塚本晋也監督 & 森優作
映画『野火』外国特派員協会記者会見レポート
2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
(取材:深谷直子)
森優作――戦闘シーンが大変だったと思いますが、撮影期間など製作について伺いたいと思います。
塚本 今回の映画でいちばん大事だったのは、フィリピンの本物の美しい自然を撮りたいというのが大テーマだったので、フィリピンでしか撮れない風景、ヤシの木だとか、ニッパヤシという日本でいう藁ぶき屋根のような南国独特の屋根の家だとか、また広大な風景そのものをフィリピンに撮りに行ったんですけど、これが思った以上に大変でした。これまでは「都市と人間」というテーマだったので身近なところで撮ればよかったんですけど、ジャングルというのはずっと行きたかった場所ではあるのですが、新しいチャレンジで本当に大変でした。低予算の映画なのでスタッフも少なく、自分たち数人で機材を運んだり、さらに演技をするのもやせた兵隊の役なので、お腹もペコペコの状態で何度も走ったりするのが大変でした。フィリピンではどうしても撮らなければならない僕が演じる主人公の田村と現地の方に出ていただくシーンを撮っただけで、あとは全部日本で撮っています。それも数々の大変なシーン、病院が爆発したりだとかはあるんですけど、これはむしろ熱い気持ちで集まってくれたみなさんの協力があったので、大変は大変なんですけど、いつもの自分の映画作りみたいな感じでやっていましたね。スタッフはボランティアがほとんどですが、僕が1着だけ買った軍服を50着に増やして、1丁だけ借りてきた銃を20丁に増やして、僕の難しい要望に見事に応えてくれました。
――戦争は、多くの場合政治が失敗したときに起こるものです。今世の中を見ると政治がうまく行っていないところがたくさんあります。この映画は前の戦争、第二次世界大戦の記憶を描く映画なのか、これからの世界に懸念していることを描く映画なのか、そのどちらなのでしょうか?
塚本 僕は昭和の真ん中ごろに生まれて、戦争は絶対あってはいけないこと、絶対悪というのが当たり前の世の中でした。だから、この映画を何十年も前から作ろうと思っていましたが、それは普遍的なテーマを豊かな原作で描きたいんだという思いからであり、戦争に近付く実感というのは当時はなかったんです。でも今は本当に戦争のほうに傾斜して突き進んでしまっているので、その危機感から今どうしても作らなきゃいけないと思ったその時点で、近未来に起こってしまう可能性のあることへの恐怖とか危機感を込めた映画になりました。ですから戦争映画というと、僕の大好きな『プライベート・ライアン』(98)だとかも白黒の雰囲気で、そのあと戦争映画というとみんなあの色合いにして過去にあったことの再現という印象ですけど、そうじゃなくて今現在目の前で起こっていることだという印象にお客さんになってもらわなければならないので極彩色のカラーにしましたし、映画のラストシーンで、戦場から帰ってきた田村が野火のイメージを見るシーンがありますが、これは過去の戦後のことなんですけど、演じているのは自分ですし、近未来の炎を本当に見てしまうことを憂いているつもりであの画にしました。ですから近未来に絶対にそうならないようにという願いを込めてというか、みなさんにそうなることをつくづく嫌だと思ってもらうように作った感じです。
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
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