー『Ghetto』(1997)を制作中だった私は、完全にインディペンデントな体制でフィルム撮影をするために古い35 ミリカメラをオーバーホールに出した。以前『WellDone』(1994)で試みたように、最新のビデオカメラのテクノロジーと昔ながらのセルロイド素材を混ぜ合わせ、ビデオ映像の高速モンタージュとフィルムの陰影の濃い長回しを交互に並べてみたくなったのだ。カメラが使えるようになると、私は同時に仕事場からの眺めを撮り始めた。私は20年以上前からチューリッヒの駅の裏の工業地域にある元倉庫のロフトを仕事場にしている。越してきた時からずっと、窓の外に広がる素晴らしいパノラマに心を奪われてきた。それは絶えず変化し続ける光や天候が繰り出す24 時間の映画のようで、フィルムカメラを手にしたからには撮影せずにいられなかった。もちろん時には仕事に夢中で外に目を向けないこともあったが、たいていは窓の外の誘惑にかられて、まるで風景画に取りかかるかのように、カメラを構えて風景に没頭していた。
私のもう一つ長年の習慣が、留守番電話に残された伝言を集めることだった。最初は当時新しかった記録媒体そのものに興味を惹かれ、やがて伝言は時間が経過した証であることに気づいた。テープは父の危篤や息子の誕生といった、私の人生において重要な出来事にまつわる証言であり、また子どもの誕生と同時に関係が壊れていくカップルのストーリーを語っている。伝言からほのめかされる物語は、生と死、成功と失敗、別離と新しい始まりといった実存的なテーマを表している。
そして留守番電話ならではの日常的な口語によって伝えられるそれらの出来事は普遍性を帯び、映画の観客に彼ら自身の記憶を呼び起こさせる。
見たものと、聞いたもの、これら二種類の素材をどう組み合わせようかと何年も模索しているうちに、物語の構成が浮かび上がり、T というキャラクターが出現した。T を主人公に据えたことで、私は自伝的要素をドラマに昇華することができた。映画には、観客一人ひとりが埋めるための余白が多く残されている。T が何も言わないまま、何もしないまま放置した部分に怒りを感じる人もいるだろう。そして好奇心をかきたてられる人も。
監督:トーマス・イムバッハ
プロデューサー:アンドレア・シュタカ、トーマス・イムバッハ
脚本:トーマス・イムバッハ、パトリツィア・シュトッツ
撮影:トーマス・イムバッハ 共犯者:ユルク・ハスラー 編集:ギオン・レト・キリアス、トム・ラベル
演奏:Day is Done Band 音楽プロデュース:バルツ・バッハマン
音楽・サウンドデザイン:ペーター・ブレカー
製作:オコフィルム
原題 Day is Done |2011年|スイス|スイスドイツ語|カラー|1:1.85|111分|日本語字幕:松岡葉子
提供:フルモテルモ、コピアポア・フィルム、オープンセサミ
配給:フルモテルモ×コピアポア・フィルム © 2011 OKOFILM SRF ARTE Thomas Imbach
http://day-is-done.com/
2013年10月26日(土)より、ユーロスペース他 全国順次公開
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